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その8 キツそうな人


 音よりも早く、それこそ稲妻のような早さで弾丸は飛行する。引き金を引けば当たっている、そう言っても過言ではないほどの速度。


 そのただ中で、ポセットの周りだけが時間が止まったように静かになっていた。


 ポセットの目には、走る弾丸が見えていた。見えていると言っても、速いことに違いはない。一秒の何百分の一、何千分の一という時間の中でさえ、その速さは衰えを知らず、ポセット頭を穿とうと向かってくる。しかし理由わけあって、ポセットの動きはそれを捉え得るのだ。


 完全に頭をとらえていたはずの弾丸はポセットの頬をかすめ、背後の草の壁をえぐって消えた。


 銃声が空に重く響く。〝アクセル〟を解除したポセットは、恐らく驚愕のあまり呆然としているのであろう声の主に向かって、言った。


「僕は何もしない。ただ、探している人がいて、それが君たちと関係があるかもしれないから、テルルくんに着いてきたんだ。それだけなんだ」


 少し間をおいて、声が聞いた。


「何で探しているの」


「渡すものがあるんだ。絶対に渡したいものがね」


「そう……。あなた、なんだか変な感じがするわね……。それに、この近さで弾がそれるなんて、よっぽどの強運だわ。でも、悪いことは言わないから、さっさと出て行って」


「いや、出て行かない。気にくわないのなら、もう一度撃つといい。弾が切れるまで付き合うよ」


 声はため息をしたようだった。


「いいわ。ちょっとだけ話を聞いてあげる。銃を構えているのも結構疲れるしね。でも、武器になるものは全部よこしてもらうわよ」


 ポセットは両腰のトンファーと、ベルトの後ろに据えてあるナイフを鞘ごと放った。


「これでいいかい」


「その鞄もよ。何が入ってるかわかったもんじゃないわ」


 ポセットはそっと鞄を置き、離れた


 すると壁から女性が現れた。銀の長い髪と、緋色の瞳。そしてやはり、驚くほど白い肌。手には先ほどの銃を持っている。


 彼女はポセットと同じか、少し年上くらいの容姿にもかかわらず、身につけている絹の服は落ち着いていて、家政婦のようだった。


 ポセットとナットには違和感しか湧かなかった。しかも彼女はポセットをじろじろと見まわして、


「あなた、なんだか変な格好ね。そんな格好であちこち行ったり来たりしてるの?」


 などと言う。


「とにかく、こんなところで立ち話なんて面倒だわ。さっさと家に入りなさい。こっちよ、ついてきて」


 放られたものをさっと拾い上げ、彼女はせかせかと歩いて行く。


「キツそうな人だね」


 ナットが言った。ポセットが口に人差し指を当てる。




 小屋の中は案外広く、部屋割も玄関、リビング、トイレ、寝室、物置としっかりしていた。


「そこに座って。言っとくけど、少しでも変な素振りを見せたら、構わずふっ飛ばすわよ。今度は外さないわ」


 ポセットは言われるまま、木製のテーブルに向かう頼りない椅子に腰かけた。椅子がギシッと音をあげる。彼女は銃をポセットに向けたまま、向かいあって座った。同じく椅子が軋む。


「なにもしないさ。だから銃を……」


「どうかしらね」


 彼女はよりしっかりと銃を握る。


「――あの。テルルくんはどうしたんだい?」


「あぁ、うるさいから眠らせてあるわ。あの子、いつも寝るときに睡眠薬飲んでるから。まぁ、あの子には栄養剤だと言ってあるけど」


 彼女の顔が曇る。しかしすぐ気を取り直して、ポセットに銃を突きつける。


「――って、そんなことより、あなた何しに来たのよ? まさか、こんな廃墟の町に観光に来たなんて言うんじゃないわよね? ふっ飛ばすわよ?」


 ポセットは両手をあげて、めっそうもないと首を振る。ナットもブンブン首をふる。


「さっきも言ったけど、僕たちは頼まれたものがあって、届けに来たんだよ。それが君たち宛てかどうかは知らないけど」


「見せなさい」


 ポセットは彼女の足元にごちゃごちゃ積まれた鞄とその他に目をやった。彼女も気付いて、横目でポセットを睨みながら鞄をあさる。


つづく。

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