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デウス・エクス・マキナは必要ない  作者: 絃城 恭介
第二章・英雄~Ein anderer Held~
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第二章・英雄 その五

六月十三日 午後



「で、早速だけど今日の目的地に向かわないか?」



 結局、午前中は霞さんを含めた四人で世間話などをしていたために、今日の目的である絃城家に向かうことはすっかり忘れていた……と言う状況だった。


 だが、流石は提案者なだけあって悠里はしっかりと目的を覚えていた。



「ああ、うん。そうだね。元々、今日はそのために此処に集まったんだし」

「で、羽森……お前は此処に残るのか?」



 悠里は霞さんと楽しげに会話をしている彼女に向かって呆れながらに尋ねる。



「どうしてそんなに呆れた風に聞くんですか?」

「そりゃ、呆れるだろ。なんで仕事をしている霞さんの髪結ってるんだよ?」

「?」

「ああ、まあいいか……で、どうするんだ?」



 再び、彼女に確認を取る悠里。それに対して彼女は、霞さんの髪から手を離して少し考える仕草をしたかと思うと答えた。



「勿論、着いて行きますよ」



 そして、答え終わると共に再び霞さんの髪を結い始めた。



「なあ、結衣くん?」

「なんですか?」



 すると、先ほどまで成すがままに髪を結われていた霞さんが不思議そうに口を開いた。



「君は今神くんたちと一緒に行くのだろう?」

「そうですけど…何か?」

「………」

「………」



 霞さんなりに必死に理解してもらおうとしているが、当の本人である彼女は全く言葉の意味を理解していない。



「今神くん…すまない」



 どうやら、霞さんは諦めたようだ。僕は心の中で、大丈夫ですよ、と呟くと、霞さんは申し訳なさそうな顔をして彼女に髪を弄られるのだった。



「ま、仕方ねぇかな……ありゃ」



 ずずっと、コーヒーを飲みながら悠里は諦めたように呟く。ちなみに今、悠里が飲んだコーヒーは霞さんのオリジナルブレンドである。ちなみに、最初に注文をした『七色コーヒー』は霞さんが流してしまったために、口直しを含めて霞さんがサービスしてくれたものだ。



「そうだね……女の子ってああいうことするの好きだからねぇ」

「ほー、こういうことに慣れてるんだな」

「まあ…ね」



 そう答えて、僕はコーヒーを口に含む。そして、あの頃のことを思い出す。



「わりぃ…事情は大方察した」

「いや、別にいいよ。思い出は思い出すことに意味があるんだしさ。それに、思い出を磨耗して思い出せなくなるようにするくらいならさ、こうして誰かに話したり、思い出させてもらえるほうがいい……僕はそう思ってるから」



 僕の言葉を聞いた悠里は、ぼそりと呟くように言った。



「強いんだな…お前はさ……」



 だが、その言葉は何かを含んでいるようにも聴こえた。だけど、僕にはその言葉にどんな意味があるのかを理解できない。


 でも、きっと分かる日が来るはずだ。だから、僕は答える。



「そんなことないさ」



 強さとは人それぞれ、千差万別だ。悠里の考えている強さと、僕の考える強さはきっと別のものだ。だから、僕には曖昧に言葉を返すことしかできない。



「いいや、お前のそれは力とは別の強さ―――」「できたぁ!!」

「……なんだって?」 



 悠里が言葉を最後まで言い切ることなく、彼女の声によって意識が逸れてしまった。



「いや、俺が聞きたい……何があった?」

「察するに、霞さんの髪が仕上がったんだろうね」



 僕と悠里はほぼ同時に横に顔を向ける。


 そこにはサイドポニーに綺麗に結われた霞さんの恥ずかしそうな顔と、達成感によってか満面の笑みを浮かべている彼女の顔があった。



「い、今神くん……た、頼むから見ないでくれ…うぅ」

「何言ってるんです、こんなに可愛いのに!」



 赤面しながら懇願してくる霞さん。そして、霞さんに頬ずりをしている彼女。


 ―――ここって、喫茶店だよね?



「奏龍……この場合は見るべきか…それとも見ないべきなのか?」

「いや……まあ、本人が見るなって言ってるんだし、見ないほうがいいんじゃないのかな?」

「けどよ、あの可愛さは犯罪的だぜ? さっきまで可愛いって言うより美しいって印象だったのに、今じゃその両方を兼ねそろえているんだ!」

「だから?」

「見なきゃいけない使命感に狩られる!!」



 そう言って、悠里は赤面している霞さんの顔をまじまじと直視していた。



「ねえ……今の質問に意味はあったのかい?」



 そう尋ねると、悠里は振り向かないままに親指を立てて答えた。


 ――――ああ、なんてデジャヴュ。その親指…折 ら れ た い の か ?



