第113話:機能性の真価
翌朝、リスタの街は柔らかな朝陽に包まれていた。
宿の一室で、カイトは身支度を整えながら、自身の纏う漆黒のジャージの襟元を正した。
一見すればただの動きやすそうな服だが、その機能性は、この世界のいかなる銘入りの鎧をも凌駕する。
カイトが事象出力によって生成したこの装備には、自動洗浄、魔法・直接攻撃への耐性、そして内部の隠しポケットから一日二食の精製食料を取り出せるという、理を外れた機能が備わっていた。
「……カイト様、おはようございます。……ジャージの食料精製機能、今朝も正常に作動しました。……温かくて、とても美味しいです」
部屋の扉をノックして現れたリアが、幸せそうに口元を拭いながら報告する。
彼女の黒いジャージも、昨日の依頼で付着したはずの泥や埃一つなく、新品同様の光沢を放っていた。
「……問題ない。……それがこの装備の基本仕様だ。……エルザの状態はどうだ」
「……それが、朝から鏡の前で自分の姿を眺めていて……。……この服、シルエットが綺麗に見えるって喜んでいます」
カイトは無表情のまま頷き、部屋を出た。
階段を下りると、一階の食堂でエルザが優雅に椅子に腰掛けていた。彼女の手には、カイトが与えた魔導制御用の杖が握られている。
「……おはよう、管理者様。……この杖、少しずつ馴染んできたわ。……貴方が言う通り、回路の暴走を抑える『重し』としては、今のところ完璧ね」
エルザは不敵な笑みを浮かべるが、その瞳には、魔力回路を蝕む呪いへの微かな疲労が見え隠れしていた。
彼女の呪いを解くには、カイトがさらなる感謝ポイントを溜め、失った権能を再構築していく必要がある。
「……今日は、リスタの街の西側に広がる廃村付近まで足を伸ばす。……最近、そこで魔物の異常発生が報告されている。……住民からの相談もあり、解決すれば纏まった感謝ポイントが見込めるはずだ」
「了解しました、カイト様。……回避タンクとして、全力でお守りします」
リアが拳を握り、気合を入れる。
カイトは手元のリストを確認した。リペア、ヒール、身体強化、そしてグラビティ。
今の自分に扱える手札で、いかに効率よく「不備」を解消するか。
「……出発する。……身体強化の魔法維持をリアに、グラビティの精密展開をエルザの補助に回す。……無駄な戦闘は避け、最短距離で核を叩くぞ」
「……はいはい、了解。……今日も貴方の駒として、せいぜい働かせてもらうわよ」
漆黒の装束に身を包んだ三人の影が、宿の玄関を抜けて街へと繰り出す。
周囲の冒険者たちがその異質な統一感に目を奪われる中、カイトは冷徹な眼差しで、前方の空間に漂う微かな魔力の歪みを捉えていた。
神に制限された男と、忠実な狼の娘、そして呪われた吸血鬼。
パーティ『ブルームーン』の次なる標的は、既に定められていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もしこの「ジャージ管理者の等価交換ファンタジー」を面白いと思ってくださったら、ぜひ評価の「星」やブックマークで応援していただけると、カイトの魔力と作者のモチベーションがリペアされます!
よろしくお願いいたします。




