轟け役満!
夜のバラエティー番組をBGMにして、俺たちの麻雀は静かな戦いを繰り広げていた。
「仕方ねぇ、リーチだ!」
「工藤さん、7巡目で仕方ねぇは無いでしょ?」
「マジっすか!早すぎですよ。」
現在、工藤さんが3連荘目。つまり、親の状態で3回連続で上がっているという事だ。
ただ、早さ重視なのか、役が安かったため、大きなダメージは受けていない。
渡は工藤さんが捨てた牌を見て、同じ牌を捨てた。
「降りたか・・・。」
自分が捨てた牌で相手から上がることはできない。いわゆる「フリテン」と言う奴だ。
ただ、例外があって、自分で自摸ってきた場合は普通に上がれるのだ。
だから、渡は自分の形を崩しながら、工藤さんにあたられない様に逃げたのだ。
しかし、俺は違う!
何と言っても、今回は手牌がものすごくいい。
麻雀を詳しく知らない人でも、役の名前くらいは聞いた事がある、かの有名な「大三元」という役満。
この役が、俺の手牌の中で完成しつつあるのだ。
工藤さんが親で、その他が子。親は得点が多く貰えるメリットがあるが、支払う点数も多くなるデメリットもある。
子の俺が役満を上がると、三万二千点が貰える。自分で自模った場合は、工藤さんから1万6千点、その他2人からは8千点ずつもらえるという、とてもデカい役なのだ!
そして、今、俺は七萬を自模ってきた。
これで手牌は、五・五・六・白・白・白・発・発・発・中・中・中・東・七
字牌だけで揃えると、それはまた大きな役になるのだが、そんな夢までは追う事はないだろう。
ここで東を切れば、五萬と八萬のどちらが来ても「大三元」になる!!
東は最初に工藤さんが捨てている牌。完全な安牌だ!
東を捨てながら、自分の捨て牌を見る・・・と・・・?
2巡目に八萬捨ててるやん!!
何を考えているんだ俺・・・。これではフリテンになってしまう!!・・・待ちの形を変えなくては・・・。
頭の中でぐるぐると考えが巡っている内に、また俺の番が回ってきた。
!四萬!!これで五萬を捨てると、四萬・七萬の待ちに変わる!!
俺は期待を込めて五萬を捨てる。
舛添さんは萬子(漢数字の書いてある牌)を嫌っている様だ。既に多くの萬子が捨てられている・・・。
おい待て!既に四萬が3枚も捨てられているじゃないか!!七萬も2枚・・・。
1種類の牌が4個ずつあるのだが、俺が待っている牌の殆どが既に捨てられていた・・・。
「ん~。こねぇなあ。」
工藤さんが八萬を捨てる。マズイ・・・萬子が減っていく・・。
「この辺は行けますよね。」
渡が六萬を捨てる・・・。狙ってんのか?君ら!
いや、自力で引いてやる!!
・・・八萬・・・。五萬捨てなきゃ上がってたじゃん。
今の状態では、残って居そうなのが七萬1枚のみ。
だったら、四萬を捨てて、あと1枚ずつ残っている五萬・八萬の待ちに戻した方が良いのか?
待ちは倍になる・・・。よし。
「お、ジャコは連続で五萬、四萬切りか・・降りたな。」
降りてねぇし!読み違えただけだし!
ま、そう思わせておいた方が、都合が良いかもしれない。
「ん~、無い!」
工藤さんが白を切る・・・。初めて捨てられた牌に、一瞬時間が止まった。ま、俺が残りの3枚持ってるから、初めてなわけなんだけど。
「安牌!」
渡が八萬を切る・・・。
八萬!!!!今ここでか!!
自分で切ってしまっているから、渡から上がることはできない。
悔しいが、ここは無表情で・・・。
で、俺は自模ったのは。七萬・・・。
多分、俺は呪われている・・・。
今、待ちを変えても、牌は残っていない。かといって、このまま戦っていても、五萬の1枚待ち・・・。
待ちがあるだけ良しとしようか。
俺はそのまま七萬を捨てる。
舛添さんが続いて三ソウ(竹の本数で数字を作っている牌)を捨てた。
「ポン!」
渡の発言で一瞬驚いたが、工藤さんの順番を飛ばせた事に安心する。
で、渡が捨てたのが六萬・・・。俺の待ちがばれてるのか?
気を取り直して俺の自摸。一萬・・・。お前じゃない。
萬子は捨てられまくっているから大丈夫だろう。ホイっと。
「ロン!」
・・・・?え?ポン?ロン?
声を出したのは工藤さんだった。
手牌を晒しながら、役の数を数える。
「リーチ(1)、ホンイツ(3)、チャンタ(2)、ドラ(1)、ドラ(1)・・・裏は無し。親の倍満!二万四千!」
「二万四千!二万四千!!・・・・無いです。」
「はい~、清算清算!」
あの時、五萬さえ捨てなければ・・・。
後悔を背負ったまま続けた麻雀・・・。その日は一回も上がることが出来なかった。




