心の友情
「やあ。〇〇。」
大学の講義が終わって、昼飯でも食べに行くかと机に広げていたテキストをカバンに仕舞い込んでいると、突然知らない男から話しかけられた。そいつは明るい茶髪、センターパートの髪型。実に大学生らしい風貌をしていた。しかし、俺は自分で言うのもなんだが陰キャよりの人間だ。サークルにも入ってないし、バイトもしておらず、こんなイケメンの知り合いはいない。
「あぁ。分からないか。ほら、俺◇◇だよ。小学校の時の。四年生まで一緒だった。」
「転校していった◇◇?」と、俺はその名前に一つだけ属性を付け足し、復唱して尋ねる。
「そう。その◇◇だよ。」
「...マジか。クソ懐かしいな。」
昔、彼が小学校を転校するまでの間一番仲の良かった友人だ。お互い内気な性格で友達も少なかったという事もあり、気が合ってお互いの家でゲームなんかしたりしてよく遊んだものだ。
「どうだい。学食で飯でも。奢るよ。」
そう言って、彼は目線を教室の出口へと向ける。俺は懐かしさ反面、タダ飯が食えるという事に釣られて、その誘いを了承した。
学食に着くまでの道中、彼は多くの女の子の友人たちから話しかけられていた。まぁ、この見た目だ。人気があるのも無理もない。彼にとってこれは日常茶飯事な事らしく、柔らかい笑みで適当にあしらっている。俺はその姿を見て、人間変わるもんだなぁと感心していた。
まぁ、そんなモテる奴だ。遠慮や罪悪感もなく、俺は普段なら頼まないカツ丼を奢らせる。そんな俺とは対照的に◇◇は野菜炒めの定食を頼んでいる。肉なんて殆ど入っていないような絶対俺なら頼まないメニューだ。スタイルを気にしてるんだろうな。
俺が椅子に座り、カツ丼を貪っていると◇◇は突然変な事を言い出した。
「良かった。◇◇に君に会えた事を伝えたら喜んでるよ。」
何言ってんだこいつ。
「◇◇はお前だろ。」
俺がそう突っ込むと、彼は微苦笑を浮かべ、
「実は俺は◇◇だけど◇◇じゃないんだ。」と、訳の分からない事を言い出した。
この時、俺はあー、これが大学生が引っかかるような変な団体への勧誘かぁ。と内心失敗したと思っていた。昔の友達を偶然を装って誘うなんてのはよくある話だ。カツ丼代突きつけて帰るか。いくら持ってたっけかなと床に置いてあるカバンに目を向けると、彼は慌てたように手のひらと首を横に振る。
「あ、違う違う。変な団体への勧誘とかじゃないよ。なんて言えばいいかな。分かりやすい例で言うと二重人格って言えば伝わりやすいかな?」
「えっと、あんたは◇◇の別の人格って事?」
「まぁ、大体そんなところ。厳密に言うと違うんだけどね。二重人格ってよりは、いわゆるイマジナリーフレンドの方が近いかな。」
彼は柔らかそうな笑みを浮かべながら、淡々とそう話す。
「空想の友達ってやつか。それがいつのまにか◇◇の別の人格になったって事で良いんだな?」
「話が早くて助かるよ。ああ、殆どそんな感じだ。一番の友達だった君を見つけたから、◇◇が喜ぶかなと思って、話しかけたんだ。」
随分変な言い回しだ。俺は小首を傾げながら、尋ねる。
「交代は出来るのか?」
「それが出来ないんだ。あいつ、友達が誰もいなくていじめられて、高校一年の時に自殺未遂起こしちゃってさ。一命を取り留めたは良いんだが、何故かこの体の主導権が俺にうつっちまったんだよな。困ったもんだよ。」
肩を竦めて苦笑いを浮かべるこいつを見て、ぞくりと変なものが俺の背中を這いずるような感覚に襲われる。
「お前、あいつの体を奪ったのか。」
俺が睨みつけるようにまっすぐ見据えると、まさかまさかと◇◇は目を見開いて慌て出す。
「この体を奪ってやろうなんて気持ちは一切なかったよ。それどころか何度も何度も俺は身体を返そうとはしたんだよ。でも、どうやっても無理でね。」とかぶりを振って、そいつは言葉を続ける。
「あいつ、転校しちゃってから友達誰も出来なくてさ。俺を作ったんだ。俺の周りは真っ暗だったけど、俺はあいつと話すのが好きだったよ。幸せな時間だった、本当に。でも、あいつ死のうとするなんて、俺だけじゃ不満だったんだろうな。」
少なくともそう訥々と寂しげに話す彼の姿には嘘はないように思えた。
「◇◇は元気にしてるのか?」と、俺が尋ねるも、目の前の◇◇はゆっくりと首を横に振る。
「もう、あいつの周りは真っ暗で何も見えないし、声も俺にしか届かない。誰に触る事もできない。あの世界で生まれた俺はそれでも全然平気だけど、そうじゃなかったあいつには耐えられない世界みたいで、あまりにも悲痛で見てて辛かったよ。だから、せめて俺が彼が本来送るはずだった人生を代わりに送ってあげてるんだ。」
そう言って、◇◇は学食中に目をぐるりと走らせる。
「勉強を沢山して親から褒められるようにしたよ。スポーツもして表彰された。沢山友達も出来た。あいつの好みの女を手当たり次第抱いたかな。せめて、そのくらいはしてやらないと可哀想だからな。な!◯◯。だから、あいつの為にこれから俺と仲良くしてくれると嬉しいな。」
再び彼は俺に目線を合わせて、笑ったあと、俺の前に手を差し出してくる。
「今も俺の中で◇◇は、じっとこの声を聞いてるよ。」と言いながら。
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