7-4 倉庫整理と昔話
早速、ライナスはオルテンシア号の臨時乗務員として働くことになった。帰投の間だけの限定的なものであるが、万年人手不足のオルテンシア号には都合がいい。
しかも勇者だけあって力仕事も強く、エーヴェルは大助かりだ。オルテンシア号の倉庫室での荷物整理もあっという間に終わってしまう。
「ライナス、お前がいてくれると助かるよ。勇者より倉庫整理の方が向いてるんじゃないか?」
「いや、こういうことが得意なのは訪れた町々で雑用じみた手伝いをたくさんしていたからなのだが……流石に勇者をそう簡単にやめることはできない。これは使命だからな」
「お堅いこと言うねぇ」
いつもの半分の時間で倉庫整理が終わったエーヴェルは、これで休憩時間が伸びるとばかりに喜んでいる。実際昼前から始めたのに終わってもまだ昼過ぎである。ライナスはといえば重たい鎧を脱いだ軽装でいるのだが、立派な剣は後生大事に腰にさしていた。
「そういえばその剣、大事なものみたいだが。邪魔にはならないのか?」
「これか? これは魔王を封じるために使った聖剣ディバインソードだ。この剣がある限り、無の魔王は顕現できずさらに力の行使もできないんだ」
真偽はともかくかなりの業物であることを宣うライナスにエーヴェルは口笛を吹きながら感心してみせる。どういう謂れがあろうとまず剣というだけで危なっかしい。できれば振り回さないで欲しいとさえエーヴェルは思っていた。
そこへウィンが小さなバスケットを持って二人のいる倉庫に現れる。
「二人とも〜、作業お疲れ様。クロードからまかないのサンドイッチもらってきたから食べて〜」
「お、飯か。ありがたいありがたい」
「これは……ありがとう、大切に食べさせていただいく」
エーヴェルとライナスは揃ってウィンに礼を述べると、バスケットを受け取り中のサインドイッチをあらためる。中にはハムとチーズのサンドイッチとベーコンレタスのサンドイッチが整然と並んでいた。
「お、うまそうだな……」
「君たちの世界は、私のいる世界とよく似ているのだな」
「その口ぶりからすると、似たものを見たり聞いたりしたことがあるんだな」
エーヴェルが指摘すると、ライナスはこくりと頷いてみせる。
「このサンドイッチだってそうだ。私の世界でも似たようなものを食べる」
「ライナスさんの世界にもサンドイッチってあるんですね、でも、クロードのサンドイッチは普通のよりおいしいですよ」
ほら、とサンドイッチを差し出すウィンにライナスはありがたくいただくことにした。手近な床に腰を下ろし、バスケットは荷物の上に置く。
サンドイッチをつまみ、一口食べる。綺麗に切り分けられたパンには溶かしたバターが内側に塗られ、ハムとチーズの味をより芳醇に感じさせる。一口食べて目を見開くライナスに、ウィンはしたり顔で笑ってみせた。
「ね、おいしいでしょ」
「これは……もしやクロードさんは昔宮廷調理人だったのでは?」
「お城に勤めてたって話は聞いていないけどなぁ」
「ずいぶん古い褒め方だな、ライナス。クロードの飯がうまいのは本当だが」
エーヴェルもサンドイッチを頬張りながらうんうんと頷いた。二人でサンドイッチを食べる中、ウィンがふと思いついたように言う。
「そういえば、ライナスさんの世界ってどんなところなんですか? もしかしたら話しているうちに思い出せるかもしれないですよ」
「そりゃ、確かに。たまにはいいこと思いつくな」
「たまにってなによ〜」
確かに名案だ、とエーヴェルも同調するが、ウィンは不服そうに鼻を鳴らした。だがエーヴェルは気にすることもなくライナスに話しかけた。
「てことでライナス。お前の世界の話を聞きたいんだが、いいか?」
「ああ。構わない。食べながらになってしまうが、聞いてもらえるだろうか」
「もちろんですよ! あたしいろんな世界の話聞くの好きだし」
「お前の身元がわかるならまあ、それに越したことはないしな」
ウィンとエーヴェルの二人の肯定を受け、ライナスは咳払いをして話し出す。
「私の故郷、と言っても今は名前を思い出せないが……そこはかつて豊富な魔力によって栄えた魔法文明があった地だった。魔法文明は今はなく、私たちは文明の遺物を使い、残った魔力で魔法を行使するありふれた日常を送っていたのだ。だが、いつからか文明の遺物である魔物が現れ、私は冒険者として魔物の討伐を生業として生きてきたのだ」
「剣と魔法の世界ってやつかな。じゃあ、飛行船なんかはまだずっと先だあ」
ウィンのいう通りだ、とライナスは頷く。ライナスが語るに、実際飛行船に乗るのも、こうした機械に乗る機会がそもそも初めてだという。
「この船が飛行船ということにもまだ慣れないでいるのだ。まさか空を駆ける船があるなど、魔法文明の遺産だってまだそこまで解明できていないというのに」
「俺たちの世界だと普通のことなんだけどな」
「やっぱ違いって出るんだねぇ」
ウィンとエーヴェルが二人して意外そうにする中、さらにライナスは話を続けていく。




