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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
6.心残りの魔法

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6-1 老紳士からの依頼

 依頼は一件。ジェームズという名の老人からだった。行き先は塔の世界、空中都市の一つ廃都ソルシエールまで、ということだった。

 アデーレは早々に依頼を引き受け、明日にでもフォレシアを発つと乗員に連絡をした。


「アデーレ。毎回そうだけどもうちょっとゆっくりでもいいんじゃない?」

「受けた依頼はすぐにこなしたい、っていう焦燥感、わからないかしらね」


 本社社長室。慌ただしく出発の準備が急がれる昼下がり、クロードは応接用のソファに腰を下ろしたままのんびりとアデーレに言う。


「焦燥感ほどでなくてもいいと思うけど。もうちょっとのんびりしてもみんな大丈夫だと思うけどなぁ」

「あなたのちょっとのんびりだとあっという間に三年くらい過ぎちゃうんだから。少し急ぎ足くらいの方がちょうどいいのよ」

「そういうものかなぁ」

「そういうものよ。さ、明日は出航だから、クロードも早く準備しなさいな」


 クロードはアデーレとは旧知の仲で、社内では一番付き合いの長い仲間だった。長年アデーレと付き合いがあるから、こうして社長室に不意に訪れることもある。時間の感覚がかなり人より長いため、後でが年単位になることなどざらだ。それほどまで時間の感覚が長いのは、ひとえに本人が不老の魔法使いだからだろう。


 魔法の成果のおかげかある一定の年齢から年を取らなくなったクロードは、魔法の才を発揮するでもなく調理師としてラピエス社に勤めている。魔法より料理の方がずっと喜ぶ人が多いから、とはクロードの弁だ。


 不意に訪れたとは言え、大抵やることがなくなって暇な時に来るのだから、のんびりといいつつ自分の準備は済ませているのだろう。

 アデーレはそんなクロードのことなど気にせず机の上の書類をまとめ、クロードに話しかける。


「そういえば、このお客様、前もうちの船に乗ったみたいよ」

「へえ、じゃあ二度目になるのかな」

「そうみたいね。話相手に指名されたら昔話に花が咲きそうだわ」

「指名されたいようなされたくないような……」

「ま、そこはルームサービスを使うかどうかだから、のんびり構えてましょ」

「そういうのんびりはあんまり僕得意じゃないよぉ」


 アデーレに逆にのんびりと言われ、クロードは逆に焦りを覚えてしまった。

 だが、焦りを覚えようとのんびり構えていようと出航の日はやってくる。アデーレが港まで依頼人を連れてくる予定だから、いつものようにエーヴェルは搭乗口で待機、他の乗員も持ち場についている。


 港に案内された依頼人、ジェームズは身なりを綺麗に整えた老紳士で、年の割に背筋もピンと立っている。持っているステッキも、杖としてではなく装飾品としての意味合いが強いように思えた。


 アデーレがトランクを持って搭乗口まで来ると、エーヴェルがすかさずトランクを運び入れ、ジェームズを迎え入れる。


「ようこそ、ジェームズ様。私乗務員のエーヴェルと申します。搭乗口はこちらですが、狭いのでお気を付けてくださいませ」

「ああ。丁寧にありがとう」


 ジェームズは被っていた帽子を取り会釈をすると、少しおぼつかない足取りで搭乗口を登っていった。

 エーヴェルが後に続き、アデーレがチェックをしながら搭乗口を閉める。エーヴェルが荷物を部屋に運んだ後、アデーレに代わり最終チェックを行いドアを閉めた。

 ジェームズがウィンから説明を聞く中でレアが船を動かし、港からオルテンシア号は旅立つ。最初海を滑るように走っていたオルテンシア号は、やがて坂を上るように高度を上げ、空を飛び始めていった。


 スタッフルームに戻ってきたウィンは目を輝かせてエーヴェルとクロードに言った。


「ねえ、今回のお客様すっごいの! あたしのことレディって!」

「ジェームズさん、だったっけか。立ち振る舞いは大分洗練されてたよな」


 うんうんとエーヴェルも頷き、身ぎれいさと紳士的な振る舞いを思い出す。


「こんなちんちくりんにもしっかりレディと扱うんだから大分できた紳士だな」

「あっ、ちんちくりんって言った!」


 カッとなって怒るウィンと舌を出して逃げるエーヴェルにを横目に、クロードはレシピ本から何を作るか考えていた。


「そうだね、シュニッツェルあたりがちょうどいいかも」

「クロード~、ねえエーヴェルに何か言ってやってよ~」

「え、うん。あんまりからかうとダメだよ?」

「あ、ああ……お前なんかちょっとぼんやりしてないか?」


 え、とクロードが首を傾げるが、エーヴェルは少し考えたあと、何でもないと前言を撤回した。


「ねえクロード。なにかあったの?」

「う~ん、献立に困ってるくらいかなぁ」

「献立ねぇ。普通乗る人に合わせてもう決めてるようなものじゃないの?」


 ウィンのもっともな言葉に、困ったようにクロードは笑う。


「なんていうか、その人の調子に合わせたものを食べてほしいからさ、直前まで決められないっていうか」

「そういうものなんだ、へぇ~」


 納得するウィンに、エーヴェルが頷いてみせる。^


「どっかの誰かさんよりずっと思慮深いってやつだな」

「それってエーヴェルのこと?」


 素でエーヴェルのことと答えたウィンにエーヴェルはずっこけながらもやれやれと肩を竦める。よくわかっていないウィンは訝しげに首を傾げたままどういうことか頭を巡らす。


 そして合点がいった後、またエーヴェルを追い回すのだった。

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