5-8 父と手紙
「……僕のお父さんが探検家で、西の果てに行っちゃったのは知ってるでしょ?」
頷くドグに、トーマスは俯きながら続ける。
「お父さんからいつも届く手紙が、今月は届かなかったんだ。そんなこと初めてだったから、僕お父さんに何かあったに違いないって思ってさ。お父さんのところに行くって言ったら、お姉ちゃんに止められて……一人じゃ無理だ、手紙が来るのを待とうって。でも僕すぐ行きたくって」
「それで喧嘩したのか」
「……うん」
弱々しく頷くトーマスに、ドグはふん、と鼻を鳴らす。
「そりゃ、お前の姉ちゃんの言う通りももっともだな」
「おじさんも、お姉ちゃんの味方なの?」
「味方ってわけじゃねぇよ」
短くドグが返す。
「お前の話しか聞いてねぇからな。ちゃんと判断するにはお前の姉ちゃんの話も聞かないと公平じゃないだろうが」
「でも、僕嘘ついてないよ?」
「嘘をついてなくても、言葉の綾とか、伝え方とか、そういったもんで変わってくることもある。一方だけ見て判断するとか、そういうのは子供がすることだ」
「う……」
バッサリと切り捨てられ、トーマスは言葉を失う。だが、さすがにそこまで言うとドグも悪い気がしてきてフォローの言葉を考え出した。
「お前がどうとか言ってるわけじゃねぇよ。ただ、なんでもかんでもすぐに決められるほど世の中は単純じゃあないってことだ」
「うん……」
「それに、お前の話だけでもお前はお前の父さんを探しに行きたいくらい大事ダってことはわかる。そこをないがしろにしているつもりはねぇよ。寂しかったんだろ、父さんから手紙が来なくて」
「それは、そう、だけど……でも、本当はもっと違ってて」
「そりゃなんだ? 言えるなら言ってみな」
トーマスは少し迷った後、意を決して口を開く。
「本当は……お父さんに帰ってきてほしかったんだ」
トーマスは続ける。
「お父さんがもう遠くに行かなくっていいように、帰ってきてみんなで過ごせるようになってほしかったんだ」
トーマスはつっかえながらも思っていることをぽつぽつと言葉にし、話していく。
ドグはそれを黙って聞いていた。
「帰ってきて、僕と遊んでほしかったんだ。探検なんてしなくてよくって、僕と森で遊んでくれるだけでよかったのに。お姉ちゃんやお母さんと一緒に、ご飯を食べてくれるだけでよかったのに……」
「父さんは帰ってこない、か」
相づちのようにドグが呟く。トーマスは聞こえているのかいないのか、ぐっと声を詰まらせる。
「ほんとは探検なんてちょっとでいいのに、お父さんと一緒に森の知らない道を歩くだけでも、僕には立派な冒険だったんだ」
遠く家族を置いて世界の果てに行くよりも、自分の隣でささやかな発見をしてくれる方が、トーマスには大きなことだったのだ。
きっと、トーマスの父にもやりたいことがあるのだろう。本人がしたいこと、成し遂げたいことがあっての探検なのだろう。それを咎めるつもりはドグにはない。だが、息子はこうして寂しい思いをしている。辛い気持ちになっている。それを想像できない親だとは、ドグは思わない。
どちらの行動も尊重すれば、ぶつかり合うところで出てくるのが折り合いを付けることだろう。互いに譲歩し合い、互いに自分の要求を通し合って、落とし所を見つける。
子供にはまだ難しいだろうが、そういうこととて学んでいくべきだとドグは思う。
「なあ、坊主」
「うん……」
ドグが口を開く。
「お前、父さんに言いたいことはあるのか?」
「お父さんに……? やっぱり、帰ってきてほしいな」
「お前から手紙を送ったことはあるか?」
「え……いつもみんなで書いて送ってるけど、僕がほんとに思ってることは、書いてない、かも」
「だったら書いて送ってみな。お前の気持ちもわからずにただ帰ってきてほしいなんて思ってても、なにも解決しやしねぇぞ」
「でも、お父さんの手紙が届いてなくて……!」
「遅れてるなりなんなりあるだろ。父さんが好きなら、信じて待ってやるのも家族ってもんだ。それに、手紙はこっちからいつ送ってもいいだろ」
「それは、そうだけど……」
「だったらまずやってみるこった。何事も行動が伴わなきゃ起こったことにはならねぇからな」
「じゃあ、僕、お父さんに手紙を送ってもいいの?」
ああ、とトーマスの問いにドグが答える。
「別に父さんから手紙が届かないと、手紙を送れないって決まりがあるわけじゃねぇだろ」
そう言われて、トーマスは目を丸くする。
「確かに、そうかも。僕、手紙書かなくちゃ」
「おうおうその意気だ。そうやってお前からも話しかけていけば、お前の父さんだって話を聞いてくれるかもしれないだろ」
「うん!」
ずっと暗かったトーマスの表情がやっと明るくなる。ドグはそれを見て短いひげを満足げにさすった。




