9-9 立ち向かうこと
飛び出してきたウィンにエーヴェルが驚く。
「うわっ、おい、お前ついに体までちんちくりんになったのか?!」
「これは元々こうなのよ! それよりなによ! 悩める少年にそんなすげないことばっか言って! ちょっとは寄り添おうとか思わないの?!」
ウィンは自分の正体を隠しもせずにパタパタとエーヴェルの周りを飛び回り、げしげしと蹴りをかましていく。
「いてっ! おい待て、いてっいた、いたた!」
「なんでこう! わかんないのかしらね! いざやるにしても勇気がないのよ! だったら励ますとか、勇気づけるとか、そういったことをいいなさいよ! 突き放すだけがいいってもんじゃないでしょうが!」
絶えず蹴りをかましながらウィンはウィリアムの気持ちを代弁していく。だって心細いのだ、誰に頼ることもできないで、ようやく辿り着いたところがここなのだ。最初こそお客として認めてはいなかったが、こうして話を聞くうちにすっかりウィンはウィリアムに感情移入をしてしまった。
少しでも助けになりたいとか、少しでも力になれたらとか、考えるようになってしまったのだ。
「あんたは! あんたは! この! この!」
小さい体でげしげしと蹴られても実際はそこまでダメージがあるわけではない。だがエーヴェルは痛そうに頭を抱えている。
「おま、ちょっとやめろ! 待てって、おい!」
「ウィン、もういいよ、僕は大丈夫だからやめてあげて」
そうしてウィリアムが声を上げたところでようやくウィンは怒りが収まってきたのか蹴るのをやめてエーヴェルから離れた。
「イタタタ……酷い目にあったな」
「自業自得ですよーだ」
蹴られた顔をさするエーヴェルとウィンがそっぽを向くのが面白くて、ついウィリアムは笑ってしまった。くすくすと笑う姿を見て、ウィンはあ、と声を上げる。
「ちょっと気持ち、晴れた感じ?」
「晴れたっていうか、なんだか面白くて」
自分のことでこんなに怒る人がいるのなんて初めてで、ちょっとウィリアムは嬉しかった。
「それなら何よりだが、ちょっと強く言いすぎたかもな。申し訳ありませんでした、お客様」
深々と頭を下げるエーヴェルに、ウィリアムは両手でそれを制して声を上げる。
「そんなことないです、僕に勇気がないのは本当だし」
「だからあたしとあんたで励ましてあげたらどうかなって思うんだけど、エーヴェル」
「さらりと俺も入ってるな……でも、まあいいだろう。力になれるかどうかはわからないが、協力はさせてもらうよ」
いつの間にかくだけた調子で言うエーヴェルは、なんだか年の離れた兄のようにも思える。ちょっと近しく感じられて、ウィリアムはこくんと頷いた。
「二人とも、ありがとうございます」
「いいのいいの。それより、やっぱり言うの怖いって言うけど、あとで起こることが怖くてできないって感じなの?」
「それは……うん、からかってくるやつらって学校でも調子に乗って目立ってる連中だからさ、大事にされてもっと学校中でからかわれたら、って思うと怖くて」
「じゃあ、それよりも君が嫌がっていることを大きくしてしまえばいいんじゃないか?」
「えっ、そんなことできるんですか?」
できるできる、とエーヴェルは言ってのけた。
「まずは、頼れる大人。君の周りだと親御さんとか、先生とかかな。とにかく嫌だってことを言いふらしまくってみるといいのさ。それで、学校の大人たちみんなが君のことを、事情を知る。それだけで君の味方はごまんと増える」
「なるほど、そうすれば何かあった時にすぐ事情が察せられるわね」
「それから、君が嫌だってことを人目につくところではっきりと彼らに言う。そうすれば、みんなが君の事情を知ることになるだろう? 知ってる人が多いってことは、味方につけられる人数も増えるってことだ」
「でも、でしゃばりって見られないかな」
「そんなことはないさ。むしろ君の存在はそれほど大きくていいんだよ。小さく縮こまることなんてない」
先ほどの突き放した態度とは打って変わって親身になる姿に、さすがにウィリアムもウィンも不思議に思った。
「なんかさっきのムカつくこと言ってたあんたが嘘みたいに見えるわ」
「失礼だな。あれは逃げてるってことについての言及だからな。こうして立ち向かおうとするなら、逆に俺は応援するぞ?」
「やっぱり、逃げることって、いけないことなんですか?」
「時と場合によるな」
「なによそれ」
ウィリアムの問いに、エーヴェルがそんな風に答える。さすがにウィンも呆れてツッコミを入れてしまった。
「逃げるべきことと、逃げてはいけないことの二つがあるんだよ。話は最後まで聞いてくれ」
「じゃあ、僕があいつらに立ち向かわない……逃げるのは悪いことなんですか?」
「ま、そうなるな。逃げるというか、これは立ちはだかる壁みたいなものでな。君が彼らに嫌だという意思表示をする。それをするのはこれから生きていく上でもだいぶ大事になってくることなのさ。要は、言いたいことをはっきり相手に言えるようになる訓練だ」




