その7 荒いお出迎え
植物の壁は複雑に入り組み、天然の迷路と化していた。
ポセットは面白げもなく続く植物の壁にすっかり飽き、なにか意味のない労働を強いられている気分になってきた。
そんな中、テルルは目印ひとつないにも関わらず、幾本にも分かれた道から、目的地に続く道を迷うことなく選び取っていく。
「随分と慣れているんだね。こんなに複雑なんじゃ、僕たちだけだったなら間違いなく迷っていたよ」
「僕は毎日この迷路を通っているから、仕方ないよ。大体、感覚で分かるんだ。もうすぐ着くよ。――ほら、次の角を曲がったら、到着」
テルルが道の先を指す。角を曲がると、壁が途切れ、広い空間につながっているようだった。一歩、また一歩と進むにつれて、だんだん黒い塊が壁から姿を現した。それは小屋だった。見るからに古い建物だが、造りはしっかりしているようだ。
「あそこに住んでいるんだよ」
「君一人で?」
「ううん。お姉ちゃんもいるよ」
そう言って、テルルは走り始めた。
「お姉ちゃんだってさ、ポセット」
おばあさんの孫も、男の子と女の子の姉弟のはず。ますます可能性が高い。
壁の陰に隠れたテルルの声だけが聞こえてきた。
「おねぇちゃーん! 人だよ! やっぱり、人がいたよ! 見間違いじゃなかったよ! それに、怖くないよ! いい人だよ!」
壁から姿を現したテルルが、ポセットたちに向かって指を指す。ほら、ほら、見て、と壁の陰にいるのであろう〝お姉ちゃん〟に話しかけている。
早く早く、とテルルははやし立てるが、ポセットは急ぐことなく歩いていった。
「ほら、お姉ちゃん、ポセットくんっていうんだ! 見てよ、なんで出てこないのさ? ねぇってば! ――うわっ!」
壁の陰から手が伸びてきて、テルルの腕をつかみ、テルルごと陰に隠れてしまった。
「あれ、どうしたんだろう?」
ポセットがちょっと急ごうとしたときだった。
「止まりなさい!」
声と共に、左の壁から、ぬっ、と銃がのびてきた。銃身の長い銃。腔線が覗く銃口が一つ、ポセットの頭に照準をあわせ、ピタリと止まる。
高く、綺麗な声が言う。
「何が目的なのか知らないけど、出て行ってもらうわ。短い命がもっと短くなる前に、ここから消えなさい!」
何やら、ややこしい誤解が生じているようだ。とにかく、銃を下ろしてもらわない限りは説得も何もあったものではない。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。僕は別に怪しい者なんかじゃ……」
「怪しいヤツに限ってそう言うのよ。来た道を引き返して、失せなさい」
ポセットは銃口に向き直り、姿なき壁の中の声と対話を試みた。
「来た道なんて、わからない。テルルくんに案内されてやっと辿り着いたんだ。手を挙げるよ。足も動かさないし、なんなら後ろだって向く。だから銃を……」
「そうはいかないわ。とにかく、あなたはここにいちゃいけないのよ。何も知らないならなおさらね。さっさと消えて。五秒あげるわ。五秒以内にここから消えるか、命を捨てるかさっさと選ぶことね」
「まってくれ、僕はただ……」
「四……、三……!」
「ポセット! ダメだ、早く行こう! おとなしく帰ろう!」
「――いやだ」
「え! なんで!」
「消えろだの、失せろだの……。こちらの事情も聞かないで、そこまで言われると、なんだかさらに意地を張って、何が何でも帰りたくなくなった。悪いけどナット、僕はここを動かないよ」
「何言ってるのこんな時に! 意地っ張り! バカ!」
ナットが言い終わるのとほぼ同時に、銃口が火を噴いた。
つづく。