「無い!」



 瞬間、僕は悠里の親指を掴み、本来曲がってはいけない方向にゆっくりと倒す。



「ちょっ、これ! なんてデジャヴュ!?」

「折れろ♪」

「痛い、痛い、痛いって!! 痛いからやめて! マジで折れる、今度こそ折れるって!!」



 ギリギリと骨が軋んでいく感覚が手に伝わってくる。後、数ミリ動かせば悠里の親指は変な音を立てて折れるか、脱臼するだろう。



「ちょっ、何でそんなにいい笑顔なんだよ!?」

「馬鹿は死んでも治らないらしいね」

「成績は俺のほうがお前より―――」



 寸での所で悠里の親指を解放する。



「次は首かな?」



 そして、冷ややかな目で悠里を見ながら脅すように呟く。



「いや、マジでゴメン。俺が悪かった」



 すると、その視線に気負けしたのか悠里は力なく僕に謝るのだった。



「まあ、分かればいいんだよ。分かればね」

「あのさ、絶対にお前……昔に何か習ってただろ?」



 指をいたわるように手をカウンターに置くと、悠里は僕に聞いてくる。


 確かに『僕たち』は、幼い頃に一つの武術の流派の元で修行をした事はあった。



「よく分かるね。それも有段者としての感か何かなの?」



 だけど、同じ流派だというのに『僕たち』の型は一人として同じものにはならなかった。



「いや、一応だけど俺も有段者なんだぜ? 得物が無いにしろ素人に身のこなしで負けるはずがねぇだろうよ」

「そうかな? 確かに部活動をしている時の悠里って隙が無いけどさ、普段こうやって話をしている時とかって結構隙だらけだよ?」

「まあ、常に気を張ってるわけでもないしな……それでも、素人相手になら指一本触れさせない自身はあるな」



 勿論『僕たち』とは、僕と遼と恭介さんの三人のことだ。



「ちなみに、喧嘩じゃ負けたことはねぇ」



 流派の名を『久我峯無形流』と言う。 



「今度さ、正式に手合わせでもしてみる?」



 『僕たち』の師に当たる人は、僕たち三人に呼び名をつけた。



「いや、パスだ。お前と相手したら何故かわからんけど怪我する気がしてしょうがないからな」

「冗談、僕が悠里に勝てるはずが無いよ」



 静かに笑って僕は言葉を返す。


 ―――今の僕には必要の無いことだ



「ご謙遜を、奏龍殿」



 それに対して、悠里も微笑しながら答えた。  



「そちらこそご謙遜を、悠里殿」



 だから、僕も同じように微笑をして返した。



「さて、と。俺達の会話にも一区切り付いたことだし……羽森、お前も終わったんだろ?」



 それを今までの会話の区切りと見たのか、悠里は彼女に向かって話しかける。



「はい。もういつでもいける準備はしてますよ」

「りょーかい。そんじゃ奏龍、そろそろ時間も時間だし目的地に向かうとしようや」



 そう言って、悠里は財布を取り出して霞さんに全員分の伝票を手渡す。霞さんはそれを受け取ると、レジに向かって歩く。



「そうだね。確かにお昼は過ぎちゃったし、これ以上話をしていたら一日が終わりそうだし」



 僕が財布から自分の分のお金を取り出そうとすると悠里に止められた。



「今日は俺が奢ってやるよ」

「ありがとうございます佐倉さん」

「あれ、羽森の分も奢るって言ったっけ?」

「どうして今神さんの分は奢って私の分は奢ってくれないんですか!?」

「分かった、分かったよ。奢れば良いんだろ」



 小さく溜息を吐いてから、悠里はレジの前にいる霞さんに千円札を三枚渡す。



「レシートはいるかい?」

「お願いします」



 悠里は霞さんからレシートを受け取ると、それを財布の中に入れた。



「さ、奏龍。絃城家まで道案内頼むぜ」



 その言葉と共に、悠里と彼女は喫茶こきりから出て行く。



「りょーかい。霞さん、また来ますね」

「ああ、いつでも来たまえ。お姉さんはいつでも相談相手になるからな」

「ありがとうございます」

「では、気をつけてな」



 その言葉を背中に受けながら、僕も喫茶こきりを後にするのだった。







「あら、奏龍君じゃないの。久しぶりねぇ。今日はどうしたの?」



 約二年ぶりに訪れた絃城家は記憶にあったものと変わってはいない。



「あの、希美香はいますか?」



 だから、昔と変わらない調子で小母さんに僕は質問することができた。


 しかし、その質問をした瞬間に小母さんの表情が一変した。何故だろうか、嫌な胸騒ぎがする。



「ごめんね……希美香ったら、連絡も無しに三日も家に帰ってないの。多分、高校でできたお友達のお家にいると思うんだけれど……」



 ―――あの几帳面な希実香が、家を出たきり三日も連絡を取っていない?



「なあ奏龍、一旦此処は別な場所に行って状況確認といかねえか?」



 悠里も、今の一連の会話に何かしらの違和感を感じたのであろう。小母さんに聞こえない様に、小さく僕の耳元で呟いた。



「希実香って進学校に通ってるんですよね?」

「ええ、そうよ」

「ありがとうざいました。それと、希実香が帰ってきたら僕が来たって伝えといてもらえますか?」

「ええ、伝えておくわ。またいつでも来てね」



 僕は小母さんの言葉にぺこりとお辞儀をして、僕たち三人は絃城家を後にした。


 しばらく歩いてから、完全に絃城家が見えなくなったあたりの通路で僕は提案をする。



「提案なんだけどさ、こきりで話すって言うのはどうかな?」

「俺は賛成だな。羽森、お前はどうだ?」



 僕の提案に悠里は賛成してくれた。そして、彼女の意見を催促するように尋ねた。



「私は大丈夫ですよ。どうせ今日は暇ですからね」



 悠里は彼女の答えを聞くと、決まりだな、と言った風に言う。



「そんじゃ、一旦こきりに戻りますか」



 僕は提案したので勿論そのつもりである。彼女も、本当に今日は暇だったらしく頷いて僕たちに続いて歩く。

 















 狂った時間を……狂った時計の針を元に戻すために行動をした僕。だけど、この瞬間ときから狂った時計の針は動き始めた。今まで時を刻むことを止めていた、狂った時計の針が。
















 

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