13.自分らしくの線引き2
「わたくしはイゾルデの馬車で参ります。お手をわずらわせる必要はありません」
「殿下の侍女達もすでに出立の準備を整えておりますので、どうぞ我々とおいでください」
エレノアは歯がみした。
ロッシュの発言は、従者達はすでに手中にあることを意味する。従者達を盾に取られるとは、失態だった。長い間離れず、すぐに馬車に戻るべきだった。固まっていて囲まれては面倒だと思ったのだが。
「クリフ」
エレノアは声を低く抑え、隣に立つ護衛騎士に声をかける。クリフォードはエレノアの側に膝をついた。
「どこまで私について来れる」
「身命を賭して」
うん、とエレノアは頷く。
「知っている」
そうでなければこんなところにまでついてこない。
「じゃあ聞かないでくださいよ」
「念のためだ。まあ私についてくる限り、お前に危険が及ぶことはないが」
クリフは肩をすくめて笑った。
「でしょうね」
「あとお前、笑うなよ。次に妙な顔をしたらハーフソーディングの練習相手100回だ」
「いや、あなたに剣で制圧されたら死にますし。練習必要ないでしょ」
「何事も基礎と練習を怠っては足下をすくわれる」
ヴォルネスの兵達がエレノアを見ている。明らかな侮りを感じる。
「それから、私のすることに口出しするなよ」
「そんな恐ろしいことしません」
クリフォードはしたり顔で言った。信頼できる部下だが小憎らしい。しかし今それは置いておく。
「つまらん奴らだな」
エレノアは独りごちた。
アデライン皇女が病弱で気弱な相手だと、完全になめている。
――果たして、アデライン本人は決して気弱などではないが。
暴力というのは強い。何よりも強い。簡単で便利だ。
しかしアデラインはそのようなことを行わない。か弱いからなどという理由ではない。彼女はいくらでも他の者に荒業を代行させられる。
力を見せれば相手は怯え、縮こまり、退くだろう。
だがそれで追い払ったところで、何にもならない。暴力は反発を呼ぶ。それを分かっている人だ。
とはいえ。だ。
エレノアの得意は力技なので。
アデラインの代役にエレノアを立てたという時点で、皇帝はある程度の荒行を許可している。そのはずだ。
容赦なくやっていい、とアデライン本人も言っていた。何かあったらお父様がなんとかするはずとも。きっと、なんとかしてくれるに違いない。
おあつらえ向きにここは天幕の中だ。いざとなれば目撃者を消せば問題ない。下手人はどうにかでっち上げるしかないが。
開き直って、エレノアはゆったりと微笑んだ。
「私はルヴィン殿下をお待ちします」
エレノアは座ったまま、騎士達に向き合う。侮る騎士達とは違い、ロッシュは思いのほか冷徹な表情をしている。
「それは和平のご意志なし、ということですか。イゾルデの意向となりますか」
話が飛躍しすぎている。こいつ、因縁の付け方が下手だな、と、エレノアはあきれた。
「先ほども申し上げましたように、夫となる方を待ちたいのです。何かおかしいでしょうか。お話ししたいこともございますので」
エレノアは微笑んで、おっとりと応える。
ロッシュの眉がピクリとひそめられた、その時だった。




