大学の入学式
俺は着なれないスーツを着て大学の中をひたすら歩く。
履きなれない革靴が、足の小指を刺激して痛いが、泣き言は言っていられない。
何しろ・・・。
「おい!急げよ!もう式が始まっぞ!」
今日の朝は、爽やかな目覚めでは無かった。
頭が少し痛く、喉はカラカラ、胸がむかむかしている。
はぁ、飲みすぎだな。
「俺、先行くぞ!」
坂下が電動キックボードで俺たちを追い越していく。
「おれも乗せろや!」
渡が声を掛けるが、坂下はすい~っと、歩道を走り抜けていく。
「2号館、まだか?」
「あの丘の上、あのでっかいのが2号館だろ?」
行程さ30mは有りそうな丘の上に2号館は建っていた。
「もう、ゆっくり行こうぜ。無理だよ。」
起き抜けでそのまま来たのか、ひげ面の玄田が諦めた様にゆっくりと速度を落とした。
まぁ、入学式は特に何があるって訳でもないから、って先輩も言っていたが、俺たち不死身荘メンバーは間に合いそうにない。
「大丈夫!おれさ、昨日の内に下見に来たんだよ。でさ、裏口を発見しておいたから、余裕!ぜってぇばれねぇから。」
高岡の話を鵜呑みにする訳では無いが、この劣悪な体調で、この丘を登るのは時間が掛かりそうだ。
それでも、5分も歩けば丘の頂上は目の前まで来ていた。
「確か、こっちだ。」
高岡が手招きする。
俺の高校にあった体育館が4つくらい入りそうな2号館が目の前にある。高さも幅もやたらとでかい。
「あ、ここだ!」
高岡が、勝手口の様なスチールで出来た扉の中に入っていった。
「そういえば、坂下は?」
「あぁ、守衛の人に掴まって怒られてたぞ?構内でキックボード乗るなって。」
「俺たちを裏切るからだ。」
それぞれが恨み言を言いながらも、扉をくぐる。
奥からは、マイクを通した、少しくぐもったような声が聞こえている。
多分校長の挨拶か何かだろう。
「ほら、この階段を上っていくと、3階の通路に出るんだ。」
「また昇るのか・・・。」
「うしろ使えとんじゃ、さっさといけや。」
俺がぼやいていると、前田がせっついてくる。
ふざけた様にいっているが、方言が入っていると、聞こえ方が違って聞こえる事も有る。
皆も気を付けろよ?
階段を暫く上ると、オレンジ色の鉄の扉が行く手を阻んでいる。
「ここ、この奥が3階の通路なんだよ。」
高岡は楽しそうだ。
「扉の向こうに誰かいないだろうな?」
「大丈夫だって。」
高岡がゆっくりと鉄の扉を押し開けた。
扉は軋むことなくゆっくりと開き、眩しい光が差し込んできた。
「ここは・・・。」
3階の通路と言う割には、色々な物が置いてある。
物置・・・では無いようだが。
「おぉ!ダンベルじゃん!」
「鉄棒もある。」
「結構設備が整ってんじゃん。」
コンクリートの壁が剝き出しの通路には、トレーニング場と言っていいほどの設備が整っていた。
丘の上にある2号館の3階という事も有って、窓から見渡す景色は最高だ。
「あの辺が不死身荘かな。」
「いや、あっちじゃろ。」
外を眺める俺と前田の後ろでベンチプレスを始める渡。
「ベンチ、何キロ行ける?」
「ん~、最近してないから、90くらいかな。」
「おい、あんまり音を立てるなよ!」
渡が寝転んでいるベンチの横には、観音開きの鉄の扉がある。
そこから、さっき階段で聞こえていた声が、よりはっきり聞こえてくる。
「その扉を開けたら、入学式の会場じゃろ。」
「いまさらだろ?」
「んだぁな。」
とりあえず、扉から聞こえてくる声を聴いて、大事な事を言っていないかだけは聞き逃さない様にしなくては・・・。
暫くすると、扉の向こうが騒がしくなった。
何かあったか?と思ったら、清松が窓の外を見ながら状況を教えてくれた。
「お、みんな出てきてるぞ?入学式終わったんじゃ?」
俺も窓辺へ向かって外を見る。
こんなに沢山の人が2号館に集まってたのか。そりゃぁデカい入れ物が必要だわな。
2号館の窓から眺める4月の空は、良いことが起こりそうな予感にあふれた空だった。




