7-6 魔法の国
デッキの点検を済ませた後は、また世界の狭間を越えて別の世界に出る準備だ。レアとアデーレは操舵室に篭ってルートのチェックをしていた。
「で、嵐の国境にある世界の最寄りっていうと、地図に載ってる分には魔法の国と機械の国あたりなんだけどね」
「どちらかがライナスさんのいた世界ってことかしら」
レアの説明にアデーレが疑問を呈する。だがレアは首を横に振って答えた。
「あくまで『地図に載ってる分』だけの話だよ。この間にも小さいけどいくつも世界があって、全部が発見されてるわけじゃないんだ。もしかしたらライナスはその小さな世界のどこかが出身って可能性もある」
地図は海図のようにも見えるが、島の部分は一様に丸く描かれ、名前を付けられている。レアが指した部分には大きな二つの丸い円を取り巻くように無数の小さな丸が天の川のように流れている。
「この辺りの小世界群ね。しらみつぶしには……向かない数ね」
「せめてもう少し情報があればね。とりあえず地図に載ってる世界として魔法か機械の国のどちらかに向かってみるかい?」
「ライナスさんの格好からして、機械の国の線は薄そうね。魔法の国にいきましょう」
ライナスの服の縫製は機械の力を使わないものだ、鎧も、板金の度合いや節々を見るに丁寧な職人技で作られている。機械のように一律で作られたものではない。そのことを踏まえ、アデーレは魔法の国へ行こうとレアにルートを決めてもらう。
「あいよ。じゃあ、あたいの方で航路は確保しておくから、アデーレはみんなに知らせといてくれ」
「ええ」
操舵室を後にしたアデーレは、スタスタと支配人室まで来ると、船内アナウンスで魔法の国に寄ると皆に告げる。一旦駐留していた浮島の世界からオルテンシア号は動き出し、世界の狭間を越えるべく出力を上げ出した。
そして、ライナスを連れ一行は魔法の国へと向かうこととなる。
世界の狭間を抜け、魔法の国に着く。だが、ライナスの表情は安堵ではなく驚愕の色を見せていた。
「これは……失われた魔法文明?!」
魔法の国は文字通り魔法で全てを賄う魔法国家である。大陸中に街が広がり、人の住めない高山や海には浮島を作ってそこに人を住まわせる。国一つが巨大な都市と言っても過言ではない。
「ライナスさん、どうですか? 知ってる場所……っぽくは見えないみたいだけど」
「あれは伝承に見た天翔ける船……! 中央の塔は魔法の塔か? いや、その周りの塔全てが魔法の塔じゃないか!」
「なるほど、こちらの景色は初めてと」
ユヅルハがふむ、と頷きながらライナスに水の入ったグラスを差し出す。落ち着けとの心遣いだろう。
展望室に集まっていた面々はそれぞれライナスの様子を伺っていたが、どちらかというと人づてて聞いていたものを突然目の前に出されて混乱していると言ったほうが近いだろう。
「魔法の国は魔法が盛んだからね。魔法の塔ってあれだっけ、魔力を集める集積所みたいな役割だったはずだよ」
「へえ、詳しいじゃないか」
「魔法のことは料理の次に詳しいんだ」
クロードがすらすら説明する横でエーヴェルが感心した様子で答える。ライナスはというと自分の知っている魔法文明とあまりに似通った様子に言葉を失っているらしい。
「一体、どういうことなのだ……?」
「これは、一旦情報収集に回っても良いかもしれませんね。なお私は留守番をしております」
「ユヅルハさん〜ちゃっかりしすぎ〜」
ウィンに口を尖らせられるが、ユヅルハはどこ吹く風である。のんびりと「ご武運を」と言ってグラスを磨くあたりかなりのマイペースぶりだ。
「ま、こう言われてるんですし、みんなで軽く情報収集してみましょうか。レア、港に停泊は三時間まででとっておいてね」
伝声管でアデーレが伝えれば、レアからは「あいよ」と威勢のいい返事が帰ってきた。
「ユヅルハはここで待機、レアとドグは船を任せるわ。残りはライナスさんの世界の情報収集に一時間ほど出かけましょうか」
「はーい。ってことは、ある意味休憩時間?!」
「なんでも遊びたい口実にするなっての。ライナスは一人だとどこいくか分からなさそうだしな。俺とクロードで見ておくよ」
「僕も一緒なんだ。でもいっか、一人で回るのはちょっとつまんないと思ってたし」
アデーレの命にそれぞれが言いたいことをやんややんやと述べていく。アデーレはそれを手をぱんぱんと叩いて鎮める。
「よし、許可が降りたら一時間で情報収集。内容はライナスさんの世界に関すること。なんでもいいわ、昔話から最先端の流行までなんでも聞いてきなさい!」
それぞれが頷く中、ライナスだけはまだ驚いたまま目を見開いていた。




