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『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026
砂漠の国編

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222/227

第222話:深海溝の大渦と、配管ワイヤーの掻き出し論理

海底都市『アクア・ルミナス』の主幹線インフラを襲っていた激しい漏電バグをアース棒の接地論理で完璧にデバッグし、都市にかつての真珠色の平穏を取り戻したカイト一行。

 

 超高圧重力潜水艦仕様のまま、白銀の高級キャンピングトレーラーを滑らかに牽引する漆黒の四輪駆動車は、海底都市のガラスドームを後にし、海上の街道へと帰還すべく浮上ルートへと入っていた。

 

 しかし、潜水艦が深海一万メートルから浮上を開始した直後、前方の空間がグニャリと歪むほどの激しい重低音と共に、海底の砂泥が巻き上がった。

 

 ダッシュボードの液晶画面に、全方位からの激しい「赤色のアラート」が一斉に鳴り響く。

 

「……判定。海底都市の外郭に隣接する最深の暗黒海溝『タルタロス』において、深刻な流体不備が発生。……大霊峰の魔力循環が復旧した影響により、都市の巨大なバラスト排水システムが異常同期を起こしている。……排水バルブが中途半端な開放状態で固着し、周囲の全海水を無限に吸い込む『大渦巻メイルストローム』が生成されている構造不備を感知」

 

 カイトは衣服に汚れ一つない漆黒のお揃いのジャージを纏ったまま、無表情で推進レバーを握り、ナビゲーション画面の流体解析データを冷徹に見つめていた。

 

 その聲音はいつも通り冷静沈着だったが、潜水艦のチタン外殻を外側からゴリゴリと削り取ろうとする狂暴な水流の濁流を睨む瞳には、安全な航路を塞ぐ融通の利かないバグへの、容赦のない「排除の意志」が鋭く宿っていた。

 

 外の世界は、数キロメートルに及ぶ巨大な水の螺旋が荒れ狂い、触れるものすべてを海底の底へと引きずり落とす絶対のデッドゾーン。

 

 ギチ、ギチチチチ……!

 

 凄まじい引き込み水圧。

 

 最新鋭の推進ハイドロジェットをもってしても、渦の圧倒的な遠心力と吸引力に相殺され、潜水艦の進行速度は完全に「ゼロ」へと固定されていた。それどころか、車体はゆっくりと、深海溝の最深部にある暗黒の吸い込み口へと引きずり込まれ始めていた。

 

「あうぅ……! カイト様、お外のお水がグルグル回って、お家がすっごく引っ張られています! これじゃあ、お空の上に帰れないです……! あ、もぐもぐ。……でも、カイト様がさっき出してくれたこの『ひんやりバニラアイス』、100%濃厚なミルクの味がして、リア、すっごくハッピーです!」

 

 助手席のリアが、いつものお揃いのジャージの袖をパタパタと揺らしながら、スプーンでアイスを美味しそうに口に運びつつ、アクリル窓の外の真っ暗な渦を警戒するようにキッと睨みつけていた。

 

 彼女の言葉には、快適な巡航を邪魔する大渦への「野生の憤り」と、それ以上に、カイトが美味しいおやつをくれたことへの「一途な愛着」がちゃんぽんになって溢れていた。

 

「くっ……、なんて品のない水の流れかしら! ただの排水口の分際で、真祖であるこの私の移動要塞までまとめて飲み込もうとするなんて、不敬にも程があるわ! カイト、私の魔力障壁の出力も、この広大な海全体の引き込み圧力の前には限界があるわよ……っ!」

 

 本革のローソファから立ち上がったエルザが、同じくお揃いのジャージを優雅に纏ったまま、調律杖を強く握り締め、赤い瞳を焦燥と憤怒に染めて叫んだ。

 

 完全に環境管理された空間のおかげで、彼女の魔力は常に「満床」の状態に達している。しかし、相手は深海全体の水流の暴走だ。力任せの魔法だけでは、この脱出不能の吸引ループ(バグ)を根本から解体することは不可能だった。

