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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第三章 破壊と調和と誓いの結婚式
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25.月と知の国の帝都2

 馬車が進むにつれ、街はどんどん華やかになる。

 エレノアも帝都オルディナスへ来るのははじめてだったが、知識としては知っていた。


 帝都の中央にあるのが皇宮だ。

 皇宮の周辺には、魔導院、学院があり、そしてもっとも高い位置に神殿がある。それが知の都を形作り、この国も権力の形を示していた。


 魔力を操る魔道士は、神聖力を持って生まれた神官達と同様、希少な存在だ。

 イゾルデは武の国であるが、魔導院もあり、魔道士もいる。しかし、剣気(オーラ)を操る剣士に比べて、彼らの地位は消して高いとは言えない。


 進む先の皇宮の門は高く鋭くそびえている。黒い城壁にまもられた城の中は、青銀の魔石があちらこちらに置かれて、日中でも皇宮を神秘的に照らしていた。


 門はルヴィンたちの馬車と、イゾルデの馬車を招き入れ、またゆっくりと閉まっていく。当然ながら皇宮は広く、いくつかの門を超えて、ようやく宮殿が見えてくる。


 出迎える騎士達や貴族達の前で、馬車は止まった。先に馬車から降りたルヴィンがイゾルデの馬車の前にやってきて、エレノアに手を差し出す。エレノアはそっと手を添えて、馬車を降りた。

 そこには、出迎えの騎士達が待ち構えていた。銀色のマントを着た騎士の一団だ。先頭にいた騎士が胸に手を当て頭を下げる。


「無事のご到着、安堵いたしました」

 戦場のルヴィンの天幕で相対した記憶がある。皇宮騎士団長のアリステア・ロッシュだ。


 なるほど、こちらが襲撃を受けながら道を外れて進んでいる間に、さっさと公道から先回りしたのだろう。

 エレノアを迎えに来たようなことを言いながら、ルヴィンと発ったのを追って警護せず先回りするなど、真意が知れない。


「ルヴィン殿下がご一緒でしたので。道中も心安らかでしたわ」

 ルヴィンに手を取られたまま、エレノアは微笑んだ。ロッシュは皮肉な笑みを深めた。そのまま再びうやうやしく頭を下げる。

「どうぞ、こちらへ。皇帝陛下がお待ちです」



 案内された謁見の間は黒く光る石で築かれており、銀の装飾を施されていた。

 銀糸で美しく彩られた紺藍の絨毯がまっすぐに伸びている。他と同じように青銀の魔石と、蝋燭の暖かい炎が部屋を荘厳に照らしていた。


 銀色の髪に、白銀の冠を乗せている皇帝が、玉座にいる。

 帝冠に永遠を主張する宝石エテルニアイトが輝いているのは、イゾルデの皇帝と同じだ。ヴォルネスの皇帝の白銀に輝く冠には、さらに白銀に輝くものや紺藍の夜のような宝石がちりばめられている。

 その玉座の後ろには、月をかたどった装飾が施されていた。


 立ち止まり、膝を突いたルヴィンの横で、エレノアも膝を折る。ドレスの裾をつまんで頭を下げて、慎重に淑女の礼をとった。

 ルヴィンが頭をさげたまま声を上げた。


「停戦調停を終え、戻って参りました」

 うむ、と皇帝が応える。

「よく戻った。そなたの功績で、多くの損害を出さず、問題を解決することができたようだ」


 終戦について、皇帝はあっさりとそう言った。どこに解決があるのか分からないあの不毛な戦争も、戦闘も、兵達の死も、ただの「問題」であったかのように。

 確かに国政からすれば問題だろう。皇帝にとってはそれ以上でも以下でもないかのようだった。


「ヴォルネスの皇女もよくぞ参られた」

 皇帝に声をかけられ、エレノアはさらに深く頭を下げた。


「清廉なる月と知の化身であらせられるヴォルネス帝国の皇帝陛下に拝謁いたします。太陽と武のイゾルデ帝国の皇女、アデライン・バートランドにございます」

 うむ、と再び皇帝は応える。

「遠い道のり、さぞや苦労されただろう。まずは旅の疲れを癒やすが良い」


 エレノア達が度々うけた襲撃など知らぬ顔で、皇帝は言った。

 本当に知らないのか、彼が関わっているのか、エレノアには分からないが。他人事のように話す皇帝は、恐らく関わりないのではないかと思った。そぶりを見せないだけかもしれないが。


 皇帝の隣にいるのは皇后か。

 現皇后はルヴィンの母が亡くなった後に迎えられた人だ。敵意丸出しの目でエレノアを見ているが、なにも言葉を発しなかった。


 イゾルデの皇族は、月の光の加護を受けたとされる象徴的な銀髪であることが多い。皇帝はその例に漏れず、皇后は金髪だった。

 ルヴィンの黒髪は、彼らの中では明らかに浮いている。


 なるほど、ルヴィンの立ち位置の難しさが見えてくる。


 皇帝といくつか会話を交わし、エレノアは皇太子宮へ部屋を与えられることになった。客人であり皇太子の婚約者である、という扱いのようだった。



 ルヴィンの案内で皇太子宮に入ってすぐの広間に、肖像画が飾られていた。

 黒い髪に灰褐色の瞳の女性だ。美しく微笑み、胸に抱いた赤児を見ている。その赤児の髪も黒く、赤い瞳をしていた。


 あれは誰なのか。

 予想は難しくないが、どこか張り詰めたルヴィンの背中に問うのははばかられる。


「どうぞ、こちらです」

 辿り着いた部屋の前で振り返り、ルヴィンは貼り付いたような微笑みを見せた。


 戦場ではじめてアデラインとして相対した時に見せた、あの笑顔だ。彼にとっての無意識の顔だろう。

 エレノアに対してのものというよりは、先程の謁見から貼り付いたもののように思えた。

 ルヴィンが部屋を開けると、爽やかな風が通り抜けた。


「皇太子宮の中では、庭でも図書室でもご自由にお過ごしください。ご不便がありましたら、何でも侍女にお申し付け下さい」

 案内されたのは、庭園の側の日当たりの良い部屋だった。


 アデラインのいたあのガラスの温室を思わせるような、暖かで明るい場所だ。開け放たれた窓からは庭の花々が見える。

 エレノアが足を踏み入れると、次々と荷物が運び込まれてくる。


「お心遣い感謝いたしますわ」

 丁寧に膝を折り、ドレスの裾をつまんで礼をすると、ルヴィンは自分の表情に気付いたようだった。少しくだけた笑みで応える。


「大変心苦しいのですが、戦後の処理が山積みとなっておりますため、失礼せねばなりません。どうぞごゆっくりお体を休めて下さい」

 言い置いて、ルヴィンはすぐにいなくなってしまった。


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