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レベル999の最強勇者になったのに、左手の結婚指輪(呪い)が嫁の説教を再生し続けてくる件  作者: セルライト
第二章:偽りの救済と、勇者の「ちゃぶ台返し」

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第5話:歴史改ざん! 大図書館を「シュレッダー」にかける


精霊の森シルヴァニアが、一晩にして「広大なアスファルトのコインパーキング」のような無機質な灰色の平原へと変貌を遂げた数日後。

佐藤健一が次に降り立ったのは、世界の叡智が集積されているという空中都市、**『大図書館・アレクサンドリア』**だった。

そこには数万年の歴史、禁忌の魔導書、歴代の英雄たちが書き残した武勲詩、そしてこの世界の物理法則を定義する「原初の記述」が納められている。いわば、この異世界の「バックアップデータ」とも呼べる場所だ。

「勇者様……もう、本当にお止めください……」

聖女リリナの声は、もはや枯れ果てていた。彼女の瞳からは涙すら出ない。かつて慈愛に満ちていた聖女の顔は、あまりの理不尽な破壊を目の当たりにし続け、深い絶望の淵で凍りついていた。

「ここには、この世界の全てが記されているのです。過去も、未来も、私たちが生きてきた証も……。ここを壊せば、私たちは自分たちが何者であったかさえ、忘れてしまいますわ!」

健一は、雲海に浮かぶ白亜の塔を見上げ、無造作に鼻をすすった。

その視線は、知識の殿堂を仰ぎ見る学徒のそれではない。

年末の大掃除で、パンパンに膨れ上がった「古紙回収用のゴミ袋」を睨みつける、殺気立った家主の目だった。

「リリナ。美紀がよく言ってたんだよ……」

その言葉が発せられるたび、世界の一部が物理的に消滅する。リリナ、クロエ、メイの三人は、条件反射で肩を震わせた。

「『あんた、この10年前の専門誌、いつ読むの? 今まで一度でも開いたことある? ないわよね? 読みもしない紙の束を取っておくのはね、知識への敬意じゃなくて、ただの執着なのよ。スペースの無駄! 捨てなさい!』……ってな」

健一は一歩、図書館の重厚な大扉を蹴り破った。

中には、数千万冊に及ぶ書物が整然と並び、浮遊する魔導司書たちが静かに知識を管理していた。

「止まれ、異世界の破壊者よ!」

中央の巨大な書架から、この図書館の守護者である**『叡智の賢者・ロゴス』**が姿を現した。彼は実体を持たない情報の集合体であり、その体は無数の文字と数式で構成されている。

「貴様がこれまで犯してきた暴挙は、全てこの記録の海に刻まれている。だが、この『根源の書』だけは触れさせん。ここを消せば、この世界の因果律ロジックが崩壊し、全てが無へと帰すぞ!」

「因果律? ロジック? ……笑わせるな、おじいさん」

健一は左手の指輪を、忌々しそうに、そして誇らしげに掲げた。

「お前は、自分が大事にコレクションしていた未開封のフィギュアや、苦労して集めた全巻揃いの漫画が、美紀の『断捨離モード』という名の荒ぶる神の裁きによって、一瞬で地域のフリーマーケットに出品された時の虚脱感を知っているか? 自分のアイデンティティだと思っていたものが、見知らぬ他人に『百円なら買うわ』と査定される、あの魂のシュレッダーを知っているか!?」

健一のレベル999の魔力が、指輪を通じて「超高速回転する物理的なカッター」へと変換された。

それは魔法ではない。それは、あらゆる物質を細切れにする、主夫の怒りが形を成した**「概念的シュレッダー」**だった。

「知識に価値があるんじゃない。美紀が『片付いたわね』と満足する、その平穏なリビングにこそ価値があるんだ! この世界が俺を帰さないための『理由(記録)』を溜め込んでいるなら、その理由ごと、シュレッダーにかけてやる!」

