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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
9.逃げ出した先

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9-5 ウィンの正体

 人間に化けている妖精は、正体を見破られると元の姿に戻ってしまい、しばらく変身ができなくなるのだという。ひええ、と頭を抱えるウィンに、ウィリアムは驚いてベッドから飛び出してきた。


「う、うう〜……ずっとバレないできてたのにぃ……」

「え、えっと? ごめん?」


 バレるもなにも自分から墓穴を掘っただけなのだが、逆にそれがウィリアムにとっては驚きだったらしい。


「僕、妖精の正体見破るなんて初めてだよ」

「そりゃ、みんな正体隠すの上手いからぁ……」


 フォレシアは隣に妖精国と呼ばれる妖精の国が栄えており、時折物好きな妖精が越境してフォレシアの様子を見にくるらしい。大抵の妖精はそこで人目につかないように人間や動物の姿に変身するのだが、ウィンもそうした越境者の一人らしい。


「あああ〜やっちゃったぁ〜……」


 テーブルの上にペタンと座り込むウィンに、ウィリアムは何か慰めの言葉をかけるべきか迷う。しかし正体を見破ってしまった本人から慰められても、ウィンは納得しないだろう。


「ねえ、ウィン。ウィンって本当の名前なの?」


 もしかしたら偽の名前かも、と思ってウィリアムはきいてみるが、ウィンは頷いて答える。


「ウィンは本名。ウィン・エインセルっていうの、名前。喜びのエインセル」


 エインセル。自分自身という意味だ。確か、妖精の中にそんな種類の妖精がいた気がする、妖精学の教科書に載っていることくらいしかわからないから、詳しいところまではわからない。


「そ、そんな気を落とさないでよ……」


 ウィンはがっくりしたままでいる。さっきまで悩みを打ち明けていたはずなのに、今度はなぜかウィリアムの方がウィンを慰めていた。


「ううう……みんなに知られたらヤバい……」

「ヤバい、って、他の船の人たちにも秘密だったの?」

「支配人は事情知ってるけど、他の人には全然何にも言ってないよ」

「バレちゃうと何か大変なの?」

「ほら、なんというか、エルフってことで通してたから……気まずいというか、恥ずかしいというか」


 実害らしい実害はないようでウィリアムはひとまずホッとする。だがバレたくない、と頭を抱えるウィンの気持ちもわからなくはない。


 自分がちゃんとしていると振る舞っていても、近しい人からできていないと言われると、それまでできていると誇っていた自分が途端に恥ずかしくなっていたたまれなくなる。ウィリアムもそういった感覚がわかるから、ウィンに少し同情してしまった。


「とりあえず……えっと、君はここにいた方がいいよ、ね? 妖精は正体がバレるとしばらく元の姿のままだっていうし」

「うう〜、ありがとう〜……」

「えっと、あとは……持ってきてくれたお菓子、食べよっか。食べながら作戦会議すればいいよね」

「そうする〜……この姿になっちゃうとせっかくのマドレーヌも全然食べられない……くっ」


 両手で抱えるほどの大きさになってしまったマドレーヌを持ち、ウィンは小さな口でかぶりつく。ウィリアムもマドレーヌをつまんで食べてみる。


 焼きたてから少し時間の経ったマドレーヌは、逆に生地全体がしっとりとして歯触りのよい食感だった。甘味もふんだんで、バターの風味が絶妙にマッチしている。


「おいしい……」

「むぐ、でしょ。クロードは料理もお菓子作りも得意だから、毎回いろいろ食べさせてもらってるんだよね」


 小さな口でもぐもぐとマドレーヌを食べながらウィンは得意げに言う。なんだか、そういう人がいるということがうらやましくウィリアムは感じた。


「エーヴェル……乗務員の男なんだけど、あいついつもクロードの料理狙っててさ。まかないの料理もすぐに食べちゃうんだよね。ほんともう食い意地が張ってるんだから」


 そういうウィンも大きなマドレーヌを一つ平らげてしまうのだからなかなか食いしん坊なところがある。


「いいな、そういう友達みたいな人がいて」

「あんたは友達いないの?」

「僕は……いるにはいるけど、でもあいつ僕のこと友達って思ってくれてるかなって心配でさ」

「ふーん。相手があんたのこと友達って思ってなくても、友達になろうって言えばいいんじゃない?」


 ウィンのあっけらかんな態度にウィリアムは困ったように眉を下げた。


「そう簡単にできるもんじゃないよ。もし向こうが友達じゃないって拒否したら、って考えると怖いよ」

「でも聞かなかったらずっとわからないままじゃない。そのままでいるより、聞いてはっきりさせちゃった方がいいんじゃない?」

「そうなのかなぁ。仮にそうだとしても、拒否されて傷つくのって、僕は嫌だなぁ」


 ウィンは簡単なことのようにいうが、ウィリアムは友達に拒まれた時の冷たい感覚が好きではなかった。友達だと思っていたら、実はそうではなかった、という経験からだが。


 だから、簡単にそんなことが言えるウィンは友達がたくさんいるか、あるいはそんな冷たさを知らないかのどちらかだとウィリアムは思う。


 そう思うと、なんだか無性にウィンがずるいやつのように思えてきた。

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