6-6 廃都ソルシエール
せっかくだから、とジェームズはクロードも誘い船を降りる。最初クロードは持ち場を離れて良いのかと戸惑ったが、アデーレは二つ返事で了承し、クロードはジェームズとともにソルシエールを回ってくることになった。
ウィンがずるいと言っていたが、そこは客であるジェームズの指名だからしかたないだろう。クロードはエプロンを解いてジェームズについていく。
ソルシエールの中央入口は案内所が設けられ、都市内を自由に回れるようになっている。パンフレットもあるようで、早速クロードも一部もらっていった。
街は円形になっており、外郭となる部分に歩廊があるようだ。
「こんな風になってしまっても、やっぱり懐かしいよ」
ジェームズは寂れてしまった街の中を歩きつつ、昔寄った店や歩いた道をなぞっていく。
りんごを買ったという果物屋は今はもぬけの空だが、ジェームズには今もそこに人がいるかのように感じられるのかもしれない。帽子を脱ぎ、懐かしそうに胸に手を当てる。在りし日と今を重ねているのだろう。クロードにも、似たようなことをした覚えがあった。
ひび割れた石畳を歩き、立ち入り禁止区域のギリギリまで小道に入る。まるで子供のように楽しむジェームズに、クロードもくすくすと笑いながらついていった。
「それで、歩廊はどこにあるんですか?」
ひとしきりジェームズが楽しんだ後にクロードはそれとなく聞いてみる。ジェームズはにこやかに笑って答えた。
「街の下の方だよ。ぐるりと街を回れるから、昔は近道でここを通っていた人も多かったみたいなんだ。船だって周りを回っていたって聞くよ」
「じゃあ、行ってみませんか? きっと手紙も開けられると思いますし」
クロードの提案にそうだね、と頷いたジェームズはゆっくりとした足取りで歩廊に続く道を歩き出した。
クロードもそれに付き従い、ジェームズと一緒に歩いていく。
階段を降りて歩廊の入り口まできた時、目の前に大きな立ち入り禁止の看板が立っていることに二人は気づいた。
「あれ? 立ち入り禁止?」
クロードが不思議がって首を傾げると、後ろから男性の声が聞こえてきた。
「お客さーん、そっちは立ち入り禁止ですよ〜!」
ジェームズも気付き振り返ると、走ってきた男性は軽く息を切らして立ち止まった。係員の腕章から見るに、この遺跡管理の案内人だろう。
「おや、こんにちは。この先には昔歩廊があったと思ったんだけど、何かあったのかな?」
ジェームズが尋ねると、係員はああ、と頷いて説明をしてくれた。
「ここから先にある歩廊は去年老朽化で崩落してしまって、もう見られないんだ。現存しているのも今見えている部分くらいで、ほとんど残ってないんだよ」
「えっ、歩廊が崩落……?!」
「遺跡管理もきちんとしていたんだけど、老朽化による劣化には耐えられなくてね。せっかくきてくれたのに申し訳ないよ」
他にも見て回れるところはあるから、と慰めのように係員は告げて去っていく。クロードは問題なくても、ジェームズには大有りだ。
「そうか……なくなってしまったのか……」
明らかに落胆した様子で、ジェームズは項垂れている。
「ジェームズさん……」
クロードは何か言ってやりたかったが、うまい言葉が浮かんでこない。どんな慰めも、上辺だけで滑っていきそうな感覚がある。
でも、せっかくここまできて何も収穫がないまま帰ることはできない。
何かできないか、そうクロードは考えた。もう崩落してしまった以上元に戻すとか、ある部分だけ歩くなんて芸当はできない。そうやって足を滑らせて空に落ちるなんてことがあったら目も当てられない。
どうしようか考えているうちに、ジェームズの言葉がふと脳裏をよぎった。
船だって周りを回っていた。
「それだ!」
思いついてぽん、と手を打ったクロードに、隣でしょげていたジェームズが目を瞬かせて驚いている。
「見つけました、ジェームズさん、空中歩廊を回っていく方法!」
「な、ほ、本当かい?」
「ちょっと準備が必要ですけど、僕から掛け合ってみますから、待っていてください!」
そしてクロードはろくに説明もしないままジェームズの手を引きオルテンシア号に戻っていく。
「クロード君、どういうことかちゃんと説明してくれないかい? なんのことだかまるでわからないよ」
目を回しながらついていくジェームズが、そう言ってクロードに説明を求める。
クロードはハッとして足を止めると、ジェームズを引っ張っていた手をゆるめた。
「す、すみません。一人合点しちゃって……」
「ふう、それで、どういうことなんだい?」
襟を正したジェームズにクロードはまっすぐにいう。
「オルテンシア号を使うんです。ジェームズさん言ってましたよね、この歩廊の周りに、船も飛んでいたって。だから、オルテンシアで歩廊の周りを飛べば、歩廊から見る景色と同じような景色が見られると思うんです」
なるほど、とジェームズは頷く。
船の行き交うことも多かった歩廊の周りならば、船で航行すれば歩廊周りの景色も十分堪能できるだろう。
良い考えだ。なるほど、と納得するジェームズに、クロードは言った。
「だから、僕、アデーレ……支配人に掛け合ってみます、きっとジェームズさんに歩廊の景色をお見せしますから!」