健一が右手を一振りした。

瞬間、図書館の第一階層に並んでいた歴史書が一斉に宙に舞い上がり、健一の放つ魔力の刃によって、粉々の一片かけらへと変貌した。

「あああ! 私たちの王国の建国史が! 英雄たちの名前が、文字が消えていく!」

魔導司書たちが絶叫し、消えゆく紙片を繋ぎ止めようとする。だが、健一の破壊は「忘却」よりも残酷だった。

「……あ、これ、美紀がよくやってたやつだ。重要そうな書類も、俺の給与明細も、シュレッダーにかける時は本当に楽しそうなんだよな。ジジジッ、って音が心地いいんだってさ」

健一の魔力はさらに加速し、空中都市アレクサンドリア全体を包み込む「巨大なカッター」へと膨れ上がった。

数万年の歴史が、ただの「燃えるゴミ」へと変換されていく。

「やめろ! 止めろ! 私の、私の存在そのものが希薄になっていく……!」

賢者ロゴスの体が、文字が欠けるごとに透けていく。この世界の歴史が消えるということは、その歴史の上に成り立つ存在もまた、その根拠を失うということだ。

「ロゴス。お前、自分の重さを知ってるか?」

健一は、消えゆく賢者の胸ぐら(文字の塊)を掴み、至近距離で言い放った。

「美紀はな、古新聞や古雑誌を縛る時、必ず俺に言うんだ。『あんた、これ持って一階のゴミ集積所まで三往復してきなさいよ。運動不足でしょ』ってな。……お前の蓄えた数万年の歴史が、俺の腰にどれだけの負担を強いるか考えたことがあるか? お前の『叡智』はな、重いんだよ! 重すぎるんだよ!」

健一の怒号と共に、図書館の最深部に納められていた「世界の理を記述する魔導書」が、真っ二つに引き裂かれた。

ズガァァァァァァン!!

空中都市の基盤となっていた浮遊魔法の記述が消去され、数兆トンの質量を持つ巨大図書館が、重力に従って地上へと落下を始めた。

「勇者様! 落ちますわ! 私たちも死んでしまいます!」

クロエが健一の足にしがみつく。

「死なねえよ。美紀の『あんた、高いところの埃もちゃんと取りなさいよ』っていう命懸けの窓拭き指示に比べれば、自由落下なんてアトラクションだ!」

健一は落下する図書館の瓦礫の中で、空中に舞う無数の紙片を眺めていた。

それは、雪のように美しく、そして残酷だった。

この世界の因果関係が、英雄の武勲が、人々の想いが、全て「意味を持たない白い紙」へと還元されていく。

「……システム。聞こえてるか。信仰も、金も、自然も、歴史も、全部細切れにしてやったぞ。……お前の『設定資料集』は、もうボロボロだ」

健一の足元では、世界の風景がバグを起こし始めていた。

歴史という「文脈」を失った世界は、木々が青色に変わり、空がひび割れ、海が静止する。

まるで、古すぎて読み込めなくなったデータファイルのように。

「……さあ、次だ。あと少しで、この世界は『空っぽ』になる」

健一の瞳には、かつての温厚なサラリーマンの面影は微塵もなかった。

彼は、愛する妻のいる「地獄」へ帰るために、目の前の「楽園」を、事務的に、徹底的に、再起不能なまでに解体し続ける。

「……次は、この世界の『命』そのものを司る、最後の砦だ。……美紀の『冷蔵庫の整理』並みに、容赦なくやってやるよ」

空中都市アレクサンドリアの墜落地点には、巨大な白いクレーターだけが残された。

かつての叡智は、風に吹かれるちりとなり、世界から「記憶」という概念が急速に失われていく。

健一は、バグによって歪み始めた地平線を見つめ、次なる標的――生命の輪廻を司る『転生の泉』へと、重い足音を響かせながら歩き出した。

左手の指輪は、世界の記憶を飲み込み、もはや光を反射することさえない「絶対的な黒」へと変色していた。

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