今までの人生で最大のピンチ!
そう、ボルダリングは、楽しかったんだ・・・。
筋肉が多めの体の為、体重が重く、指先がちぎれそうに思えたが、楽しめたんだ・・・。
折角なら、もっとやりたかった・・・・。
俺は今、病院のベッドに横たわって点滴を受けている。
なぜって?
それは5日前、体調が悪くなったんだ。
最初は風邪だろうと思って、ボルダリングジムに行かずに部屋で寝ていたんだ。
すると次の日、喉が異常なほど痛み出したんだ。
咳をすると激痛が走る・・・。痛いのは得意ではないんだが・・・。
それでも、いずれ治るだろうと自分の部屋に戻って寝る事にしたんだ。
同室のメンバーにうつすと嫌だしな・・・。
しかし、部屋に戻っても食い物は無い。
だから、朦朧とした思考のまま食材を買って帰った。
どうやって帰ったかも覚えていない。
次の日、喉だけではなく、口の中も痛くなった・・。
折角買ってきた食材も、痛みで喉を通らない・・・。ま、そもそも料理も出来ないが。
更に次の日の朝、鏡を見ると、唇まで真っ白になっている。
俺の顔ではないみたいだ・・・。
口の痛みが強くて、空腹感は無い。
口を開けると、唇が引っ付いていて、強引に剥がすと血が出てきた。
イメージしにくいかもしれないが、皆も経験があるだろう。
口内炎や口唇炎。
白い粒が出来て、やたらと痛いあれだ。
あれが、唇から喉の奥まで、隙間がないほどに埋め尽くされていると思ってくれ。
唾をのみ込むのも辛いんだ・・・。
動くのも辛い・・。
そして今日、山岸から来たSMSに返信がてら、今の症状を伝えると、『病院に行け』と、至極まっとうな意見が返ってきた。
・・・そんなことも思い浮かばなかったとは・・・・。
で、俺は、グロテスクな唇を隠すためにマスクをして、医者に向かった。
2日前よりは、まだ頭がはっきりしている。
水分補給は辛うじて行っていたが、腹は減っていない・・。分からないだけだと思うが・・・。
病院につくと受付をする。
保険証の代わりに、例のカードを提出する・・。
隔離された部屋で、熱を測る・・・。38度7分・・・微熱だな。
隔離部屋の扉が開き、看護婦さんが呼びに来てくれた。
「ジャコウ?さん?診察室へどうぞ。」
声を出すと痛いので、頷いて反応する・・・。しかし、名前を呼ぶときに、?を付ける様な言い方をされると、もやもやするな・・・・。間違えられなかっただけましだが。
診察室では、マスクをした医者が色々質問してきた。
こっちの喉の痛さも知らないくせに。
「ジャコウさんどうしました?」
「・・・くちが、・・いたくて。」
「ほう、いつ頃からですか?」
「4、5・・・・にち、前。」
「はい。じゃ、ちょっと見てみようか。マスク外して?」
俺がマスクを外すと、医者が一言。
「あぁ、痛いね。」
いや、感想それだけ?医者ってすげぇな!こんなグロテスクな唇見ても、一言で終われるんだ。
つまり、今までに診たことがあるのか、知識で分かっているのか・・・。半端ないな。
「はい、口開けて・・・無理しなくていいからね。」
もちゃ・・・って音がしそうな感じで口を開ける。
痛い、たぶん今、血が出ていると思う。
「うぁ、すごいね。ヘルペスまみれ・・・。これは痛いわ。食事出来ないでしょ?」
「・・・あぃ・・・。」
「喉の奥まで真っ白だ。・・・はい、いいよ。」
痛みをこらえて口を閉じる。
「じゃ、そこに寝て。」
医者は、横にある処置台を指して寝る様に言ってきた。
寝る?
とりあえず横になる・・・。
「はい、横向いてね・・・。」
看護婦に力づくで横を向かされた。
「・・・ズボン、おろしといて。」
!ちょ!今なんて?
看護婦は、手際よく俺のズボンを太もも辺りまで下げる・・。
横を向いている為、辛うじて俺の俺は見えない状態だ・・・。
ま、こんな体調では、主張することなく大人しい俺だったのだが。
は!まさか、尻に何かを埋め込まれるのか?
いや!恥ずかしい!!
「はぁい、チクってするよ?」
医者は、言葉を言い終わる前に、俺の臀部に注射針を突き立ててきた。
「筋肉注射だからね、ちょっと痛いかもね。」
注射針から注入される薬品が、俺の尻の筋肉を圧迫しながら注ぎ込まれる。
正直言って、今までで一番痛い注射だった。
「よし、少し点滴しておこうか・・・。」
俺は看護婦に、ズボンを上げられ、台に乗せられたまま隣のスペースに持っていかれた。
で、今である。
左腕に繋がる白い管が、何か分からない液体を送り込んでくる。
尻の注射を考えれば、爪でひっかいたような痛さしかない。
ポタリ・・・ポタリ・・・。点滴の水滴を眺めていると、いつの間にか眠りに落ちていた。




