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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第二章 赤い目
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19.万が一のための次善の策2

 珍しく、という声が聞こえてくるようだ。

 しかし言葉になっていないので、咎める事もできない。エレノアは暖かいシチューを受け取りながら頷いた。


「さすが私の腹心だ」

「ろくなこと考えてないのもわかりますよ。腹心ですから」

 細やかに気が届きすぎるところが、この男のいいところでもあり、厄介なところでもある。


 エレノアは再度、窓から外を見る。

 炊かれた炎の横で、頓着無く兵達と会話しながら食事をするルヴィンがいる。

 ルヴィンは品よく、エレノアに対して物腰柔らかで立派な皇太子だが、戦場や野営に慣れているようで、兵達にてらいが無い。

 エレノアはクリフォードを振り返り、単褐色(ヘーゼル)の瞳を見て言った。


「政略結婚における婚姻前の性交渉の有効性について考えている」

「聞くんじゃなかった」

 クリフォードはげんなりとつぶやいた。


「ルヴィン殿下に夜這いでもしかけるつもりですか」

「必要であればそうするつもりだが」

「この状況ではさすがに無理ではないですか。ルヴィン殿下は非常に格式を重んじる方のようですし」

 クリフォードはさらにげんなりしてうめくように言った。


「だが、何があるか分からないし、私がかどわかされる可能性もある。さらわれても皇太子が死んでも、和平が有効となる手段を考えなければ。事が起こる前に、婚姻がなったとことにする必要がある」

「そういうことが起こらないようにしてください。さらわれてもなんとかなるでしょう」


「私は平気だが、アデライン殿下はそうではない。アデライン殿下として行動する以上、制約が多い。目撃者を消し損ねることを考えると、下手な手は打てないからな」

 そうですけど、とクリフォードは盛大にため息をつく。

「婚姻の後では既成事実も必要かもしれませんが、まずはあなたが帝都オルディナスへたどり着くことこそが肝要なのでは。それ以前の、あなたの言う性交渉に関して、貞潔でないとかなんとかアデライン殿下が貶められる要因になりこそすれ、得にはならないのでは」

 エレノアは、めんどくさそうな顔をしているクリフォードを見返した。感心した声を上げる。


「ブレるところだった。その通りだ」

「お役に立てて何よりです」

 盛大なため息をつきながら、クリフォードは腹に左手をあてて頭をさげ、大袈裟に紳士の礼をした。


「メイザー夫人が聞いたら怒髪天ですよ」

「確かに」

 エレノアは苦笑した。

「クリフ、冗談はさておいて、ルヴィン殿に代わりの者を頼んで、お前も休め」


「冗談なんですか? 念のため聞きますが、どのあたりが?」

「休まず働けと言ったところだ。休息をとらない者はまともに働けないからな」

 他に何がある? という顔のエレノアに、クリフォードは念押しした。


「俺を休ませて、夜這いを決行するつもりじゃありませんよね?」

「それは次善の策としてとっておく」

 クリフォードは苦笑した。今度は胸に拳をあて、騎士の礼をする。

「お言葉に甘えて、しばし休息をいただきます。殿下も無茶をなさいませんよう」



 しばらくして、メイザー夫人が食事を下げにやってきた。エレノアは丁寧に微笑みながら言う。


「今日は夫人もここで休みなさい。侍女達は別の馬車で休めるのでしょう? 皆が一緒では窮屈でしょうから」

「ですが、またそのようなご無礼を。わたしが気安く接することで、殿下の威光を損なうわけには参りません」

 当然エレノアとしては一人の方が気が楽なのだが、メイザー夫人は予想の斜めを向いた無茶をしそうで、近くに置いておかないと不安だった。


「わたくしを警護するつもりで、一緒に休めばいいでしょう。今は宮殿にいるわけではないのですから」

「もちろん、殿下のことは身命を賭してお守りいたしますが」

「夫人が側にいないと皆が怪しみますよ。それにわたくしが心配なのです」


 エレノアの説得に、メイザー夫人は納得したようだった。メイザー夫人はメイザー夫人で、エレノアが何をやらかすか危惧しているのだろう。



 食事を下げて、兵士達の食事の片付けを手伝ってから、メイザー夫人は毛布を抱えて戻ってくる。

 メイザー夫人と向かい合わせに座ったまま、エレノアは毛布をかぶり、座ったまま目を閉じた。しかしメイザー夫人はエレノアが眠るまで、決して姿勢を崩すつもりがないようだった。


「もう夫人もゆっくり休みなさい。ちゃんと体力をつけておかないと、今後何があるか分からないから」

「何度も申し上げておりますが、私がお仕えしているのは、アデライン皇女殿下です。細かいことではありません」

 なんて頑固なんだ。エレノアはため息をついた。馬車には二人しかいないので、口調を改める。


「臨機応変に努めてくれ。そこで私が寝るまで控えていられると気になって仕方がない」

 エレノアもだいぶ頑固な方だが、メイザー夫人にはかなわない。エレノアが横にならねば、メイザー夫人も決して横にならないだろう。エレノアは馬車の椅子に身を横たえる。


 何かあった時に備えたかったが、どうせ自分が外に出て戦う事はできないのだ。ゆっくり休ませてもらうしかない。

 とは言え、馬車の中は体がなまって仕方がなかった。

 クリフォードに無茶をするなと言われたが、明日の朝にでも外に出て、人目がなさそうなところで体をほぐしたい。それくらいならいいだろう。


 目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませる。

 森の中は身を隠す場所ばかりだ。襲撃犯の格好の餌食になる。今日も襲ってくる可能性が高い。


 メイザー夫人はしばらくエレノアの様子を見守っていたが、エレノアがおとなしくしているのでようやく休むことにしたようだった。身じろぎの微かな音がする。

 メイザー夫人の息づかいが聞こえ、外でたき火番の兵が話している声がする。少し離れたところで、見張りの気配。


 そして、さらに森の奥深――


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