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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第二章 赤い目
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14.入り乱れる思惑

「何をやっている」

 険しい声が間に割って入った。


 髪と目の色にそろえた黒い鎧に赤いマントを着たルヴィンが、大股に天幕を横切ってくる。 ロッシュはすぐさま拳を胸に当て、敬礼した。

 エレノアは、最終手段の覚悟をひとまず引っ込める。


「アデライン殿下をお連れしようと」

「誰の命だ」

「帝都へお連れするのは皇帝陛下の下命です」

 はぐらかした。先ほどは皇太子の下命だと言っていたはずだが、エレノアに調子を合わせただけなのだろう。


「我が妻は私自身でお連れする。そなたらの手をわずらわせる必要はない」

 ルヴィンはスタスタと歩いてくる。自然と割れる兵たちの間をぬってエレノアの前に来ると、うやうやしく手をさしのべてきた。


「アデライン殿、お待たせして申し訳ありません。こちらへ」

 エレノアは二人を見比べた。

 アデラインを連れ去り、周囲を欺いて結婚するつもりの相手か。


 取り囲んで連れ去ろうとする相手か。

 選ぶべきは明白だが、単に従うわけにはいかない。

「向かうのは、帝都オルディナスですね」


 エレノアはゆっくりと言った。でなければ動かないぞ、と。

 ルヴィンは顔を上げて、赤い瞳でじっとエレノアを見る。


 先ほど「聖地インセクレムへ向かう」と聞いているにも関わらず、「帝都へ向かう」ことを念押しした。それを今訂正しないと言うことは、インセクレムへ向かうことは極秘事項なのだろう。


 この状況を鑑みても、政略結婚が諸手で歓迎されたことでないのは分かる。そもそもイゾルデからして身代わりを差し出しているのだから。


 エレノアはロッシュを見る。皇宮騎士団などが出てきては、皇宮に住まう何者かの謀略ということになる。これから向かう先だ。なるほど、まっすぐ帝都へ向かうのを避けたいわけだ。


 邪魔が入るのを防ぐため、聖地インセクレムへ向かい、本来の形式での結婚を行ってしまう、というのは有効な手かもしれない。反対勢力の意表を突き、アデラインを守りつつ、政略結婚を成し遂げるための強硬手段というわけだ。


 だがそれでは、正式であっても公的ではない。

 ルヴィンは決してアデラインを軽んじてはいない。初恋の相手だと言うのが本当ならば、それなりに尊重はするだろう。こちらを油断させるためだとか、そういう意図もあるかもしれないが。


 しかしあまりにもアデラインとイゾルデをおざなりにしている。

 今必要なのは、公的な形だ。


 イゾルデから皇太子妃へと迎えられるアデラインは、帝都オルディナスへ向かい、二人が結婚することを両帝国へ、ひいては他国へ広く知らしめることが必要なことであるはずだ。


 勝手に二人が消えたらどうなる。

 陣を引く軍の中から身を隠して、勝手にインセクレムへ向かうなど、騒ぎになるはずだ。両国への反旗ととらえられないとも限らない。

 ルヴィンは、ちいさくため息をついた。穏やかに微笑み、厳かに言った。


「その通りです、イゾルデのアデライン殿下」

 赤い目が強くエレノアを見てくる。

「アデライン殿の道中の安全は、私が必ずお約束いたします。ぜひ帝都まで、私の馬車にお乗りください。結婚は両国のためですが、その前に少しでもお互いを知りたく思います」

 てめえ話がある、ツラ貸せ。ということだろう。


「お聞き及びと思いますが、私は体が弱く、旅慣れておりませんので、長くご一緒できるか分かりませんが」

 ちょっとだけならつきあってやる、とエレノアは微笑んだ。差し出されたままだったルヴィンの手をとって立ち上がる。


 天幕を満たしていた騎士達は、兜の下であからさまに苦虫をかみつぶしたような顔をしている。ロッシュは平静な表情で、アデラインと目が合うと胸に手を当て、頭を下げた。エレノアはゆったりと微笑む。


「ロッシュ卿。ご足労感謝します。殿下と共に参りますゆえ、ご心配いりませんわ。優れた魔道士でいらっしゃるルヴィン殿下と、皇宮騎士団の警護とあれば、安心してオルディナスへ向かうことができます。我が護衛騎士であるミクソン卿も安心でしょう」

 なんかやってきたら、うちの騎士が黙ってないからな、と言外に告げる。


「ではアデライン殿、参りましょう」

 ルヴィンは流れるような仕草でエレノアの手を自分の腕に導いた。そのままエスコートして歩き出す。


「殿下」

 咎める声が追ってくる。しかし誰も立ち止まらなかった。

 エレノアはルヴィンに手を取られ、クリフォードを従えて共に天幕を後にした。



 陣の内は足場が良くない。ルヴィンはエレノアを気遣いながら、足早にならない程度に急いで歩く。


 戦場はエレノアには慣れた場所だから平気なのだが、高いヒールには慣れないため、腕に捕まってほどほどに一生懸命歩いた。大股にならないよう気を付けながら。


「我々が乗る馬車はあちらにご用意してあります。イゾルデの皇室の馬車は目立ちますので、少し離れて向かうことになります」

 ルヴィンは先を指して言った。

 目立つから守るように陣形を組んで進むのではなく、別に進行するとは。囮にするつもりだということか。

 それはいいのだが、何よりも確認せねばならないことがある。


「先ほどもお伝えいたしましたが、恥ずかしながら私は体が弱く、従者達と離れるのは不安です。ロッシュ卿のお話では、従者たちの出立も整っているということでしたが」

 従者たちを捕らえたという意味合いのはずだ。まさか見捨てていくつもりか。


「ご安心を、すでに別の馬車に移っていただきました。皆様、我々の用意した馬車で、アデライン殿と一緒に来ていただきます。元の場所には別の者が」

「天幕からいなくなった護衛の兵たちはどうなりました」

「無用な衝突を避けるように伝えておりましたので、すぐさま私に知らせに来ておりました。ご不安にさせてしまい、申し訳ありません」


 排除されたのではなく、引いたということか。陣内で武力衝突が起こるのはよくない。ただでさえ、敵国と向かい合っている状態だ。間違いではない。

 エレノアが殺される、もしくは連れ去られる前には出立できるよう、綿密に段取りを組んでいたということになる。


 しかも、エレノアの元に誰がやってくるか、あぶり出す道具にされたか。

 ルヴィンと共に歩くアデラインを、働く兵たちがチラチラと見ている。珍獣になった気分だ。


 果たして、こんなに取り急ぎ迎え入れられ、そそくさと去るのが皇家の政略結婚だろうか。ここが戦場であり、のっぴきならない状況であるとはいえ。

 そう思うのだが、この中にエレノアと対峙した者もいるだろうから、怪しまれないか気が気でなく、足早に立ち去りたいのも事実だ。


「さあ、アデライン殿」

 用意された馬車の前で、ルヴィンは立ち止まった。腕に置いたアデラインの手を取り、馬車に入るのを促した。しかしエレノアは立ち止まる。


「私の安全をはかってくださるというお言葉、信じていいのですね」

 アデライン皇女だけではなく、その従者も体面もすべて、守ってもらわねば困る。

「もちろんです」

 ルヴィンはまた、微笑んで見せた。


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