その5 遭遇
さて、昼食を終えたポセットと、全身なめ終わってスッキリしたナットは早速町の探索を始めた。
しかし行けども行けども、あるのは廃墟と化した町並みだけ。同じような景色に疲れてきたポセットたちの前に、それは悠然と立っていた。
「あ! あれ! 人がいるよ、ポセット!」
「――いや、あれは……」
遠くに見えるそれに近づいていった。正面に立って、見上げる。
「人じゃなくて、石像だったね」
「うん。どうやら、記念碑みたいだ。えっと、名前は……」
記念碑に刻まれた、朽ちかけた文字を読んでいく。
「〝レパード=リメルヒ〟……。レパードさんって言う人らしいね。どうやら、町長をしていた人みたいだ」
「この人も、町を出てっちゃったの?」
「さぁ、それは分からないけど、もう亡くなってると思うよ。書いてある日にちが、今から五十年も前だからね」
レパードさんは右手で広く澄みわたる大空を指さし、半世紀の間に雨と風で削られたのだろう肘までだけになった左腕が、町を抱きしめるように大きく開かれていた。
「この町に、一体何があったと言うんだろう……」
「大津波とか? 大雨とか? 水没したんだったりして」
「こんな平地の町が水害にあうなんて、世界中海の下だよ。あと、ナットは水を怖がりすぎだよ」
ポセットはモニュメントの跡らしき石の土台に登り、レパードさんに並んで立った。視線の先にはY字に伸びる道と、ところ狭しと並び立つ廃屋たち。
「悲しいな」
「え、なにが? どうしたの?」
「五十年もの間、自分の町がだんだん廃墟と化していく様をじっと見つめながら、それでも、大空をさしたまま、立ち続けてきたんだな……って思ってさ」
ポセットは見よう見まね、レパードさんと同じく右手で大きく天を指し、左手は大きく開いて立った。
「レパードさんも、久しぶりに人を見られて嬉しいと思うよ。もちろん、久しぶりに猫を見られたっていうのも大きいだろうけど」
「猫って言ってもね。ナットじゃまるで化け猫だからな」
「失礼な! こんな賢いのに! 失礼な!」
「ははは……。ん?」
ポセットは右へ顔を向け、じっと何かを見つめて動かなくなった。
「どうしたの……? 右に何かあるの?」
肩に乗っているナットには、ポセットの頭が影になって見えない。頭に登って、ポセットの見つめる方向を見た。
「にゃ……」
わらで編んだ小さなカゴに色とりどりの果物をのせ、サンダルを履き、灰色のローブを身につけて、それはこちらを凝視していた。
「人だ……」
少年。銀色の髪の少年。呆然と、口を半分開いたまま、固まっている。
ポセットが声をかけた。
「あの、君は……? ここに住んでいるのかい?」
離れている分、大きく呼びかけたその声は、返答を得ることなく町に響いた。
少年は我に返ったように慌てて逃げていった。カゴからぽろぽろと果物が落ちていくが、気にも止めずに走っていく。
「あっ、ま、待ってくれ!」
ポセットも追いかける。ナットが振り落とされないように実を低くして、言った。
「あの人、もしかして、おばあちゃんの?」
「わからないけど、違うとは言い切れない」
ポセットは逃げる小さな背中を追っていった。
つづく。