7-8 伝説のドラゴン、隣に
ライナスの冒険譚は出航ギリギリまで続いた。時に熱く、時に悲しくライナスは語る。その様は勇者というより吟遊詩人に近い。しがない冒険者の一人だった駆け出しの頃から、徐々に仲間を増やし名声を獲得していく様は往年の冒険小説のように聞くものをワクワクさせる。
そして無の魔王の存在。一度は封印に失敗したが、伝説のドラゴンの力を借りて再び攻勢を仕掛けるところは、なかなかに聞き応えがあった。そして、一人虚の城に残り魔王を封印する。
「……そして私は次元の狭間に投げ出されたわけだが、その後は君たちが事情をよく知っているだろう」
「はぁ、改めて聞くとすっごい冒険だね」
「まるで物語の主人公のようでしたね。落ち着いたらご自身の体験をしたためてみては?」
ウィンとアデーレが感嘆の声を漏らす中、エーヴェルとクロードは拍手をしている。レアはドグを宥めていたし、ユヅルハはユヅルハでなんだか考え込んでいる。
「伝説のドラゴン……力を貸した……聖剣に……」
「すごくいい話だったよ、ライナスさん。でも、ライナスさんがそのせいで迷子になってるのは、ちょっと悲しいな」
クロードはライナスの話に感動したことは伝えたが、ライナスの得た結果には納得がいっていないようだ。隣のエーヴェルも、うんうんと頷く。
「俺もお前と同じことを思ってたし、昼間に言ったんだよ。誰か一人の犠牲の上に立つ世界って本当にいいのかって」
「そうそう、僕が言いたいのもそこかな。ライナスさんはそれしかないと思ってやってたことかもしれないけど、仲間のみんなはどう思ってたのかなって。本当はそんなことしてほしくなくて、もっと別の道を探そうと思ってたのかもしれないし」
だが、とライナスが遮る。
「あの時はもうすぐにでも決断しないといけない状況だったのだ。とても悠長に解決策を話し合う時間などなかった」
「だとしたら、残された仲間の人たち、きっと後悔してるのかもしれないね」
「後悔?」
ぼんやりと口にするクロードに、ライナスが怪訝な顔をした。
「ほら、ライナスさんはやるべきことをやって達成感があったかもしれないけど、仲間のみんなはその後ライナスさんがいない世界で生きることになるんでしょ? だったら、ライナスさんのことを思い出してもあの時ああしていれば、こうしていれば、って考えちゃうかも、でしょ」
「それは……考えたこともなかったな」
ね? と首を傾げるクロードに、ライナスは自分のことを思い返すように胸に手を当てた。
「……お話が盛り上がっているところ申し訳ないのですが」
ようやく考え事から抜け出したユヅルハがクロードとライナスの会話に割り込んでくる。
ユヅルハは非常にいたたまれなさそうに口を開いた。
「話に出てきた伝説のドラゴンの名前、もしかしてヤチミヅノヒコと言いませんでしたか?」
「ああ、確かにそんな名前だったはずだ」
「ああ……なんという……」
「何か知ってるのか?」
およよとばかりに嘆くユヅルハに、エーヴェルが声を上げる。
「知っているも何も。そのドラゴンとは、私のことなのです」
「へぇ……え?」
エーヴェルがユヅルハを二度見し、残りの面々もユヅルハに釘付けだ。アデーレとクロードは顔を見合わせてああ、と頷き合っている。
「あれは世界を旅し小世界群の一つで小休憩をとっていた時のことです……ある一行が力を分けて欲しいとやってきて、少し運動した後に私の鱗を一枚与えたのです」
「なんと、あのドラゴンがユヅルハさんだったとは……」
ライナスも驚いた様子でユヅルハを見ている。皆に視線を注がれユヅルハはますます縮こまってしまう。
「ってか、そもそもユヅルハさんってドラゴンだったの?」
「ヤチミヅ……って変わった名前だよな」
「ドラゴンというよりも、龍と呼ばれることが多い地域の出ですので……」
「では、この聖鱗はあなたのものだったのですか」
ライナスがディバインソードを抜き、柄に埋め込まれた鱗を皆に見せる。そこには手のひらに乗るほどの大きな白い鱗がつやつやと輝いている。
「はえー、これがドラゴンの鱗かぁ〜」
「正確には龍なのですが……」
ウィンがまじまじと見つめる中、ユヅルハが丁寧に自分を龍だと訂正する。
「そもそも私は八州帝国の治める土地で生まれた龍ですので。一般に認知されているドラゴンとは少し系統が違うのです」
「ドラゴンと龍って何か違ったりするの?」
「ドラゴンは卵生で生まれた時からドラゴンとして生きるのですが、龍はその下位存在……蛇が力をつけることによって龍に成るものなのです」
「えっじゃあユヅルハさんって蛇?!」
「大昔の話ですよ。それより、少し話が脱線してしまったようですが」
つい興味に応えるあまり話しすぎてしまったようだ。アデーレがそれで、と話を続ける。
「その休んだ場所がどこか、わかるかしら」
それなら、とユヅルハが頷く。
「彼の地で休息をとっているとき、よく名前を聞いておりましたから。その世界の名はファーブラ、魔法の国の側にある小世界の一つです」




