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『等価交換の創造無双 〜ジャージ姿の俺、悪意を燃料に最強兵器を創り出す〜』  作者: beck2026
砂漠の国編

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第203話:天空の立体迷宮と、阻まれる進路

無力化された古代魔導砲が黒煙を上げる中、カイトの四輪駆動車と高級キャンピングトレーラーは、天空都市『アエロ・フィード』の巨大な正門前へと静かに着艦した。

 

 車体全体の質量を相殺していた重力操作グラビティの出力を徐々に元へと戻すと、四つのタイヤが白大理石の頑強な石畳をしっかりと捉え、サスペンションがプシューと規則正しい排気音を立てて車高を安定させる。

 

「……判定。天空都市外郭門への着艦を完了。これより、周囲の環境脅威の監査、および気流制御陣の暴走不備を解消するための、中枢への直行手順へと移行する」

 

 カイトは衣服に汚れ一つない漆黒のジャージを纏ったまま、運転席のドアを開けて外へと降り立った。

 

 雲海を遥か下に見下ろすこの天頂の世界は、下界の血生臭い空気とは無縁の、不自然なほど透き通った空気に満ちている。だが、大霊峰の魔力を吸い上げすぎて暴走している都市の心臓部からは、時折、空間をピリピリと震わせるような過剰な魔力の脈動が伝わってきた。

 

「カイト様、ここ、すっごく高いのに風が全然冷たくないです。むしろ、あの街の奥から、熱いお湯みたいな嫌な風が吹いてきています!」

 

 続いて助手席から降りてきたリアが、ジャージの袖を力強く捲り上げ、ピンと立てた耳を都市の奥へと向けた。

 

 トレーラー内の完璧な環境で連日上質な睡眠をとっている彼女の肉体は、今やこの天空の特殊な気圧すら物ともせず、常に最高出力のコンディションを保っている。その野生の勘は、街の深部で膨れ上がる歪な熱量を正確に察知していた。

 

「ふふ、当然だわ。大霊峰の魔力が正常に流れるようになったのに、この都市の古い設備がそれを受け止めきれずに過負荷を起こしているのよ。おかげでこの街全体が、今にも破裂しそうな巨大なバグの塊になっているわね」

 

 連結通路のドアから優雅に姿を現したエルザが、調律杖の先端を指先で弄びながら、赤い瞳を妖しく輝かせた。

 

 完全に室温管理された最高級の車内で魔力を万全に蓄えた彼女にとって、いくら古代の浮遊都市が誇る防衛線であっても、真祖としての全盛期の力を脅かすほどの価値はなかった。

 

「……肯定だ。過剰蓄積されたエネルギーの排気が、下界の巨大な竜巻となって深刻な環境損壊を引き起こしている。極めて非論理的な構造欠陥だ。……排除を行う」

 

 カイトが冷徹に告げ、大理石の正門へと歩みを進めた、その時だった。

 

 門の奥から、背中に純白の羽を生やした、美しいが酷く傲慢な顔立ちをした『天空族』の守護兵たちが、数十人一斉に姿を現した。

 

 彼らは細緻な意匠が施された美しい魔導槍を構え、衣服に汚れ一つないジャージ姿のカイトたちを、虫ケラでも見るかのような冷酷な視線で見下した。

 

『何奴だ、地上の卑しき俗物どもが。ここは神聖なる天空の領域アエロ・フィード。大霊峰の恵みを正しく管理する我らの聖域だ。外郭の自動砲を壊した大逆の罪、その命をもって償うが良い!』

 

 守護兵の隊長が放つ声には、下界を見下し、自分たちだけが特権階級であるという底なしの傲慢さが満ちていた。彼らは一斉に魔導槍の先端をカイトへと向け、容赦のない迎撃の構えをとる。

 

「……管理の放棄による二次災害の無視。判定、お前たちの意思決定プロセスそのものが世界のバグだ。これより、中枢への最短経路を確保する」

 

 カイトは感情の起伏がない声で淡々と告げると、懐の財布から、これまでの旅で正当に獲得し、蓄えていた数枚の「金貨」を静かに取り出した。

 

 そのまま、目の前の空間へとその金貨を静かに提示する。

 

「……等価交換」

 

 提示した金貨の価値と引き換えに、カイトの知識にある現代の物品をそのまま具現化する絶対のルール。

 

 捧げられた金貨が、まばゆい光の粒子となって空間で音もなく消滅していく。

 

 それと引き換えに、カイトの正面の空間に具現化されたのは、強力な兵器などではない。現代の地球において、子供たちが防犯用に身につけるような、手のひらサイズのプラスチック製の『市販の大音量防犯ブザー』だった。

 

 カイトは手元に落ちてきたその小さな電子機器のピンに、静かに指をかけた。

 

「……判定。天空族個体の身体特性を解析。高高度の薄い大気に順応するため、彼らの聴覚および感覚器官は、通常の地上の人間よりも数十倍鋭敏化している。……これは、特定の高周波の物理振動に対する深刻な『脆弱性』である」

 

 カイトは無表情のまま、防犯ブザーのピンを一気に引き抜いた。

 

 ピィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッ!!!

 

 現代の電子技術が発する、極めて鋭利で不快な超大音量の電子アラーム音が、大理石の正門前に鳴り響いた。

 それと同時に、カイトは自身の固有スキルである『重力操作グラビティ』を即座に発動した。

 

 空間の重力のベクトルを細微に歪め、拡散するはずの音波の振動を逃がさず、前方へ進む突風の波へと結合させる。

 

 ブザーの警告音が一本の目に見えない音の弾丸へと集束され、突撃しようとしていた守護兵たちの耳元へとピンポイントで叩き込まれた。

 

 チリチリチリッ、ドバァァァン!!!

