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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
幕間:旅人のお話

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幕間1 旅人の来訪

 行きたい時に、目を閉じれば行けるのだ。


 その旅行社には、昔世話になったことがある。右も左もわからなかった自分に一つ道を与えてくれた。その道を歩いて、時折振り返るようにそのことを思い出すのだ。


 目を閉じた先、思い浮かべるのは赤いカーペットの敷かれた客室。豪華なベッドと、上品な内装の部屋。目を開ければ、もうその場にいる。ふかふかのベッドに腰掛けていた私は、ゆっくりと立ち上がる。テーブルの上に置かれた呼び鈴は、鳴らせばルームサービスを呼べる便利なものだ。


 取手をつまみ、一つ鳴らしてみる。涼やかな音色が鳴って程なく、ドアをノックする音が聞こえた。


 扉を開ければ赤髪の少女が立っていて、私の顔を見るなり何かに気づいたように目を見開くと、改めてお辞儀をして挨拶をしてくれた。


「いらっしゃいませ、この度はラピエス社のご利用ありがとうございます。ルームサービスのウィンと申します」


 ここのルームサービスは料理を手配してくれるオーソドックスなものの他、話し相手になってくれるという一風変わったサービスもある。シェフの料理もなかなかだが、それよりも今はここの人たちと話したい気持ちが大きい。


 早速話し相手のサービスを利用させてもらおう。指名するのは、支配人のアデーレだ。


「かしこまりました。ただいま向かわせますので、お部屋にてお待ちください」


 ウィンに言われ、部屋で待っていると少ししてノックと共に上品な声が聞こえてきた。


「お客様、この度はご指名ありがとうございます。話し相手として参りましたアデーレでございます」


 入ってくるようにいうと、アデーレは静かにドアを開け客室に入ってきた。私を見る目はあの時と変わらず、それでいて幾分か懐かしさを含んだ視線を向けている。


「お久しぶりです、お客様」


 私はそんなに経っていただろうか、と首を傾げるが、アデーレは十分時間は経っている、とだけ言った。


「当日でのご利用、今回もまた遠くへ行きたくなりましたか?」


 まあ、そんなところです。そう答えればアデーレは「あなたらしいお答えです」と笑ってみせた。


「あなたが訪れない間、たくさんのことがありましてね。それをお話させていただけはしないでしょうか?」


 アデーレの言葉に頷いてみせる。アデーレも話したがりたかったみたいだし、私としてもアデーレの話を聞きたいから、願ったり叶ったりだ。


 アデーレと一緒にテーブルに着いて、早速話を聞く準備を整える。


 きっと話は長くなるだろうから、と追加で紅茶も頼み、二人分のカップをテーブルに置いた。


 アデーレは早速紅茶を飲み、喉を潤してから話し出す。


「お客様が前にいらした時は、本当に旅人としてはまだ駆け出しの頃でしたね」


 そう、その時もこうして飛行船の中に現れたのだが、その時は混乱していてなにをどうしていいのかまるでわからなかった。慌てふためきすぎてウィンには不審人物扱いされるしで、大変な目に遭うところだった。


「お客様のように現実から迷い込んで来られる方は、大抵夢か幻覚かで納得してまた眠ってしまわれますので。こうしてお話できるほどしっかりなさっているのは、稀有な証拠です」


 なんでも、現実からこの船に迷い込んでくる人間は私以外にもいるらしく、それも今に始まったことでもないとアデーレは言う。


 大抵は夢と勘違いして眠りに落ち、そのまま現実世界に帰ってしまうのだとか。そんな中で意思を持ってこの世界にいようとする人間も時折いるそうだ。どこでもあり、どこでもない場所を飛ぶ船だからこそなのだという。


 私もそうした意思持つ人間の一人だとすると、運がいいのか自己主張が強いのか。


「お客様はそのご様子からするとだいぶ立派な旅人になられたようですね。色々と、旅の経験も積めましたか」


 アデーレの問いに、私は頷く。


 この船に偶然辿り着いてから、実に様々なところを旅してきた。


 自分が思い描けるところ、思い描けないところ、新しく知るもの、もう見知ったものを見ること。同じように見えて、全部の経験が違ったものとして私の中にあった。


「それは結構なことです。旅をすること、と言うのは心を豊かにするものですからね。新たな知見を得ることも、美しい景色を眺めることも、みな己がためになるものです」


 アデーレの言葉に頷きながら、私はアデーレの話も聞きたいとせがんでみた。アデーレは少し考えた後、短く「いいでしょう」と答えた。


 無論、他人のプライバシーに干渉するつもりはない。アデーレもそう言ったことを漏らすことはしないだろう。ただ、私は見たかった。


 私に旅を教えてくれた人が、どんな景色を見て、何を思ったのか。そんな単純で純粋な事柄を、ただひたすら聞きたくて仕方なかったのだ。

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