巻き込まれ
翌朝、
(おはようございます。)
(ああ、おはよう。)
(今日は早いですね。)
(まあな。マルシア王国に宝石を盗みに行こうと思って。その姿を誰かに見られたら駄目だろ。)
(転移するから大丈夫だと思いますけどね。)
(いや、トイレの個室に入って出てこなかったらホラーだろ。絶対騒ぎになる。)
(言われてみればそうですね。ところで、帝国軍もフォーミリア王国の首都付近に到着しましたよ。オペレーションZを発動してもよい頃かと。)
なんてタイミングだ。これから盗みに行こうって時に。
(明日じゃダメか?)
(いいえ。大丈夫だと思います。本国からの伝令を待っているようですから。)
(なら、とりあえずこっちが優先だ。)
ルームメイトたちを起こさないように服を着替え、こっそり部屋の外のトイレへ向かう。
(よし、誰にも気づかれなかったな。)
(それはいいんですけどね。部屋に戻ったらなんと説明するつもりですか?)
(朝の散歩をしてたとかいくらでも作れるじゃないか。)
(そういう頭の回転は本当に天才的ですね。尊敬しますよ、悪知恵の王とでも呼びましょうか。)
(知恵の王と呼ばれるのは悪くないな。)
(悪が抜けてますよ。)
そんな会話をしているとトイレへ到着した。
よしよし、誰もいないな。これなら気兼ねなく転移できる。
まさに転移しようとして魔力を纏い、無意識に身体強化をかけた途端、小さい泣き声が聞こえてきた。
(…聞こえるか?)
(…はい、誰かが泣いているようですね。)
トイレの花子さんとかじゃないよな、ここは地球じゃないし。
あたりを見渡すと、換気のためか窓が開いていた。近づいて確認する。
(結構遠くの方から聞こえてくるな。)
(どうされますか。)
(無視に決まってんだろ。君子危うきに近寄らずっていうし。)
(意味が全然違いますし、そもそもマスターは君子じゃありません。)
(言ってくれるじゃないか、ポンコツ駄目駄目機械。)
(マスターにだけは言われたくありません。)
言い争っている間も泣き声が止む気配がない。
(仕方ない。透視で確認してみる。)
不本意ながら銀の魔力で目を強化し、泣いている人物を探す。
ええと、どこにいるかな?、…げぇっ、泣いてるのはローナじゃねぇか。一番の地雷女。
(どうです?、分かりましたか?)
(…ああ、分かっちまった。最悪だ。)
(誰なんですか?)
(ローナだ。)
(ああ。財務大臣の娘ですね。接触した方がいいんじゃないですか?、帝位争いにも絡んでますからね。)
正直凄く悩む。怖い夢を見たとかで泣いているならいいんだが、辛い未来を見たとかで泣いているなら放置するわけにはいかない。存在するかもしれない未来を知っておくことは俺にとって有利に働くからな。
頭の中でメリットとデメリットを天秤にかける。…はぁ、しゃーねーな。
(…話しに行くぞ。)
(了解です。)
ローナの位置は大体把握したため、トイレから出て学園の屋上へ向かう。
(なんでこうなっちまうんだろうな?)
(マルシア王国と縁がなかったんじゃないですか?)
(ならこっちから強引に接触するまでだ。)
(悪質なストーカーですね。)
(ちげぇよ。)
屋上へ向かうが足取りはすごく重い。しばらく階段を上ると、最上階で扉に突き当たった。
ここから屋上へ出れるんだな。鍵は…かかってねぇな。大丈夫なのか?
(鍵が掛かってない。不用心じゃないか?)
(まあ、寮ではなくて学園ですからね。それに警備員も存在しますから。)
そんなんで大丈夫かよ?、まぁ別に俺はいいんだけどさ。
「ガチャ」
「ウウ、アアアアー--…」
ガチ泣きじゃん。めっちゃうるせえ。
「おい、ローナ。どうした大丈夫か?」
「ふぇぇ?、ひっく、ジン、どうしてここに?」
「泣き声がしてな。それでどうした?、何かあるなら話してみろ。聞いてやるから。」俺のために。
「ウウ、実はー-、ひっく、お母さんが死んじゃう未来がぁー-見えたの。ウワーン、ウウウゥー---・・・」
なるほど政治的な話ではなく、個人的な話か。来なくてもよかったな、間違いなく面倒ごとに巻き込まれたぞ。
(どうしようか、パール?)
