表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

その33 白雪に送られて


「うにゃあああああ!」


 ナットが枝から飛び降りる。ポセットの首にかかるツタに飛びかかり、またも爪を立てる。しかし、痛覚がないのか、びくともしない。


「あら、ホント、賢い猫ちゃんね。折角だし、あなたにもなにか投与してあげる。動物実験も大切だもの」


 すすすっとツタが忍び寄る。ナットはにやりと不敵な笑みを浮かべ、尻尾をサッと持ち上げた。尻尾の先でくるりと一巻き、器用に注射器を持っていた。それは、町を去る時、絵の部屋の近くで見つけたものだった。


 それをグサリとツタに突き刺した。素早く前足で抑え、ぎゅうっと注射器内の液体をツタに流し込んだ。


「ん……? 何を……」


 ツタがグネグネと動き、ポセットの首から離れた。苦しそうにのたうち、地に伏せる。


「なに……! どうして!? この猫! 何を!」


「オイラは賢い猫ちゃん、ナット様。かわいいからって油断したね」


「ごほっごほっ……! よくやってくれた、ナット」


「まかせにゃさい」


 ナットはポセットの肩の上で誇らしげに胸を張る。ポセットを締め上げていたツタがふにゃふにゃと力なく倒れ、ポセットが解放される。クレアが戸惑いながら声を荒げた。


「バカな! なぜ!? ――まさか!」


「思い当たる節はあるようですね……。それもそうか、あなたはクレアさん。そして、この薬を作った

のも、紛れもなく、あなた自身なんだから」


 それは、作り出したものの使用することが出来なかった、体内の植物を殺す薬。その薬の強さゆえに、感染者である人間の命も奪ってしまう、最後の薬。


「バカな! バカな! なんてことを!」


「その慌てぶりから察するに、やはり、かなりの効き目があるようですね。――スズもテルルも、人のまま逝きました。あなたも、せめて、人のまま……」


 クレアが怒りに狂う。奇声を荒げ、腕を振りかぶる。しかし、体は意思とは反対にぐずぐずと動かず、果てはボロボロと崩れだした。緑青の肌が割れ、剥がれ、白い素肌が現れた。


 クレアはその場に伏した。よろよろと立ち上がり、ポセットを睨む。


「おの……れ。お前のような……、小僧に……。お前はぁっ! あの二人の命を無駄にしたんだぁっ!

 私の研究を! 永遠の追及を!」


「テルルは……死ぬ前に、行きたかった海で、大好きなお姉ちゃんと思い出を作った。スズは町を守りきり、人のまま命を絶った。あの姉弟は決して無駄に死んでなんかいない。あなたを今ここで追い詰めたのは……、他でもない、彼女たちだ」


 ポセットが目を閉じる。昨晩の灼熱の中で聞いた、スズの言葉がよみがえる。あいつを止めて、と。


 クレアは鬼の形相で空を仰ぎ、断末魔をあげた。口から泡を吹き、膝から崩れ、小さく丸まった。近づいて触れる。呼吸は無い。体は硬直して動かない。


「死んじゃってるの?」


「どうやら、ね」


 冷たい風が吹き抜けていった。




 黒い空からは、綺麗な光る結晶が舞い降りてきた。


「雪だ……」


「うにゃあ……、さ、寒い……」


「行こうか、ナット。山を降りよう」


 固まってしまったクレアの体を持ち上げ、倒れた木々を追って進む。まるで枯れたスポンジのように軽い。


 なんとか山道に出た。窓が吹き飛んだ山小屋が一つ、ポツンと建っている。


「ここでいいだろう」


 小屋のそばに、小さな穴を掘った。クレアを埋め、立ち上がる。雪は勢いを強くすることなく、しかし止む様子もなく、降り続いている。


「急ごう、ポセット。こ、凍えちゃうよ!」


「ああ、行こうか」


 立ち去る前に、クレアの墓を見る。なんとも味気なかった。ポセットはしゃがみこみ、ネックレスを供えた。


「永遠の命に魅了された、末路か。でも、これで元の優しいお母さんに戻れますよ。大地に還って、スズとテルルを支えてあげるといい。きっと、また笑って会える」


 そうして、山小屋を後にした。降り続ける雪。空から無限に舞い降りるそれは、スズからの花束だろうか。ほのかな冷たさがポセットをチクリと刺す。




 歩く中、少しずつ積もっていく雪。一人山を行く少年にも、白い雪が積もりつつあった。ポセットはやや神経質に雪を掃う。


 肩の黒猫、ナットが言った。


「冷たいね、ポセット」


 ポセットと呼ばれた少年が答えた。


「うん。――きっと、生きているから……だね」


 薄く積もった雪の道。次の旅へ、足跡は真っ直ぐと続いて行った。






読んでいただき、ありがとうございます。


今回はなんだか反省点が多すぎてトホホな感じでしたが、一応形になりました。


誤字脱字、確認してはいるのですが、もしかしたらあるかも……。


ご指摘、ご感想などなど、いただけたら嬉しいです。


お粗末さまでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