 

 彼らの鋭すぎる耳に直撃した、この世界には存在しない人工的な電子高周波。

 それは彼らの脳を激しく揺さぶり、あまりの激痛と不快感に、構えていた古代魔導槍が一斉に手元から滑り落ちて石畳へと甲高い音を立てて転がった。

 

「な……、が、あぁぁぁっ!? 頭が、耳が裂ける……っ! 我が、我らの精神の加護が、この奇妙な音だけで――っ!?」

 

 近代の日常的な防犯グッズと、元々の重力操作を組み合わせた理詰めの対処により、守護兵どもは一瞬にして三半規管を狂わされ、大理石の石畳へと一斉に蹲るようにして崩れ落ちていった。

 

「わあ、凄いですカイト様! あんなに威張っていた羽の人たちが、小さな箱のピピピって音だけで、みんなひっくり返っちゃいました!」

 

 リアが嬉しそうに尻尾をブンブンと振って歓声を上げた。

 

「……通路の最適化を完了。これより車両へと戻り、都市中枢の気流制御陣へと直進する」

 

 カイトは表情一つ変えずに防犯ブザーのピンを戻して音を止め、再び四輪駆動車の運転席へと乗り込んだ。

 

 しかし、不落の正門を突破したカイトたちの前に立ちはだかったのは、容易には進ませない天空都市の「本当の防衛構造」だった。

 

 ガガガガ、とダッシュボードの軍用高精度ナビゲーション端末が警告音を鳴らす。

 フロントガラスの向こうに広がっていたのは、直線的な大通りなどではなく、幾重にも複雑に絡み合った白大理石の「空中回廊」と、上下左右に複雑に分岐する巨大な立体迷宮だった。

 

 しかも、都市の心臓部が過負荷を起こしている影響で、回廊の隙間からは、車体ごと吹き飛ばしかねないほどの不規則な乱気流が、猛烈なインターバルで噴き出している。

 

「……判定。前方の構造インフラに著しい遮断不備。都市内部は強固な立体格子状の迷宮構造を形成。さらに、中枢へ続く主回廊は、暴走した気流による物理的な『防壁』によって完全封鎖されている。……四輪駆動車およびキャンピングトレーラーの巡航速度での突破は不可能」

 

 カイトは静かにアクセルから足を離し、ブレーキを踏み込んだ。

 いくら重力操作で車体を軽くし、簡易ウィングで風をいなせるとはいえ、都市全体を覆う迷宮と暴風のトラップを、力任せに直進するだけでは突破できない仕様になっていた。

 

「あれ? カイト様、真っ直ぐ進めないんですか? あの風の壁、私がパンチで壊してきます!」

 

「……却下だ、リア。あの気流の防壁は都市の動力源と直結している。物理的な破壊は、都市全体の浮揚インフラを急停止させ、下界への広域落下災害を引き起こす。論理的ではない」

 

「うう、じゃあ、じっくり道を調べながら進むしかないんですね……。せっかくお空の上まで来たのに、一筋縄ではいかないなんて、いじわるな街です」

 

 リアがピンと立てていた耳を少しへにゃりと寝かせ、助手席のシートに背を預けた。

 

「ふふ、面白いじゃない。力押しが通じない立体迷宮なんてね。カイト、これだけの規模のバグを解き明かすには、少し腰を据えて計算を回す必要がありそうね?」

 

 エルザが本革のローソファでクスクスと笑い、調律杖の先端でナビゲーションの画面を覗き込んだ。

 

「……肯定だ。これより、環境の完全な監査と、最適ルートの算出を行うための『一時停車手順』へと移行する」

 

 カイトは回廊の安全なデッドスペースに車を滑り込ませ、魔石エンジンをカットした。

 

 長期的なルート解析と、暴走する気流の周期性の割り出し。これには、カイトの論理式を以てしても、一定の演算時間を要する。簡単に敵の中枢にたどり着くことを、この天空都市のシステムは拒絶していた。

 

「解析完了までの間、個々のエネルギー補給を推奨する。……展開」

 

 カイトは、自身の纏う漆黒のジャージのポケットにそっと手を差し入れた。

 一日二回だけ、衣服の特殊な機能によって無から取り出すことができる簡易食料の権能。カイトが手を引き抜くと、そこには丁寧に包装された現代の『個包装のエネルギーゼリー』と『チョコレートバー』が人数分、寸分の狂いなく握られていた。

 

「わあ! カイト様のジャージから出る美味しいおやつです! もぐもぐ……うん、甘くて元気が出ます!」

 

 リアが手渡されたチョコレートを嬉しそうに頬張り、再び耳をピコピコと揺らし始めた。

 

「本当に不思議な衣服ね。私もこれをいただくわ。……さて、カイト。この難攻不落の空の迷宮を、貴方はどうやってデバッグするつもりかしら?」

 

 エルザが冷たいゼリーを優雅に口に運びながら、妖しく赤い瞳を輝かせた。

 

 車外では荒れ狂う暴風と、複雑怪奇な古代の立体回廊がカイトたちの行く手を阻んでいる。

 

 しかし、完璧に温度管理された白銀の移動要塞の中で、カイトは無表情のまま端末のデジタルマップを見つめ、天空都市の心臓部へ至るための「真の最適解」を、静かに、そして冷徹に弾き出し始めようとしていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!

よろしくお願いいたします。

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