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その25 最終計画


 朝。カーテンから入る冷気で目覚めた。結局、一晩中警戒していたので、ポセットは一睡もしなかった。アクセルを使った体には応えるが、仕方がない。


「おはよう、はやいのね」


 なんだか昨日も聞いたようなセリフとともにスズが起きた。大きく欠伸を一つして、朝日の昇りきらない外を眺める。あの化け物のおかげで、小屋からの眺めだけは良くなった。


「今日、終わらせることにするわ」


「え?」


 スズは唐突に言うと、さっとカーテンから外へ出て行った。寝ボケるナットを肩に乗せて、ポセットも後を追う。


「なにを終わらせるんだよ」


「全部よ。決めたわ」


 スズは振り返り、ポセットに計画を伝えた。スズの目は赤く腫れ、うるうると涙ぐんでいた。その小さな体で、どれほど迷い、悩み、下した決断だろうか。


 伝え終わった後、スズの体は震えていた。


「怖い?」


「怖い……」


 ポセットは静かにスズを抱きしめた。スズの震えを止めてあげたかった。しかし、止まらなかった。止められるとも思ってはいなかった。


「いこう。君の決断は、何も間違ってない。正しいかはわからないけど」


「ええ。私も……、そう思うわ」


「手伝うよ。出来ることは、全部」


「ありがとう」


 スズの決意は固かった。どれだけの悲しみを押し殺しているだろう。


 二人と一匹は、テルルの奪還へと向かった。




 迷路を抜けると、そこはすでに昨日までの町の姿はなかった。


「何だこれは……」


「ひどい……」


「青臭いよぉ」


 町は一面緑青色のツタや根で覆われ、まるで樹海のようになっていた。この一つ一つが、全て化け物に通じている。


「こんなものを投与されたあのおじさんも、随分可哀そうな人ね」


 昨日の侵入者を想う。今の彼に、かつての面影は微塵も無いだろう。


「急ごう。テルルくんはどこに?」


「町全体に均等に根を張るには、中心に行く必要があるわ。きっと、あの化け物は町の中心から根を張り巡らせたはずよ。――ということは……」


 目指すは、レパードさんの像がある、中央広場。


 今いる場所からはそう遠くない場所だ。ツタは眠っているのだろうか、昨日ほど活発に動かない。


 よく見れば、あちこちの地面から顔を出す根にも、場所によって成長の速度に差があるようだった。


「日光よ。陽の光を浴びないと、動けないんだわ」


「なるほど。なら、なおさら急がないと。もう日が昇るよ」


 鈍いツタの動きは簡単にかわすことが出来た。広場まではほとんど一本道。あっけなく到着出来た。


「あれは……」


 広場には、大きな木が一本そびえていた。毒々しい緑に覆われた、グネグネと形を変える奇怪な樹木。それは幾本の根の集合のようだった。


「化け物め」


「あ、見て、あれ!」


 レパードさんの像の下。寄りかかるようにテルルが座っていた。ぐったりと、全く動こうとしない。


「テルル……!」


「待って」


 出て行こうとするスズを、ポセットが引きとめる。


「僕だけで行くよ。君はナットと一緒に町の門へ」


「そんなことさせられないわ!」


「君も狙われているんだ。思い返せば、昨日も君とテルルくんだけに関心を示していたように思える。僕が行ったところで、特に反応しないかもしれないだろ」


「そんなこと……」


「いいから。テルルくんをあんな目に合わせたのは、僕の責任だ」


「ち、違う、あなたの責任なんかじゃ……」


「いいから、早く。陽が昇ってしまう。ナット、スズの護衛、頼んだよ」


「まかせて。ポセット、しっかりね」


 スズとナットは、テルルをポセットに託し、一足先に町の門へと急いでいった。


「さて……」


 時間は無い。早速行かなくては。ポセットは一気に走って、テルルのそばに駆け寄った。


「テルルくん、テルルくん!」


 声をかけても、テルルは返事をしない。最悪の状況が頭に浮かんだが、幸運にも、テルルは生きていた。息をしている。


「よかった……」


 ポセットから僅か十数メートルの場所で、巨大な木の化け物がその身をくねらせている。

かすかに雄叫びのような声も聞こえる気がする。一刻も早く、ここを立ち去らなくては。


 テルルを背負い、巨大な化け物を睨む。


「急がなくちゃ」


 走りだす。背後では、廃屋を越えて差し込む日光が、緑青の肌を照らし始めていた。


 町中の地面から、化け物の根がはい出ている。日光を浴びた途端、狂ったように動き始め、やがて、対象を背負い逃げるポセットを仕留めようと、無数の腕がポセットを襲い始めた。


「捕まるか!」


 ポセットも逃げる。町の門は、まだ見えない。



つづく。

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