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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第二章 赤い目
24/31

23.赤い目3



 ほどなくして、コンコンと馬車の扉をノックする音がした。扉の近くに座っていたリーシャが、どうすべきか迷った顔でエレノアを見る。


 扉の向こうからは慣れ親しんだ気配がする。エレノアが頷くと、リーシャがそっと扉を開けて外をうかがい、そして顔を輝かせた。大きく扉を開く。


「ミクソン卿!」

 扉から魔力の残余が流れ込んできた。外界から切り離されていた馬車の室内へ、外の騎士達の立ち働く声や、鎧の音が入ってくる。

 外に毒気はないが、未だ血と焼け焦げた臭いが充満していた。


「皇女殿下、皆様、ご無事ですか?」

 馬車の外で騎士の礼をして、クリフォードがうややしく言った。余裕がある。怪我もないようだ。


 馬車を降りたかったが、さすがにそういうわけにもいかない。エレノアにかけた毛布をしっかり掴んでいるメイザー夫人が許してくれるはずもない。

 仕方がないので、エレノアは慎重に尋ねた。


「ミクソン卿も、他の皆さんもご無事ですか? 魔獣の他に、影のようなものがおりましたが……」

 暗殺者らしき者は他にもいたはずだが、皇女が知りたがるのはおかしいだろうか。問いの意図を察して、クリフォードは丁寧に返す。


「御心遣い感謝いたします。皆、大禍ございません。仮面の細工が目立つ影がいくつかおりましたが、手当の及ぶ前に倒れました」

 黒幕をたどられぬよう顔をつぶして、自害した、ということだろう。一人はルヴィンが黒焦げにしてしまったが。本当は生け捕りたかったに違いない。



「アデライン殿」

 ルヴィンが駆けてきて、クリフォードがすぐにその場から一歩退いた。ルヴィンはクリフォードに頷きかけたあと、エレノアに言う。


「お待たせして申し訳ありません。もうお側に及ぶものはありませんので、ご安心ください」

 エレノアはただ頷いた。この馬車の周りの焼け跡をみれば分かる。


「ルヴィン殿、お怪我はありませんか」

 エレノアの言葉に、ルヴィンは赤い目を和ませて微笑んだ。

「ご心配には及びません。魔獣の相手は慣れております」

 皇太子の言葉とも思えないが、事実だろう。戦争の前は、エレノアと同様、魔獣討伐に駆り出され続けていたはずだから。


「他に魔獣はいないようですが、念のためこの場を動きます。窮屈で申し訳ありませんが、皆さんはこのままこちらに乗っていてください」

 ルヴィンの判断は正しいが、クリフォードを休ませてやることはできなさそうだ。


「どうかご無理なさいませんよう」

 エレノアは、なるべく穏やかに微笑んだ。


 本当は問いを投げつけたい。

 魔獣の目が赤いことに、本格的な魔獣ウェーブの可能性に気づいているのか。問いただしたいが、アデラインの立場で魔獣について詳しいのはおかしいだろうか。


 魔獣は北部山脈で発生し、人々を襲う。それに違いは無い。

 しかし、魔獣ウェーブは、魔力の歪みが大量に発生し、次元の狭間からやってくる魔獣たちだ。

 災いとしか呼びようのない暗雲が北部山脈を覆い、聖地や辺境をまるで波のように魔獣が襲う。


 そして魔獣ウェーブで発生した魔獣の目は赤い。

 通常の魔獣よりも体が大きく強い。魔獣はどんなものであれ人や獣の常識が通じるものではないが、明らかに他の魔獣よりも凶暴だ。


 今回の停戦の理由の一つが、魔獣の大量発生だった。

 ウェーブの兆しありと、皇帝が言っていた。戦線にいたエレノアが詳しく知らされていないだけで、魔獣ウェーブはすでに起きていたのか。


 そして皇帝は、季節風のようなもの、とも言っていた。ウェーブに程度の差があるのは確かだが、本当にそんな考えで防げるのか。


 実際、目の前の停戦が重要なのは、エレノアも承知している。まずそこを収めなければ魔獣討伐に注力できない。しかし。


「お心遣い感謝いたします」

 微笑むルヴィンの瞳は赤い。


 彼が皇太子でありながら、危うい立場にいた理由の一つだった。より凶悪な魔獣を連想させる、不吉の皇太子。


 エレノアは思わずうめき、額を抑えた。

 フリには慣れているはずだが、横にいたメイザー夫人がうろたえてエレノアの肩を支える。それ以上にルヴィンが動揺した。


「やはり、ご気分が悪いのでは?」

「いえ、わたくしのことは、どうかお気になさらず。侍女達が対処します。どうか今は兵をねぎらい、皆の安全を図ってください」

 エレノアは、微笑みながら返した。今までよりもこわばってしまったが、恐怖のためと捉えたのだろうか。ルヴィンは騎士の礼をした。

「気忙しくて申し訳ありません。必ずお守りいたします」



 馬車の扉が閉まり、すぐに走り出す。エレノアは、ぐっと奥歯を噛みしめ、この結婚の不穏さを改めて思った。


 赤い目の魔獣に襲われたのはそれきりだった。

 それにひきかえ刺客はしつこく、魔獣も帝都が近づくにつれて襲撃の数が増えた。しかし逆に、帝都に近づけば近づくほど大きな町が増え、人の流れも多く、帝国民を巻き添えにすることになる。


 敵も館の住民を殺して入れ替わるようなことは簡単にできなくなるし、街が襲撃を受ければさすがに警備兵が出動する。


 帝都目前の町で、突然パタリと襲撃はやみ、エレノアはイゾルデの馬車と合流することになった。


ブックマーク、評価、リアクション、誤字報告等々ありがとうございます!

次から宮廷と皇后対決メインの3章に入ります

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