第103話:蓄魔石の統合と『自動変換』の実装
廃坑の奥、冷たい静寂が支配する空間で、カイトは作業を終えた。
足元には術式を遮断され、物言わぬ石像へと戻った五体のゴレムが転がっている。その胸部からは、目標としていた『蓄魔石』がすべて回収されていた。
「……よし、素材は揃った。エリザ、その杖をこちらへ」
エリザは大人しく、黒い杖『もう壊さない杖』を差し出した。
カイトは回収したばかりの青い結晶を宙に浮かせ、杖の先端、魔力放出部の周囲に等間隔で配置する。
「……カイトさん。蓄魔石の並列配置による、魔力バイパスの構築準備が整いました。……エリザさんの魔力波長に合わせ、同期率を九八パーセントに固定します」
「……了解だ。事象定義。……蓄魔石五基を仮想回路として連結。……エリザの内側から溢れる『淀み』を、この石を通して自動的に高密度エネルギーへ変換しろ」
カイトの両手から放たれた幾何学的な光の帯が、浮遊する石と杖を固く結びつける。
キィィィィィン……と、耳鳴りのような高周波が坑道に響き渡った。
青い結晶が杖の基部に吸い込まれるように溶け込み、黒い木目の中に美しい蒼のラインが幾筋も走り抜ける。
「……『自動変換パッチ』、適用完了だ。……エリザ、持ってみろ」
エリザが恐る恐る杖を握る。その瞬間、彼女は思わず声を上げた。
「……な、何これ。……今まで、私の魔力は無理やり外へ吐き出さないと身体が壊れそうだったのに。……今は、ただ持っているだけで、溢れた力が勝手にこの杖に吸い込まれて……心地よい微熱に変わっていくわ」
「……それが自動変換だ。お前の制御しきれない魔力を、杖が『予備バッテリー』として勝手に蓄積する。……これでもう、一発撃っただけで気絶するような無様な姿は見せなくて済むな」
カイトは無表情のまま、羊皮紙の数値を更新する。
これでエリザの継戦能力は、従来の十倍以上に跳ね上がった計算になる。
「……ありがとうございます、カイトさん。……これでブルームーンの総火力、およびエリザさんの生存率が大幅に向上しました。……リソースの運用効率として、極めて理想的な形です」
「……ふふ、あははは! 凄い、凄いじゃない! 私、今なら無限に魔法が撃てる気がするわ!」
喜びのあまり、エリザが杖を振り回して闇の礫を無造作に放とうとする。
カイトはその手首を、一切の容赦なく掴んで止めた。
「……調子に乗るな。……予備があるからといって無駄撃ちすれば、またすぐに空っぽだ。……あくまで『効率』を最優先しろ。それがブルームーンの、そして管理者の下にある者の絶対的なルールだ」
カイトの冷徹な視線に、エリザは毒気を抜かれたように肩をすくめた。
だが、その表情に嫌悪感はない。むしろ、自分という暴走しがちな存在を、完璧な数値で御してくれる相手への、奇妙な信頼が芽生えていた。
「……分かったわよ、厳しい管理者様。……大事に使うわ、この『予備バッテリー』」
「……よし。帰還するぞ。……リア、道中の魔物の反応は?」
「……現在、広域スキャンを継続中。……小規模な反応が数件ありますが、私たちの『ジャージ』の隠密性を突破できる個体は皆無です。……最短ルートで街へ戻れます」
漆黒のジャージを纏った三人の影が、廃坑の闇を音もなく滑り抜けていく。
手に入れたのは、強力な素材と、制御された力。
銀貨はまだ増えていない。だが、彼らの持つ『カード』は、リスタの街の常識を遥かに超越した領域へと到達しようとしていた。
カイトは歩きながら、次なる最適化の対象――自分自身の『魔導銃』の強化案を脳内で練り始めていた。
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