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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
6.心残りの魔法

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6-4 魔法の手紙

「魔法……ですか?」


 クロードが聞けば、ジェームズはこくりと頷いて手紙を取る。


「ああ。魔法の力で開けられなくなっていて、ヒントになるのは思い出の景色を見せてという一文だけ。たぶん、旅の思い出になった場所を巡っていれば魔法が解けて中が見られると思うんだけどね」


 クロードも手紙を見やるが、一見するとただの手紙に見える。だが、ほんのりとあたたかな空気が感じられるところから普通の手紙ではないことがわかった。


「少し……温かい感じがしますね」

「そうかい? だとしたら、妻の魔力かもしれないな。君も魔力を感じ取れるようだ」

「はい。ちょっとだけ、魔法の心得もあるので」


 クロードがはにかみながら答えると、ジェームズは遺言状の方を開いてクロードに見せた。


「妻の遺言状にも、魔法の手紙のことは書いてなくてね。ほとんど私の憶測でしかないんだが……ふふ、だからこうして昔旅して歩いた場所を巡っているんだ」

「そうなんですね。それじゃあ、今回の目的地の他にも旅した場所があったんですか?」

「ああ、妻と巡った色んなところをね。ガラスの国や水の国、音楽の国にも行ったかな」


 オルテンシア号が行ったことのある場所から、まだクロードも知らない国の名前をジェームズは挙げていく。ジェームズは本当にいろんなところを旅したようだ。たくさんの世界を渡り歩き、妻とその景色を分かち合ったのだろう。旅を語るジェームズの表情は、懐かしさに溢れほのかに楽しそうだった。


「奥さんとの旅行、楽しかったんですね」


 クロードがその様子に口元を綻ばせて言うと、ジェームズは少し照れくさそうに視線を手紙に落とす。


「ああ、楽しかったさ。でも、どれも楽しくて思い出の景色だから、どれか一つを特別にできない。だから、今まで行ったどの国を訪れても魔法は解けなかった」


 封をされたままの手紙を見て、ジェームズは言った。


「だから、初心に立ち返って、妻と初めて行った場所に行こうと思うんだ。空に行きたいと言った妻の」

「それが、塔の世界……空の国、ということですか?」


 ジェームズの話にクロードが相槌を打った。


「空の国は妻がとても気に入った国で、いつかまた来たいと言っていた場所さ。旅の関係で二度目になったのはこんな後になってしまったけれど」


 後悔するようなジェームズの物言いに、クロードは少しやるせなくなる。だがここで引き下がるつもりはない。


「だったら、ここで思い切り奥さんに空の国を見せてあげればいいんです。そうしたら、奥さんも少しは報われるかもしれないし」

「そうだといいんだけどね、私にはまだわからないんだ」

「どうして……?」


 初めて行った景色にきっと奥さんだって喜ぶはずだとクロードは思う。だが、ジェームズはそう思っていないようだ。


「ここが、本当に妻の来たかった場所なのか、まだ自信がないんだ。妻の喜びそうなところに連れていっても、実は私の独りよがりじゃないか。そういう気持ちも出てきてしまうのさ」

「そう言うものなんでしょうか……僕は、そうだとは思わないですけど。だって、喜んでほしいって連れて行ってくれる場所でつまらなくする人は、いないような気がするんです」


 勝手な推測ですけど、と最後に付け加えてクロードはジェームズの言葉を待つ。


「君は優しい人だね」


 ふっと表情を緩めてジェームズが言った。


「優しいというか、人が好きなのかい? 人間に良い印象を持っていないと、そう言う言葉は出てこないような気がするな」


 ジェームズの言葉にクロードははにかむ。


「ありがとうございます。確かに、僕は人間……というか、みんなが好きなだけで、喜んだり楽しんだりしてるところを眺めるのが好きなだけです」

「結構なことじゃないか」


 ジェームズは感心したように声を上げる。


「年寄りになるとどうにも疑い深くなったり、人を信じられなくなったりするんだが、君はそうでもないんだね。人が好きで、人を信じている。素晴らしいことだと私は思うよ」


 若いからかな、とからかってくるジェームズにクロードはくすくすと笑いながら言った。


「そんな、確かにまだ若い方ですけど……ふふ、でもありがとうございます」


 クロードは人の営みを眺めるのが好きだ。人が賑やかに行き交う光景を眺めるのが好きだ。その中で仲間と語らったり、楽しい話をしたりする姿を輪に入らなくても眺めて過ごす時間が好きだった。


 だから、なのだと思う。人々に笑顔でいてほしい。いつも笑って、穏やかな気持ちでいてほしい。きっと人間は善いもので、その良さを見るのがクロードは好きなのだ。


「ジェームズさんの奥さんも、きっとジェームズさんが迷うより、楽しくしてくれてる方が嬉しいんだって、僕は思います」

「君を見ていると眩しくなるよ。本当に人の良いところが好きなんだね」

「よく周りからはお人よしって言われますけど」


 くすりと笑うクロードに、ジェームズもつられて笑みをこぼした。


「魔法の手紙、開けられるといいですね」

「ありがとう。なんだか、君に励まされたらできるような気がしてきたよ」


 そうして、だいぶ打ち解けたジェームズとクロードが話をしていると、船内放送が聞こえてくる。


「お客様、並びに乗務員に連絡いたします。当船はまもなく世界の狭間に突入、塔の世界に参ります。狭間を抜ける際は揺れますので、しっかりと椅子に腰掛けるようお願いします」


 アデーレの声がすらすらと放送から聞こえ、クロードはジェームズにしっかりと椅子に座るよう言うと、自身も深く椅子に腰掛けた。

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