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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
6.心残りの魔法

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6-2 塔の世界とシュニッツェル

 ジェームズの目指す世界は、塔の世界と呼ばれるところだ。その世界に陸地はなく、遙か天へと伸びる塔と空に浮かぶ都市が点在するだけだ。そこに、ジェームズはどうしても行かねばならなかった。

 妻を亡くして三年。ずっと探しているものがあった。世界中を旅してなお見つからないそれを、今度こそ見つけるためにジェームズは旅をする。

 まだ行っていない場所、そびえ立つ塔の世界に、きっとあるのだとジェームズは思っている。




「塔の世界っていうと、陸地がない世界だったよね?」


 ルームサービスの呼び鈴が鳴るまでの間、ウィンはエーヴェルに目的地のことを聞いていた。クロードは昼食の準備があるから、と厨房に向かってしまったので話相手がエーヴェルしかいないのだ。


 昼前のオルテンシア号は特にやることもなく乗務員は暇を持て余している。ウィンはルームサービスを使われないからずっと待機だし、エーヴェルも各種点検が終わって一段落したところだ。

 ウィンが塔の世界のことを聞けばエーヴェルはああ、と頷いて塔の世界の概要をざっくりとウィンに話して聞かせた。


「確か、塔しかない世界だったな。あとは空中都市が点在してるとか。塔っていうより空の国って感じだな」

「陸地がないのに塔が立ってるてのも、変な感じだよね。塔自体浮いてるとか?」

「いや、ちゃんと陸地はあるらしい。ただ、地面に近づく程強い嵐が吹き荒れてて並大抵のことじゃ辿り着けないって話だったな。塔の下層部もその嵐のせいである一定より下には降りられないとか言ってたな」

「へえ、じゃあ空の上に飛ぶしかできないよね。空中都市かぁ、なんか風情あっていいよね~」

「別に俺たちが観光するわけじゃないんだからな。ソルシエールは空中都市の中でも打ち捨てられた廃都だし、今は遺跡として観光名所になってるって話だぞ」


 ジェームズが指定した目的地、空中都市廃都ソルシエールは古い空中都市だ。老朽化により捨てられた街の一つだが、観光資源として再利用され今では観光地の一つとして塔の世界に貢献している。


「老後の楽しみで旅行するのも中々いい趣味だと思うなぁ、ま、あたしはずっと若くあるからいいんだけどね」

「何に対しての言い分なんだ、それ」


 エーヴェルが怪訝な顔をするがウィンは得意げにしている。そう話しているうちに伝声管でクロードから呼び出しがかかった。


「もしもし? 昼食ができたからジェームズさんに運んであげて」

「はーい。それじゃあいってきまーす」


 クロードに答えるとウィンは身だしなみを整えてスタッフルームを出ていく。

 厨房に入ると、ちょうどクロードがカートに料理を載せているところだった。


「ウィン、ありがとう。今日のメニューのメモはこれだから」

「はーい。なになに、子牛肉のシュニッツェルにモリーユソースがけのアスパラガス、うーんいい匂いするなぁ」

「せっかくだからね。おいしいもの食べてほしくて。デザートはフィグのババロアだから、時間を見て運んでね」

「はーい」


 ウィンは料理にクローシュをかけると、カートを押してジェームズの客室まで向かった。

 ノックして返事をもらい、カートを室内に押していく。

 クローシュを外し料理名を読み上げてからサーブすれば、ジェームズはどこか懐かしそうな目をしてシュニッツェルを眺めた。


「失礼いたします」


 ウィンが客室を後にし、厨房に戻っていく。


「どうだったかな?」


 反応が気になるクロードに、ウィンはジェームズの表情を思い出しながら言う。


「なんだか、すごい~っていうより懐かしそうな目をしてたかな。前にも食べたことある~みたいな顔っていうか」

「……懐かしい、か。ありがとう。そうだ、二人にもまかない作っておかないと」

「え、やった~!お肉使ったならあれがいい、細切れ肉のどんぶり!」

「はいはい。ちゃんと作るから待ってて」


 クロードは人の良さそうな顔で引き受けると、残った肉の細切れに下味を付け始めた。


 一方、ジェームズは出された料理を食べつつ、味の懐かしさに頬を緩めていた。


「ああ……あの時と同じだ。あの時も、モニカと一緒にこんな昼食をとっていたな……」


 肉の揚げ焼き加減も、ソースのコクも、あの日に戻ったかのように同じ味だ。


「同じシェフが作っているのだろうか……それとも……」


 ジェームズはそう呟きながらじっくりと料理を味わう。そんな中ふと見えたルームサービスのチラシが目に入る。

 話相手、厨房の人間も話相手に指名できるとある。

 だとしたら、話を聞いてみたい。料理のお礼もしたいところだ。

 ジェームズは食べかけのシュニッツェルに視線を落とし、また懐かしそうに笑った。

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