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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
8.失恋の行き先

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8-8 これからどうしたいか

「どういうことかしら?」


 よくわからない、といった風にシェリーが聞き返す。ユヅルハは変わらずに補足を付け加えた。


「失恋を経たとして、あなたはこのあとどうなさるおつもりでしょうか」


 ああ、とシェリーは頷く。


「今後のことね。まだ実感して間もないから、受け止め切るまで時間がかかりそう」

「話してすっきりするのも大事ですが、全てはあなたが受け止めるべきこと。無理をなさらずにはいてほしいのですが、とりあえずは当面の目的地を決めていただければ、と」


 そう言われて初めてシェリーは自分の旅券を取り出した。

 出発地だけ書かれた旅券には、まだ行き先が空欄のままだ。


「やっぱり、自分で道を決めないといけないのかしら」

「その旅券は持ち主の意思を反映するもの。目的地が己が内に定まれば、自然と行き先が書き込まれる仕組みになっております」

「じゃあ、まだどこに行きたいか私の中で決まってない、ってことかしら」

「ええ、行き先が書かれていないのであれば」

「ただすっきりするだけじゃダメなのかしら」


 せっかく話せて心が軽くなったのに、とシェリーは俯くが、そんなことはないとユヅルハはシェリーを諭す。


「どんな一歩を踏み出すにも、足を持ち上げる軽さがなければ踏み出せぬもの。無駄な時間ではありませんよ」

「じゃあ、なんで行き先が出てこないのかしら」


 すっきりして前を向けたというのに、その足をどこに踏み出せばいいか分からずにいる。


「なんのためにまた進んでいくか、それを明確にした時、道は開けるかと思いますが」

「なんのために、か……そりゃあ、一番やりたいことは絵を描くことだけれど……」


 それをきっとなんのために描きたいか定まらないといけないのだろう、そうシェリーは考えた。うーん、としばらく唸ったり首を傾げたりしてシェリーは考えるが、それらしい動機は出てこない。


「絵を描きたい、っていうのはあるけど、あの人のためだけじゃないし、でもあの人のことを考えずに絵を描くのもなんだか落ち着かないわ」


 ユヅルハの言葉に、シェリーは首を横に振る。


「あなたの絵は、誰かのための絵だったのですか?」

「はいともいいえともつかないわね。喜んでほしい人を思って書くこともあったけど、いつも誰かに喜んでほしくて描いてるわけじゃないもの。暗い気持ちを込めた絵だって描くし、それはむしろ誰にも見られなくていいとも思うもの」

「ではきっと、ご自分のための絵だったのですね」

「自分のための……」


 考え込むシェリーにユヅルハは続けた。


「誰かのためだけでなく、ご自分のためにも絵を描く。それは大きく見ればご自分が満たされるためにしていることではないのですか?」

「私が満たされるため、って言われると、なんだかみんなを利用しているみたいにも聞こえるわね」

「どんな人も、満たされるため、言い換えれば幸せになりたくて動いているものだと私は思っているのですが」

「幸せのために描いてる、か。そう言われるとまた変わってくるわね」

「誰かの幸せというものとご自身の幸せは繋がっているものです。まず自分が幸せになることで、他者にも幸福を与えることができる。そう考えると、幸福を巡らすために私たちは生きているように思えませんか?」


 ユヅルハの考えに、シェリーも頷く。


「素敵な考え方ね、あなたのそれ」

「恐縮です」


 最初は失恋の話だったのに、いつの間にか自分と周りの幸福の話になっている。人と話していると時おり思わぬ方向に話が飛ぶから面白い。そんな経験を、シェリーはかつての恋人ともしていたことを思い出す。


 あの人ととも、よくこんなふうに予想もつかないところへ転がっていく話をよくしていた。シェリーもシェリーなりに真面目に考えて話をしたし、あの人もシェリーに対して本気で考えて話していた。そうシェリーは感じている。


 だからシェリーはあの人との時間が楽しかった。こんな風に話し込んで、二人でいろんな考えにたどり着くのが楽しかった。いつもシェリーはあの人に笑っていてほしかった。それはきっとあの人の幸せを願っていたからで、その幸せを願うこと自体が、シェリーの幸せでもあったのだ。


 ふう、と息を吐いてシェリーは言った。


「悪くないわね、そういう幸せが巡るっていうの。私もあの人のこと思い出して懐かしくなっちゃったわ。なんだかんだ言って、私あの人のことは好きなままなんだと思う。でも、元に戻りたいとか、また関係を続けたいっていうのとは、今はちょっと違うのかも」

「ほう……それはまたどういったお考えなのでしょうか」


 くすりとシェリーは笑って答えた。


「あの人ったら、もうとっくに私の大切な人になってたんだわ。遠くにいても、別れてしまっても、幸せを願っていたい、そんな人に」

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