(慰めてあげてください。安心しろ、俺が何とかしてやるとか言えば泣き止みますよ。)
(泣き止む根拠はどこにあるんだよ。それにそれだと俺が治す流れになるじゃねぇか。)
(実際に治せるのでいいじゃないですか。)
(よくねぇよ、実力がバレんだろ。もしかしたら利用されるかもしれないし。)
(そのときはそのときですよ。)
やっぱり使えねぇな。こいつは。先のことまで考えろっていつも言うのは誰だよ。
(まぁ、一つだけ方法はあるけどな。)
俺からの紹介で銀仮面を派遣するという流れだ。これなら穏便に済むはずだ。あとは関係者に口止めさえすればそれで終わり…のはずだ。正直、白髪女が怖いが。
(実行されるんですか?)
(正直、財務大臣に肩入れをしてやりたいとは思う。)
(そうなんですね。ほっとくわ、とでも言うと思ってましたよ。)
(言わねぇよ。財務大臣の熱心さには敬意を払うさ。)
(他人を犠牲にしてますけどね、それも違法に。)
(そこまでして助けてやりたいということだろ?、素晴らしい事じゃないか。)
遠くの他人より近くの身内を優先するのは当然だ、まして愛する人ならなおさらだ、俺にはよくわかんねぇけど。いつか俺もその境地に立ってみたい。
(私はそうは思いませんけどね。)
(お前の意見はどうでもいい。)
(ひどいですね。)
「ローナ、一つだけお前の母親を救う方法がある。」
「!!嘘だよ。治癒魔法かけても治らなかったもん。」
「俺を信じてほしい。」
ローナの瞳をじっと見つめる。
「ぐすっ、本当?」
「ああ、本当だ、だから泣き止め。顔が凄いことになってるぞ。」
ローナの可愛らしい顔は汁まみれで気持ち悪い。
「もうバカーーー。」
なんで罵られたんだ?、解せぬ。
「やっと泣き止んだな。」
「それでどうすればいいの?、教えて。」
「俺の知り合いに冒険者がいる。そいつは珍しいアイテムを持ってるからな。絶対に治してくれる。」
「そうなんだ。お願い、できれば早くしてほしいの。お母さんが死ぬのは休みの日だから。」
「!!、それは今日か?」
「わからない。でも私とお兄ちゃんとお父さんの目の前で死んだから休みの日なのは間違いないと思う。」
「そうか。なら今すぐ行くぞ。」
「ええ!?、そんなにすぐ連絡できるの?」
「ああ、一度だけなら可能なんだ。」
(パール、指輪をよこせ。)
(!?、了解です。)
こっそり指輪を受け取り、ポケットから出すふりをする。
「それは?」
「こいつに魔力を流すと、もう一対の指輪が壊れて合図が出せるんだ。俺の場合は帝都の噴水前に来いというものだからな。すぐに外出届を出して向かうぞ。」
「本当にありがとう、ジン。…でも朝はやいけど大丈夫かな。」
「大丈夫大丈夫、俺はあいつに貸しがあるから。」
そもそも俺だしな。
「そうなんだ。」
「ほら早く向かうぞ。誰にも気づかれないようにな。」
「うん。本当にありがとう。」
そう言って笑ったローナに見惚れてしまった。
何見とれてんだ。俺は。相手は12のガキだぞ。いくらなんでも恋愛対象外だろ。
自分にそう言い聞かせてローナと外出届を出しに行く。
ー--??-----
「コンコン」
「失礼するよ、兄さん。」
「あ?、なんだ、ゼルか。どうした、何か用か?」
「一つ提案があって来たんだ。どう、そろそろ帝位争いに参加しない?」
「めんどくせぇな。」
「でも僕たちのどちらかが皇帝にならないと今までのように好き勝手出来ないよ。」
そう言ってゼルと呼ばれた男は、もう一人の男のそばで眠る裸の女を見る。
「ちっ、まぁいい。なら参加してやるよ、んでお前が皇帝をしてくれんのか?」
「そうだね、一回くらいやってみたかったんだ。大陸規模で戦争を起こすの、面白そうじゃない?」
「ほーう、確かに面白そうだな。皇帝になりゃ、もっと面白い遊びもできそうだしな。いいだろ、暴れまわってやるか。」
「それに今回の遊びは面白そうだよ。ノルが本気のようだからね。」
「ああ、あの野郎な。あいつはずっと無能のふりをしていたからな、前から遊びたいとは思ってたんだ。それにここ最近、もう女と遊ぶのも飽きてきたからな。お前もそうだからそんな提案をしてきたんだろ?」
「さすが、兄さん。なんでもお見通しだね。」
「お前の兄貴だからな。」
「それじゃあ、まずはどうしようか。」
「そうだな。あいつら、ちんたらちんたら小競り合いしかしてねぇからな。目を覚ましてやろうぜ。」
そう言って傍らの女性をベッドから蹴落とす。
「ドッサッ」
「おら、邪魔だ。とっとと失せろ。」
「はいぃ。」
女は服も着ずに、部屋から飛び出していった。
とうとうアンタッチャブルな兄弟が動き出す。




