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レベル999の最強勇者になったのに、左手の結婚指輪(呪い)が嫁の説教を再生し続けてくる件  作者: セルライト
第一章:黄金の檻と「最強」の退屈

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第一章:黄金の檻と「最強」の退屈 第1話:レベル999の目覚め

目覚め

「……は?」

佐藤健一の意識が泥のような眠りから浮上した瞬間、最初に感じたのは、これまでの人生で一度も味わったことのない「圧倒的な全能感」だった。

つい数秒前まで、彼は湿った安アパートのキッチンで、賞味期限の切れた発泡酒を煽っていたはずだ。足元には脱ぎっぱなしの靴下、耳の奥には「また洗い物残してるじゃない」という妻・美紀の、神経を逆なでするような尖った声がこびりついていた。

だが、今、健一の瞼の裏を刺したのは、安っぽい蛍光灯の光ではない。天窓から降り注ぐ、神々しいまでの黄金色の陽光だ。

健一がおそるおそる目を開けると、そこは精緻な彫刻が施された大理石の柱が幾重にも並ぶ、広大な王宮の寝室だった。天井には巨大なシャンデリアが揺れ、床にはふかふかの深紅の絨毯が敷き詰められている。

「お、おい……これ、どうなってんだ?」

自分の声を出して、健一は二度驚いた。酒焼けして枯れていたはずの声が、腹の底から響くような、重厚で艶のあるテノールへと変貌していたのだ。

狼狽えながらベッド脇の巨大な姿見に視線を向けると、そこには「完璧な男」が立っていた。

中年太りではち切れそうだった腹は消え失せ、腹筋は鋼のように硬く、幾何学的なラインを描いて割れている。背丈は優に一八〇センチを超え、肩幅は広く、全身の筋肉がまるでバネのように、静かながらも爆発的なエネルギーを秘めて脈打っていた。

無精髭に覆われていた顔は、彫りの深い、冷徹さと高貴さを併せ持つ美青年のそれだ。漆黒の戦装束を纏い、背中には身の丈ほどもある聖剣『エクスカリバー・リベリオン』が、主の目覚めを祝福するように重厚な銀光を放っている。

「勇者ケンイチ様! ようやく、ようやくお目覚めになられたのですね!」

静寂を破ったのは、水晶を打ち鳴らしたような、透き通った女の声だった。

駆け寄ってきたのは、耳の先が尖った、息を呑むほど美しいエルフの少女だ。絹のような銀髪を揺らし、翡翠色の瞳を潤ませている彼女の名は、聖女リリナ。

「ずっと、お待ちしておりました。あなたがこの世界を救う、唯一の希望なのです」

リリナが健一の手をとり、その場に膝をつく。彼女の背後には、さらに二人の美女が控えていた。

一人は、しなやかな肢体を革鎧に包み、興奮を抑えきれない様子で虎柄の尻尾をパタパタと左右に振る、猫耳騎士のクロエ。

もう一人は、黒いローブの間から白い脚を覗かせ、分厚い魔導書を傍らに浮かべた、気怠げながらも知性を感じさせる天才魔導士のメイ。

「勇者様、魔力測定の結果が出ております……」

メイが震える指先で、枕元に置かれた巨大な水晶玉を指し示した。そこに浮かび上がったのは、この世界の理を根底から覆す、残酷なまでに圧倒的な数字だった。

【STATUS: KENICHI SATO】

【LEVEL: 999】

【CONDITION: DIVINE ARMAGEDDON】

「レベル……999……。測定不能なまでの神域の強さです。あなたが指先をひと振りすれば、一国の軍勢など瞬きする間に塵に帰すでしょう」

メイの言葉を聞いた瞬間、健一の全身を、理不尽なまでの万能感が駆け抜けた。

拳を軽く握り込むだけで、空間そのものが悲鳴を上げて軋む。視界の端に映る空気の揺らぎすら、魔力の流れとして視認できる。

(レベル999……。この国を救うのも、あるいは気に入らない奴らを根こそぎ消し去るのも、すべては俺の気まぐれ一つか)

健一の脳裏に、現実世界の惨めな記憶がよぎる。

サービス残業を押し付けてきた肥満体の課長。

満員電車で舌打ちをしてきた見知らぬ男。

そして何より、「あんた、いつになったら出世するのよ」と、食事中に冷たく言い放った妻・美紀の蔑むような目。

ここでは、そんな卑屈な日常など塵に等しい。

俺を縛るローンも、俺を罵倒する上司も、俺を失望させる家族もいない。

健一は、口の端を傲慢に歪めて笑った。

「そうか……。俺は、ついに手に入れたんだ。何にも縛られない、最強の自由を。この力があれば、俺は世界の王にだってなれる」

「はい、ケンイチ様。これからは私たち三人が、公私ともにあなたを支え、あらゆる欲望を満たすことを誓いましょう」

リリナが艶めかしく微笑み、健一の逞しい腕に己の胸を押し当ててくる。

欲望と歓喜が混ざり合った、新たな人生の幕開け。

だが、その時。

絶大な万能感の中で、健一の左手の薬指に、冷たく、重い「違和感」がまだ残っていることに、彼はまだ気づいていなかった。

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