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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
5.オルテンシア号の休日

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5-10 父からの手紙

 トーマスが機関室から出てくると、ちょうどクロードとサラも搭乗口に辿りついていた。


「トーマス? いるの、トーマス?」


 サラの声にトーマスはあっと声を上げた後、気まずそうにドグの後ろに隠れる。


「坊主」


 ドグがトーマスに声をかける。トーマスはまだどうするか困っていたようだが、エーヴェルの元にクロードとサラが合流したところで、もう隠れようがなくなってしまう。


「お姉ちゃん……」

「トーマス! 心配したのよ、勝手にこんなところに忍び込んで……!」


 トーマスを心配していたのだろう、サラはトーマスに駆け寄りケガをしていないか確認する。それからドグに向かって深々と頭を下げた。


「本当に申し訳ありません。弟がご迷惑なことをしてしまって」

「いいや、お前さんがそんなに気にすることでもないさ。機関室には特に何もされなかったしな」

「ごめんなさい。ちょっと僕、船の方見てきますね」


 機関室にはという言葉に引っかかりを覚え、クロードは軽く断ってから急ぎ足で居住区の方に歩いて行った。恐らく厨房が気になるのだろう。そういえばトーマスに散らかされたまま放っておいたから、いくつか食材がダメになっているかもしれない。

 まあそこはクロードに任せるとして、ドグは後ろに隠れていたトーマスをサラに突き出す。


「わっ」

「坊主とちょっと話したくらいだ、悪いことはされなかったさ。多少なり、客室やら厨房はひっくり返されたがな」

「あー! お肉出しっぱなし!」


 遠くからクロードの声が響いてくる。さすがにバレるかとドグは眉を上げるが、どうしようもないものはどうしようもない。

 厨房のことは一旦置いておき、ドグはトーマスの背を叩きサラへ伝えるよう促す。


「っ……お、お姉ちゃん。僕、僕……」

「ごめんね、トーマス。父さんからの手紙、ちゃんと届いてたわ」

「えっ」


 言いあぐねるトーマスに、先にサラが持っていた手紙を手渡した。

 家族宛の手紙は長旅のせいか宛名がかすれたり封筒がくしゃくしゃになったりしており、決して綺麗な状態とは言えない。だが、それでも差出人の父の名前を見るだけでトーマスは満たされた心地になる。


「あなたが最初に読んでいいわ。ほら」

「う、うん」


 緊張しながらトーマスは父からの手紙を開け、便箋を広げた。

 父からの手紙には、自分の安否の他、家族の健康を願う文面が書かれていた。

 トーマスの父はコアト大陸の西岸に辿りつき、そこで落ち着いているようだった。そして、今回の探検が一段落したことと、これからフォレシアに帰るという旨も書かれていた。

 それを読んで、トーマスはぱあっと顔を明るくする。


「お父さん、帰ってくるんだ……!」


 サラもその手紙を一緒に読み、トーマスの読み取った文面を確かめる。そしてトーマスの頭を優しく撫でてやった。


「よかったわね、父さん帰ってくるわ、あなたが探しに行かなくても会えるのよ」

「うん、うん……!」


 嬉しそうに表情を綻ばせるトーマスに、ドグも安心した様子で胸をなで下ろした。


「こりゃ、手紙を書く手間がなくなっちまったな」

「うん。でもいいんだ、これからお父さんにもっと色んなこと話そうって決めたから! おじさんのおかげだよ!」

「帰ってきてほしい、だけじゃなかったんだな、伝えたかったこと」


 ドグが言えばトーマスはワクワクしながら答える。


「父さんが帰ってきたらって他に、父さんに何を言いたいんだろうってずっと考えてたんだ。僕、お父さんともっと遊びたいんだ、一緒にいたいんだって思って、それで手紙を読んでお父さんが帰ってくるってわかったら、それが全部本当になるかもしれないって思ってさ、そしたらどんどんワクワクしてきて……!」

「まあまあ落ち着け。昨日の今日で帰ってくるわけじゃないんだからな。言いたいことをまとめる時間はまだたくさんあるだろうしな」

「でも、何を伝えようかな、どれから伝えたらいいかな? 決められないよ」


 興奮して早口になるトーマスに、ドグはなだめながら言った。


「だったら、俺なりお前の姉さんなりに話してまとめればいいだろ。オルテンシアの整備でまだしばらくはドックにいるしな。まあ、年寄りでよけりゃ話相手にでもなってやるよ」

「おじさん、ほんと?!」


 トーマスが飛び上がって喜ぶ。正直ドグも悪い気がしなかったし、横で聞いていたサラも頭を下げて礼を述べてくれた。

 ずっと横で聞いていたエーヴェルはあまり話が見えてこないのか首を傾げいていたが、よい方向で話がまとまったのだということくらいはわかったようだ。


「まあ、なんだ。いい方向にまとまったならめでたしめでたしだ。よかったなドグ爺、話相手ができて」

「爺は余計だ。この青二才が」


 ドグが不満げに漏らすとサラとトーマスがくすくすと笑う。


「はいはい。じゃあ俺は厨房の様子でも見に行ってくるよ。どうせクロードのことだ、食材がもったいないからダメになる前に料理するだろうし。食べる相手がいないとあいつも寂しいだろ?」


 そう言ってエーヴェルは厨房にのろのろと歩き出していく。

 トーマスはそれを見送りながらも嬉しそうにドグに笑って見せた。


「ありがとう、おじさん。僕明日も遊びに来ていい?」

「好きにしろ。話はアデーレ……社長に通しておくから停泊してるときはいつでも来れるだろうよ」

 やった、と喜ぶ顔を見て、ドグもまんざらでもない気分だった。

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