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第0章 明日と不測の事態、不測の事態が先に来る

# 王国を救うつもりが世界を統治することになった件


## 第0章 明日と不測の事態、不測の事態が先に来る


今日も今日とて、死ぬほど疲れた。


手に持っていた買い物袋を床に放り投げると、中から数本のコーラ缶が転がり出た。薄暗い部屋の中で、スマホの画面だけが眩しく白く光っている。


TakTakを開いた途端、目に飛び込んできたのは「システムを手に入れた少年が逆転勝利、敵を全員踏みつけて蹂躙!」みたいな動画だった。無感覚にスクロールしていると、おすすめに出てくるのは似たような内容ばかり。粗末な絵柄と、お約束のハーレム展開が目に焼き付く。


いったい何なんだこれ。主人公は価値観が崩壊してるわ、敵は脳みそがないわ、何度殺しても死なないわ。困難なんて皆無で、しかもダラダラと長い。古代から現代、村から宇宙まで戦い続けて、ハーレムの数なんて生物図鑑が作れるレベルだ。


ソファに背中を預けると、ギシギシとスプリングが軋んだ。その直後、激しいクラクションの音が響き渡る。何事かと身を起こして窓の外を見ようとした瞬間、全面ガラス窓が強烈な光に呑み込まれた。


ビー、ビー、ビー!


「誰だよ、夜中にクラクション鳴らすなんて!おい、これって――」


「大型トラック?」


金属がコンクリートを引き裂く轟音が鼓膜を震わせた。スマホが宙を舞い、放物線を描く。砕けた強化ガラスの破片が、無数の光を乱反射させていた。体が軽くなる。まるで洗濯機に放り込まれた靴下みたいに、無重力の中でぐるぐる回転する。やがて視界は真っ白な光に染まり、体全体がふわふわと浮遊する感覚に包まれた。


『俺の家、26階なんだけど……大型トラックがここまで突っ込んでくるって、ありえるのか?』


薄れゆく意識の中で、両親の顔が浮かんだ。


『俺がいなくなったら、父さんと母さん、どうするんだろう。もしかしたら、もう一人子供を作るのかな……どうか、二人とも元気でいてくれ。ああ……眠い……』


---


「勇者様、勇者様!」


「お目覚めください、早く……!」幼さの残る少女たちの澄んだ声が響く。


「莱格纳殿を動かしてはなりません」薬草の香りを纏った落ち着いた女性の声が制止する。腰に下げた錬金術の小瓶が触れ合い、銀鈴のような音を立てた。「魔力の反動には、代謝の時間が必要なのです」


静寂。白髭の老人が樫の杖を騒ぐ人々の前に横たえると、杖頭の琥珀に俺の青白い顔が映り込んだ。「勇者は間もなく目を覚ます」


視界には、天を貫く十一本のクリスタルブルーの柱が浮かんでいた。液体の光輪を纏ったルーン文字が生き物のように柱の表面を這い回り、飛散する青い光が無数の糸となって水晶柱の周囲を漂っている。明滅するたびに、網膜に灼けるような痛みの残像が残った。体を起こすと、目の前には白髭の老人、その背後には女神像が厳かに佇んでいる。


「あの……おじいさん、それから皆さん。ここは……天国ですか?」かすれた声が密閉空間に響いた。


部屋の両脇で揺れる蝋燭の炎が、その問いを否定するかのように明滅する。異様な静寂。どこか奇妙な空気が流れていた。


幼い二人の少女が顔を見合わせ、揃って隣の女性に視線を向けた——黒いローブに身を包み、片眼鏡をかけた成熟した女性だ。しかし彼女からの指示はなく、誰も先に答えようとはしない。


「……ここは天国じゃなさそうですね。つまり、俺は転生したってことですか? 皆さん、俺の言葉、分かりますよね? まさか言語が通じないとか……?」


気まずい沈黙に耐えかねて、指先で焦げ跡の残る大理石の床をそっと撫でてみる。


『熱っ……まだ熱いじゃないか。これ、何度も焼かれたみたいに真っ黒だな……』


考える間もなく、樫の杖が軽く床を叩く音が響いた。揺らめいていた蝋燭の炎が一斉に星のような光へと姿を変え、天井へと昇っていく。やがてそれらが一つの光球に収束し、室内が眩いほどの明るさに包まれた。白髭の老人が俺の体を支えながら、口を開いた。


「勇者、莱格纳様。ドリーム王国へようこそ」

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