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最強公女の身代わり結婚  作者: 御桜真
第一章 初恋と猛獣
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9.夫との対面

 その後も幾度か襲撃を受けたものの、皇女の馬車は無事に国境へとたどり着いた。

 まず最初に、皇女の兄である皇太子の元へ挨拶に出向いたが、彼はふんぞり返ってただ言った。


「我が国のため、皇女の務めを全うするように」

 本物のアデライン皇女が言っていたとおり、まったく違和感を抱いていないようだった。


 国の行く先が心配になる。なるが、離宮にいた皇女と顔を合わせる機会は少なかったはずだから、そのせいだと思いたい。


 そして国境の戦場からはブレフロガ騎士団が皇女を護衛し、ヴォルネス帝国の陣営へ送り届けることになっていた。

 皇太子と謁見の後、幕屋でひとまず休息をしていたエレノアは、苦み走った声を出した。


「これは、どういう嫌がらせなんだ?」

 皇女殿下へ、騎士たちが次々に挨拶へやってくる。それをうやうやしく受け続けて、頬がひきつってかたまりそうだ。


「誰も疑っていないから安心してください」

 後ろで控えるクリフォードはニヤニヤと楽しそうに応える。

「似ていらっしゃるなと思ったところで、お二人は従兄弟であったなあ、と思うだけです」

 そうなのだろうが、茶番が過ぎる。


 騎士たちは、皇女殿下へ拝謁する栄誉を喜びこそすれ、目の前の皇女がまさか自分たちの団長だとは誰も思っていない。はずだ。

 気づかれては困るが、違和感すら抱かないのは腹が立つ。ずっと戦場で共にあった者たちだというのに。


 エレノアはなるべくうつむきがちに、肩を小さくしながら騎士たちと過ごした。



 翌日、エレノアはアデライン皇女として、ヴォルネスの陣営へ向かった。

 警護の騎士団は、敵陣に足を踏み入れることはできない。クリフォードと数名の護衛、そして侍女たちだけを伴って、エレノアはヴォルネス帝国の陣の中へ足を踏み入れた。


 この和平は対等に行われたものだ。

 本来であれば、アデライン皇女だけがこうして生け贄のように差し出されるべきことではない。だがやはり、一軍を持って皇女をヴォルネスの皇宮へ送り届けるのは、どうしても相手を刺激するため、避けることになった。


 今、こうして出て行くのがアデライン本人だったら。もしエレノアがエリック公子として警護に従っていたなら、身を切られる思いがしたに違いない。

 心根が優しく、そして体の弱い皇女を、敵に引き渡すのはあまりにも無残に思えただろう。

 自分で良かった、とエレノアは改めて思う。



 兵の居並ぶ敵陣の前で、ヴォルネスの皇太子は、数名の護衛と共に待っていた。


 ヴォルネスの皇太子は、優れた魔道士ではあるが、剣士ではない。黒い髪に赤い瞳の男は、とても静かな面持ちでエレノアを迎え入れる。

 彼はうやうやしくエスコートの手を差し伸べた。


 馬車を降りながらエレノアは、差し出された手にそっと指先を置く。強く握りすぎてはいけない。握りつぶしてしまう。


「ようこそ、ヴォルネスへ。アデライン殿。ルヴィン・ウォルスタインです」

 ヴォルネスの皇太子は、エレノアの手をとったまま、端整な顔立ちを微笑ませて、優しく言った。

 この結婚がどこからどう出た話なのかわからないが、少なくともこの皇太子から敵意は感じない。


「ルヴィン殿。お心遣いに感謝いたします」

 手を握られたまま、エレノアはドレスをつまんで、膝を曲げて挨拶をした。背筋を伸ばしすぎず、目を見返さず、動きは直線でなくまろやかに。


「アデライン・バートランドです」

 ルヴィンはにこりと笑い、ようやくエレノアの手を離す。


「長らく戦がありましたから、私のことを憎く思われるかも知れませんが。良い夫婦となれたらと思っております」

「私もそう願っております」

 なるべくか細い声でエレノアは応えた。


「どうぞ、こちらへ。長旅でお疲れでしょう。皆様の幕屋はご用意してございます。ひとまず私の幕屋でお茶をお召し上がりください」

 ルヴィンは優しくエレノアを案内した。



 ブレフロガ騎士団と別れ、エレノアは数少ない護衛騎士と侍女たちと共に、ヴォルネスの陣営の奥深くへと進んでいく。これまで幾度となく攻勢をしかけた敵陣に、こうしてあっさり踏み込むことになろうとは思いもしなかった。


 案内されたのは、ひときわ立派な幕屋だった。エレノアはクリフォードだけを伴って、皇太子の幕屋へ足を踏み入れる。

 戦場ではあるが、皇太子の幕屋は広く、調度もほかとは比べものにならない。アデラインに椅子を勧めると、彼は手ずからお茶をいれてくれた。


「このようなむさ苦しい場所におこしになるのははじめてでしょう。行き届かないことも多いかと思いますが、ご容赦ください」

「お心遣い、感謝いたします」

「夫婦になるのです。そのように堅苦しくなさらないでください」


 エレノア自身、なるべくヴォルネスの皇太子とは良好な関係を築きたいと思っていた。結婚するのだし、それが政略的なものであるからには、揉めないに越したことはない。

 しかしルヴィンの態度は、それよりもずっと懇篤(こんとく)だ。――そう見せかけているだけかもしれないが。


 彼が言っている通り、政略結婚でやってきた妻に対し、誠実に相対しようとしているだけなのかも知れない。

 だがルヴィンの目は、それよりもずっと、何か深い色がある。親しげな眼差しは、初対面の人間に向けられるものではないように思える。


「唐突な話で、驚かれているでしょう。私もこのようなことになると思ってはいなかったのですが、うれしくも思っているのです」

 ――ん?

 エレノアは微笑みながら、唇の端がひきつるのを何とか抑えた。首を傾けて、ルヴィンを見上げる。ルヴィンは赤い瞳を優しく笑ませて、続けた。


「あなたに再び会える日が来るとは」


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