7-5 冒険譚
どこから話せばいいだろうか。私はウィンさんとエーヴェルさんに自分の世界をどうかって聞かせようか頭を悩ませる。偉大な魔法文明は魔物という禍根を残し、私はそれを討伐しては路銀を稼ぐしがない剣士だった。しかし、魔法文明の遺跡で愛刀であるこのディバインソードを手に入れてから、全ての運命が動き出したのだ。
魔法文明を滅亡させた無の力。それを操る無の魔王。それに立ち向かうための武器がディバインソードだったのだ。再び世界を飲み込もうとする無の力を抑えるべく、各地の魔法文明の遺跡で無の力を封印して回る。
そのうちに、かけがえのない仲間たちができた。
「それが、ミリー、ジョシュア、セイラ、アルヴァーン。私の大切な仲間たちだ」
「うわー、いかにも冒険者パーティって感じの人数だね」
「冒険小説でありそうなくらいだな。おとぎ話の世界って言われても納得できちまいそうだ」
「すごいんだね、ライナスさん」
ウィンさんとエーヴェルさんの言葉を受けながら、故郷のことを思い出すべくもっと私は語りを続ける。
その四人と共に最後の封印である魔法の塔に向かい、封印を施そうとした。しかし、力を一点に溜めていた無の魔王の策略で、魔法の塔の封印が壊されてしまう。そこから一気に世界の半分を飲み込んだ無の魔王に対抗するべく、ディバインソードに伝説のドラゴンの力を蓄え、無の魔王が潜む次元への入り口を開いたのだ。
そして、魔王の居城である虚の城に突入、あと一歩のところまで無の魔王を追い詰めたのだが――。
語るうちに熱が入っていき、ふと気づくとウィンさんもエーヴェルさんも私の話に聞き入っているようだった。自分のことを語っているだけに少し気恥ずかしいが、ここまで話してやめるわけにもいかない。
もう少し、話を続けることにした。
そして無の魔王をあと一歩まで追い詰めたところで、無の魔王は次元を飛んで逃げようとした。そこを逃すまいと仲間の協力を得て私は無の魔王に斬り込んだ。だが、無の魔王は存在自体が無であり、決して倒すことはできないのだと魔王自身から告げられる。そこで私は、四人と話した末一人封印のために虚の城に残ることになったのだ。
虚の城で魔王を封印したことにより、城は崩れ私は何もない無の空間へ放り出される。仲間たちは脱出した後だったから心配はいらないはずだ。だが、私はふと思ったのだ。故郷へ、仲間たちのもとへ。
帰りたい、と。
話を終えると、ウィンさんは興奮しながらも寂しそうな目で私を見ていた。エーヴェルさんもなにか言いたげなようだった。
「……といういきさつなのだが」
「なんか、すごい冒険だったけど最後だけやりきれないなぁ」
「だな。勇気ある若者一人の犠牲で世界は救われた。と言えば聞こえはいいかもしれないが、俺としてはごめん被るね」
二人とも意見は同じようだった。私に同情してくれているのだ。
「いや、そういう気持ちを煽りたかった訳ではないのだが……」
「そうじゃないですよ、ライナスさんはそれでよかったんですか? 自分が犠牲になるから他のみんなは無事でって、残されたライナスさんの仲間は悲しいですよ、きっと」
「俺も同感だな。お仲間が悲しむっていうよりは、たった一人犠牲になればって形が気に入らないが。あ、いや、責めてるわけじゃないぞ。形として気に入らないだけだ、形として」
ウィンさんとエーヴェルさんがそれぞれ言う中、少し自分の中の気持ちが揺らいでしまう。決意したときはあれだけ強い気持ちだったのに、こんななんでもない時の話の感想でこころが揺らぐなど、勇者としてあるまじき心だ。
「む……そ、そうか」
「うーん、あんまり変に捉えないでほしいんだけど、あたしは一人だけ辛い思いするのって嫌じゃないのかなって思う、えーとほら、感想! 感想みたいなもので、ライナスさんのやったことが間違いとか責めてるわけじゃなくって」
「言い訳くさくなってるぞ、ちんちくりん」
「ちんちくりんいうな!」
エーヴェルさんにからかわれて腹を立てるウィンさんの姿を見て、ふっと息が漏れる。エーヴェルさんなりの心遣いなのだろう、ありがたく受け取ることにした。
「まあ、言われてみれば確かにいい選択とは言えなかったかもしれないな。君たちの船に落ちてこなかったら、私は次元の狭間を永遠に彷徨う羽目になっていたのだから」
「それもそれで困るよな〜……」
エーヴェルさんが頭をかきながら言う。そこをウィンさんが押しのけて私の顔を見上げてきた。
「それよか、ライナスさんはちゃんと帰りたい、って思ったんですよね! それってすごく大事だと思います!」
「あ、ああ。きっと仲間たちなら、帰りを待っていてくれる気がしてな」
「なら絶対帰ってあげないと! きっとみんな待ってますよ、ライナスさんのこと!」
そう励まされるとなんだか本当に帰れるような気がして、心強くなる。さっきは心を揺らがされたのに、不思議なものだ。
「さて、ライナスの話も聞けたことだし、今度はデッキの点検だぞ〜」
のっそりとエーヴェルさんが立ち上がりサンドイッチの最後のひとかけらを口に放り込む。「うまいな」と口角が上がる様を見て、私もサンドイッチの味を思い出して口元を綻ばせてしまった。




