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その4 捨てられた町


 町を囲む砦。見上げるほど大きなその門は、ポカンと大きく口を開けていた。ツル状の植物が砦の壁をはい上がり、所々ヒビが入って、見ていてとても不安になる。


「なんだ、これは……」


「うわぁ……」


 一人と一匹はゆっくりと門をくぐった。辺りを見回し、慎重に歩を進める。人の影は見あたらない。


 ポセットたちの視界に映るのは、並び立つ崩れかけた廃屋たち。鼻に香るのは、秋の風に交じった錆びのにおい。聞こえるのは、窓のない建物を容易に吹き抜ける風の音と、穴が開き、今にも音を立ててひしゃげそうな雨どいから雨水が滴る音。


「酷いな……。これじゃまるで、死都……って感じだ」


「誰もいないのかな」


「いたとしても、ろくな人じゃないと思うけどね」


 ドレスを渡すべきおばあさんの孫は、この町で暮らしているはずだ。と、ポセットたちは町を闇雲に歩き回って、人の痕跡を探した。


「人どころか、ねずみ一匹見つからないよ」


 ナットがぼやく。ポセットも疲れてきた。日も高いし、崩れた家の壁が丁度良い高さだったので、そこに腰掛け、鞄からスティック状の保存食料をとりだして、食べた。


「オイラこれ好きじゃないよ」


「昨日も聞いた。いらないなら無理して食べなくても良いよ」


 ポセットがひょいっと取り上げる。ナットはちょっと、しまった、というような顔をしたが、すぐ意地を張ってそっぽを向いた。


 ポセットはスティック状のそれを上から釣るようにぷらぷら揺らして、ナットを挑発する。


 ふんっ、と鼻を鳴らして、バカにするなと言いたげにしていたナットだったが……、気になる……。頭の上で規則正しく揺れるそれが気になる……。


 飛びつきたい……。


 いやいや、なんのこれしき。負けるものかと顔を伏せ、こらえるように地面を見た。


 しかし。に、にゃんと……、地面にまでぷらぷら揺れる影がくっきり……。


 ナットは歯を食いしばり、眼を閉じ、しばらく自分もぷるぷるしたかと思うと、天に矢を放つ勢いで跳び上がった。ポセットもそれに合わせて、ひょいっとスティックを持ち上げる。


「あぁっ! もぉっ! このっ!」


 ナットが跳び上がる度にひょいっ。またひょいっ。まだまだひょいっ。


 謎の遊びはフェイントを交え、より高度かつ熾烈になっていく。


「うにゃぁあおおぉぉぉ!」


「いったたたたた! バカ引っ掻くな! 服に穴が開くだろ!」


 かんしゃくを起こしたナットが、ポセットの足を引っ掻き始めた。


「ごーめーんなさいぃー! 文句言わないから食べさせてよー!」


「わかったから引っ掻くな!」


「違う違う、爪を研いでるんだよ。このところなかなか落ち着いて研げなくてさ」


「よせ、バカ!」


 そんなこんなで、もそもそとランチタイム。空には煙のような頼りない雲がひょろろんと漂っていた。


 町はとても静かで、投げた石が跳ねる音が、建物を伝わって町中に響き渡りそうだった。


「あのおばあさん……。もしかしてなにか勘違いしてるのかも……」


「勘違いって?」


「この町の様子じゃあ、どう見ても人は住んでないよ。それも二年や三年じゃない。この町から人がいなくなって、もっともっと時間が経ってるはずだ」


「おばあちゃんの孫も別のところに住んでるのかな?」


「きっとそうだ。もう別の新しい町に引っ越したんだよ。お孫さんはおばあさんを訪ねているみたいだから、お孫さんがいるのは本当みたいだし」


「じゃあ、この町は捨てられた町ってこと?」


「恐らくはね。――そうだ、せっかく来たんだし、何で誰もいないのか探索してみようか」


「えぇー、暗くなったらどこで寝るのさ?」


「それも探しに行くのさ。もしもどこにも寝る場所が無くても、一晩くらいなら廃屋でも野宿出来るさ」


「えぇ、やだよぉ、野宿なんて」


「――いつも野宿じゃないか」


つづく。

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