7-10 三年後にあなたと
ファーブラに平和が訪れてから三年。無に覆われていた地表は緩やかに再生し出し、新たな芽吹きを迎えている。勇者ライナスの話は日ごとに大きくなり、国王は王都に銅像まで建てる有様だ。だが、私たちはそれを心から喜べなかった。まるで、ライナスを過去のことにしてしまうような気がしていたから。
遠く、平和式典後の喧騒が聞こえてくる。王都からそう離れていない魔法の塔、その遺跡。夜になって星が瞬く頃合にもなれば、祭りも宴もたけなわになっていく。その喧騒から離れるように、四人の仲間が、ライナスの帰りを待っていた。
「ねえ、ほんとにいいの? 平和式典のお祭りに出なくって」
「いいんです。だって、あんなものはライナスのお葬式みたいなものだもの。だからあなたも私に付き合ってくれているんでしょう、ミリー」
ミリーはライナスの妹分。義賊もやめ、今はその身軽さを活用してハンターとして生計を立てている。その隣で、ジョシュアが頭の後ろで手を組んで空を見上げた。
「セイラさんも一途、とは俺たちも言えないか。俺たち毎年ここでライナスの帰り、待ってるんだもんな」
「ジョシュア、お前さんも宮廷魔導士として立派な地位についてるが、いいのか式典をほっぽり出して」
「アルヴァーンさんはいつも痛いとこ突くな。こういうのは研究のため行けませんって予め欠席届を出しておくもんですよ」
ジョシュアほどの魔法の使い手でも、次元の狭間に散ったライナスの行方はわからない。それでジョシュアを責めるつもりはないけれど、でもやっぱり、ライナスのことは諦めきれない。
「アルヴァーンさんだって、今日の式典の招待状、受け取られていたんでしょう?」
「元騎士団長がしゃしゃり出るものではないからな。これからの世代は今の世代が引っ張っていくものだ。わしのようなおいぼれが出る幕はもうないぞ」
「にしても、今年で三回目の平和式典かぁ……セイラだって、毎年ここに帰ってくるのも大変でしょ。ただでさえ世界中を飛び回って治癒魔法使ってたら」
ミリーもジョシュアと一緒に空を見上げる。
「いいのよ、忙しい方が忘れずに済むもの」
「普通忙しいと忘れるもんじゃないんすかね」
ジョシュアが茶々を入れてくるが、ミリーに軽く頭をはたかれて蛙が潰れたような声をあげた。
「ライナス、あの青二才め。まだ教えておらん剣技もたくさんあるというのに……」
アルヴァーンがライナスを思って寂しそうに呟く。
「でも、きっと帰ってくるって、ライナス兄約束したじゃん……」
「ライナスさん……」
暗く沈む面々の中、一人だけ星を見上げていた私はその時見つけたのだ。
「みんな、あれを見て!」
指をさした先には見たこともない船が飛んでいたのです。鯨に船が吊るされているような見た目で、ゆっくりとその船は降下してきた。そもそもファーブラにはそんな空飛ぶ船など夢物語でしかない。その天翔ける船はゆっくりと私たちの前に降りてきて、強い風に私たちは顔を覆った。
その鯨が引く船は、降り立つと下の船のドアが開き、見知らぬ男性が階段をつけたのです。
「な、なんだあれは!」
「魔法文明のもの?!」
「いや、あんなものは文献でも見たことがない! 未知の船だ!」
仲間たちが口々に言う中、その船から、誰かが降りてきた。
ずっと私たちが待っていた人、ずっと会いたかった人、ずっと、言えなかったことを言いたかった人。
「――ライナス!」
私が最初に声を上げた。そして次にミリーが、アルヴァーンが、ジョシュアが。
みんなが走り寄っていく中、私は信じられなくて立ち尽くしてしまった。だが、彼は私を見てはっきりと名前を呼んだのだ。
「セイラ、久しぶり」
「ライナス……ライナス!」
私は一目散に走り出して、彼の目の前に来た。ライナスはいつものように困った顔で頭をかいて、それからそっと私の手を握る。
「帰ってきたよ……その」
「ライナス……」
目頭が熱くなって、ポロポロと涙が溢れる。たまらなくなって、私はライナスに抱きついた。ライナスはそれを受け止めて抱きしめてくれて、私はどんどん涙が止まらなくなっていく。
「ライナス兄! ……ほんと、ほんとおっそいんだから!」
「ライナスさん……本当に帰ってきてくれたぁ……」
隣でミリーとジョシュアも泣きべそをかいているのがわかる。アルヴァーンさんも、「よく戻ったな」と感情をこらえながら言っているのが聞こえた。
「ライナス、あなたどうやってここに……ちゃんと説明してくださいよね!」
「ああ。わかっているさ。それより……みんな、ただいま」
「ええ、ええ……!」
そして、私たちは声を合わせて言ったのだ。
――おかえりなさい。




