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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
第1部 1.現実世界からのお客様

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1-8 想像の翼

 二羽の雀を眺めながら夏美はアデーレに聞いた。


「こうやって何かしら想像してればいいんですか?」

「ええ、そうなりますね。お客様が望むのであればなんとでもなるのがこの空想界ですので、お好きなことをなさってよいのですよ」

「好きにするっていってもなぁ……」


 雀はさえずったまま仲良くしているし、今度は別の生き物を想像してみようかと夏美は思う。今度はカラスを想像してみると、黒い羽を日差しにきらめかせたカラスが現れオルテンシア号から飛び立っていく。他にも思いつくままに鳥を思い浮かべ、飛ばしていく。トンビ、鳩、椋鳥、フクロウ。ぱっと思いつく限りの鳥を一通り想像しきったら、夏美は疲れてデッキに座り込んでしまった。


「結構想像するのって疲れる……!」


形だけぼんやり思い浮かべても姿は現さないし、意識して細部まで想像しないと中途半端なものが出てきてしまう。鳩まではよかったが、フクロウになるとミミズクなのかフクロウなのかわからない上に、トンビに至っては鷹のような鷲のようななんともつかない姿になって出てきてしまった。


 案外、当たり前に知っているものでも細部まで見ていないんだと夏美は自分の中に新たな発見をする。知っているようでいて実は何も知らないなんておかしな話だ。


「お客様。空想界は楽しめていらっしゃいますか?」


 デッキを一回りしてきたアデーレがへたり込む夏美に声をかける。夏美はデッキからアデーレを見上げながら答えた。


「まだちょっとわからないですけど、なんかいつもは気づかないことに気づいた気分です」


 夏美の言葉に、アデーレは手を合わせて喜んだ。


「それは何よりです。情報で凝り固まった心身を存分に癒していってくださいませ」


 アデーレの言葉に、なんとなく夏美は今までの自分を振り返ってみる。

 SNSの過激な言動や強い感情に振り回され、知りたくもない事柄に一喜一憂する。好きでもないものを好きになろうとしたり、気にしていないものに怒るよう仕向けられるのは、正直今のように鳥を想像するよりずっと疲れて辛くなってしまう。


「はぁ……」


 ため息をつくと同時に、夏美のため息から重そうな石がごろりと転がり出た。

 さすがに石が出るとは思わず夏美は驚いてその石を持ち上げる。

手のひら大の大きさの石はずっしりと重く、暗く澱んだ色をしている。見るからに良くない見た目だ。


「わ、何これ」

「おや、思考廃棄物ですね。感情や思考が健康的に働かないと出てくる老廃物ですよ」

「思考廃棄物って、こんなものも実体化するんですか」

「空想界ですから。思ったことも考えたことも皆形になるのです」

「すごいところなんですね」


 だが、だからといってなぜここが自分の来たかった場所なのか夏美は今ひとつ答えに辿り着けない。デッキから立ち上がり、夏美は手すりに寄りかかった。


「でも、だからってどうして私が空想界に来たいってなったのかはわからないです」

「おや」


 珍しいとばかりにアデーレが声を上げる。


「これだけ想像してもお気づきになりませんか?」


 アデーレは夏美の呼び出した鳥を自分の腕に止まらせながら問いかける。だが、今の夏美にはその問いかけすらよくわからない。わかることといえば、想像は疲れるが楽しいということくらいだ。


「そりゃ、想像して形にするのは楽しいですけど……これって私が望んでることなんですか?」

「それを決めるのはお客様ですので。ですが、楽しいと思ったことは事実なんでしょう?」

「楽しいのは、事実ですけど。これをずっとやっていれば、気持ちも晴れるってことなんでしょうか」

「実際にやってみてはいかがでしょう。もう出ないほど出してみると、案外スッキリするかもしれませんよ」


 アデーレは止まらせた鳥を全て空に放ってしまい、その空を指して言った。


「いっそのこと空を飛んでみるというのも、ありですよ」

「空を飛ぶって、できるんですか?」

「空想界ですから。想像さえできれば空を飛ぶのだって自由にできます」


 なら、翼を生やしてしまう想像をすればいいのだろうか。夏美は思いつきで自分が天使のように背中から翼が生えた姿を思い浮かべた。程なくしてふわり、と夏美の背中が軽くなる。翼が生えたのだ。


「わ……ほんとに翼が生えてる」


 後ろ手で背中の翼に触れる夏美に、アデーレは満足げに頷いてみせる。


「思い切り飛んでみますと、案外気持ちいいものですよ」


 まるで飛んだことがあるようなアデーレの物言いに、夏美はもう疑うことはしなかった。それよりも、目の前に広がる空に飛び立つワクワクした気持ちのほうが大きい。

 強く想像すればそのとおりになるのだから、今はただ強く空を飛ぶことを意識する。

 そして、手すりを乗り越えて思い切り足を蹴った。

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