 

『――不純物を感知。排水サイクルにおける障害物と断定。……最大出力の吸引手順を維持し、海溝の底へと強制的に破棄しろ――』

 

 海溝の奥深くに眠る、巨大な黒鉄の自動排水バルブの意思回路が、狂ったような機械音を空間へと響かせる。

 

 周辺の水圧がさらに跳ね上がり、潜水艦のチタン外殻がミリ単位でミシミシと歪み始めた。車内のエアコンが一瞬だけプシューと悲鳴を上げて停止し、不穏な深海の冷気がじわりと室内に侵入し始める。初めてカイトの額に、大粒の冷たい汗が静かに流れ落ちた。

 

「……判定。バルバの噛み合わせ部分に、数百年の放置によって堆積した古代の強固な瓦礫や金属デブリがガチガチに詰まっている。それが原因でバルブが閉鎖できず、異常な吸引の無限ループが発生している。……三人による、配管清掃デバッグの手順を開始する。……二人の完璧なサポートが必要だ」

 

カイトの聲音に、かつてないほどの「緊迫感」の鋭さが混じる。

彼は懐の財布から輝く金貨を三枚取り出し、正面の空間へと静かに提示した。

「……等価交換」

金貨がまばゆい光の粒子となって空間で音もなく消滅した直後、カイトの正面に現れたのは、都市を破壊する兵器などでは断じてなかった。

現代の地球において、頑固な詰まりを起こした下水管やトイレの内部の異物を、奥深くから強引にかき出して清掃するために広く使われている、ごく一般的な清掃工具――『工業用超ロング・配管スネークワイヤーブラシ(特殊鋼製仕様)』の長い頑強な束だった。

「……エルザ。この現代の洗練された柔軟な特殊鋼構造に、お前の魔力を同調させろ。いかなる硬固な古代のデブリをも一瞬で粉砕・掻き出す『絶対清掃の貫通ライン』へと機能を拡張する。リア、そのワイヤーの先端を抱え、水流の隙間を縫ってバルブの隙間へと突入しろ」

「いいわ……っ! ただの細長い鉄の紐かと思ったら、随分と柔軟で、先端に強固な螺旋刃ブラシが通っている素晴らしい道具じゃない! 真祖の全盛期の魔力を、この配管清掃の論理へと完璧に噛み合わせてあげるわ! すべてのゴミを掻き出しなさい!!」

エルザが激しい闘志の笑みを剥き出しにしながら、自身のジャージの袖を揺らし、調律杖の先端をカイトの具現化したスネークワイヤーへと向けた。

彼女の満床の魔力がワイヤー全体へと正確に流し込まれ、現代の優れた配管工学の論理が異世界の魔導として上書きされる。ただのワイヤーブラシから放たれる貫通力が、エルザの魔力によって、あらゆる瓦礫を粉砕する超高密度の『絶対デバッグワイヤー』へと跳ね上がった。

「お任せください、カイト様――っ!! リア、あのお騒がせなゴミ箱の詰まりを、ポンと綺麗にしてきます!」

リアが助手席のドアを蹴り開けて、暗黒の大渦が吹き荒れる深海の世界へと猛然と飛び出した。

カイトの固有スキル『重力操作』によって、潜水艦の周囲の重力ベクトルが「一時的に前方」へと垂直反転され、彼女を押し戻そうとする渦の遠心力が完璧に相殺される。

最高のコンディションを維持し、カイトのために最高の成果を上げたいという「一途な想い」を爆発させたリアは、特殊鋼のワイヤーの先端を両手でガシッと掴むと、爆発的な脚力で海溝の底にある巨大バルブの隙間へと一直線に肉薄した。

ズババババシィィィン!!!

バルブの吸い込み口から放たれる猛烈な引き込み水圧が、リアを奈落へ引きずり込もうとする。

しかし、リアは痛みに顔を歪めながらも、お揃いのジャージの袖をパタパタと揺らしながら、現代の超強力ワイヤーブラシを、古代の黒鉄のバルブにガチガチに詰まっていた「巨大な瓦礫の隙間」へと、渾身の怪力で一気にねじ込んだのだ。

そのまま、ワイヤーのハンドルを凄まじい速度でガチャガチャと回転させた。

ガシャガシャガシャガシャ、バリバリバリィィィン!!!

深海の底に、強固な物質の破砕音が響き渡った。

現代の精密な配管清掃技術が生み出す、螺旋の回転物理拡張力。それがエルザの魔力によって何万倍にも強化され、数百年分の頑固な古代のデブリや金属屑へと容赦なく食い込んでいく。

近代科学が誇る「掻き出しの論理」の前に、バルブを固着させていた強固な瓦礫たちは何の手応えも残せないまま、一瞬にしてバラバラの細かい砂鉄へと粉砕され、内部の噛み合わせから綺麗に剥ぎ取られていった。

「――標的の完全な掻き出しを確認。……仕上げだ。固有スキル『重力操作』、最大出力展開。粉砕された全デブリの質量をゼロにし、上空へ強制排気しろ」

カイトは車内から血の滲むような意志で右手を小さく翻した。

リアが掻き出した大量の破片の周囲だけ、重力のベクトルを「大渦の回転軸とは真逆の天頂(洋上)」へと完全に垂直反転させ、固定したのだ。

バルブの動作を阻害していたすべてのゴミは、カイトの重力制御によって強引に質量を奪われ、一本の光の筋となって渦の外へと安全に排気された。

ガッチャン!!!

障害物を完全にクリーンアップされた古代の巨大排水バルブは、本来の駆動論理を取り戻し、大きな音を立てて完全に、そして強固にその口を閉ざした。

深海をズタズタに引き裂いていた無限の吸引ループ(大渦巻)は、バルブの閉鎖と共に、一瞬にしてスーッと綺麗に静まり返り、穏やかな紺碧の深海の世界へと戻っていった。

配管の詰まりという最大の環境不備が、カイトの用意した金貨三枚の日常工具のシステムと、リアの命懸けの清掃、エルザの魔力調律という三人の完璧な論理の噛み合いによって、完璧にデバッグ(最適化)された瞬間だった。

「ぷはぁっ! カイト様、エルザの姉様! おっきな穴の中のゴミ、このガチャガチャ回すヒモのおかげで、みんなポンと無くなっちゃいました!」

ジャージの袖を少し濡らしながら、満面の笑みで助手席へと戻ってきたリア。その瞳には、肉体の限界を超えた激しい疲労と、それ以上の「最高の達成感」が満ちあふれていた。

「ふぅ……、ふぅ……。本当に、心臓が止まるかと思ったわ。でもカイト、貴方のあの泥臭い日常の道具がなければ、私たちは今頃海溝の底でペッちゃんこだったわね。……感謝してあげるわ」

エルザもソファへと崩れ落ち、ジャージの胸元を少し緩めて呼吸を整えながらも、仲間への「深い絆の感情」をその瞳に溢れさせて楽しそうにクスクスと笑った。

「……周辺環境における吸引不備の排除、および航路の完全な安全確保を確認した。デバッグ手順、極めて良好だ。……これより海上への浮上手順を再開する」

カイトは表情一つ変えなかったが、バックミラー越しに満足そうな二人の顔を確認すると、その口元をほんの僅かに、誰にも気づかれないほど優しく、中心の温もりを込めて緩めていた。

車内のエアコンが静かに息を吹き返し、再び心地よい二十四度の冷気が満ちる中、安全を取り戻した美しい紺碧の海原を潜り、白銀のトレーラーを牽引する漆黒の移動要塞は、次なる世界の不備を最適化するため、太陽の光が待つ眩しい海上へと向かって、その車体を滑らかに、そして力強く浮上させていくのだった。

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