5-5 トーマスの姉
昼下がりのカフェからレアが出ていけば、にこにこといつもと変わらぬ笑みを湛えたクロードがエーヴェルの元へ歩いて行くのが見えた。
早足でレアが追いかけるのと、クロードがエーヴェルの肩に手を置くタイミングが重なる。
「ねぇ、何してるの?」
「おわっ! く、クロード?」
エーヴェルはあからさまに動揺した様子でクロードに振り返った。クロードはにこやかな表情のまま首を傾げる。
「何してるの? 誰かに道案内?」
「えーとだな、これは……」
女性は訝しげにクロードとエーヴェルを見やる。
「ご友人ですか?」
怪しみながら聞いてくる女性にクロードは首肯してみせた。
「はい。そんなところです。ところで、何か聞かれてたみたいですけど、困ってることでもあったんでしょうか?」
「いえ、私は人探しをしているだけなんですが、この方にお茶に誘われて……」
ふーん、と笑みを絶やさないままクロードがエーヴェルに顔を向ける。
「な、なんだよ」
エーヴェルがクロードの視線に後ずされば、クロードは笑顔のまま言う。
「それでどうするつもりだったのかな? またツテがあるからって僕にご飯作らせるつもりだったの?」
「い、いや? お茶だけで切り上げるつもりだったというかなんというか」
それはそれで失礼ではないか。なんとなくそう思ったクロードだがはた迷惑な友人の対応はしっかりとせねばなるまい。
笑顔のまま肩に置いた手をクロードはギリギリと握る。エーヴェルの顔が青ざめる。そこへレアが追いついてきた。
「やれやれ、一体どういうことだい? エーヴェル、またクロードを怒らせたのかい?」
レアの言葉にエーヴェルは首を振って否定する。
「いや、こういうのって大体あいつが勝手に怒ってるだけで……」
「なに?」
「いや俺が悪かった」
一言で圧力をかけるクロードにすぐさまエーヴェルは謝る。いつものことかとレアは呆れ混じりにため息をついた。
「すまないね、うちの連中が迷惑かけて。用事も途中だったろうに、邪魔して悪かったよ」
そうしてレアが二人分まとめて女性に謝罪すると、女性も会釈して答える。
「いいえ、そんな。私は人探しをしていただけですし、大丈夫です。ところで、ついでに聞くのも失礼かもしれませんけど、ラピエス社はこの辺りでいいんですよね?」
思わぬところから自社の名前が出てきてレアはおや、と声を上げた。
「そりゃうちの会社なら、あのカフェの隣だけど……」
レアの言葉に女性は目を丸くして聞き返す。
「もしかして、ラピエス社の方ですか?」
「そうだけど、うちの会社に何か用かい?」
こくこくと女性は頷いてレアに言う。
「弟が、十歳くらいの男の子が来ませんでしたか? 私と同じ茶髪の」
「弟さんかい? あたいは見てないねぇ。二人は?」
レアがエーヴェルとクロードに聞けば、二人とも首を横に振って見せた。
「でも、うちの会社に来るなんて、なにか理由があるのかい?」
「はい」
用事もないのに旅行社に来る子供などあまり見ないから、レアは女性に事情を聞いてみることにした。
「弟と、トーマスと少し言い合いになってしまって。ムキになったあの子ったら、ラピエス社の飛行船に乗るんだ! って飛び出してしまったんです」
「弟さんと喧嘩かい。そりゃまあ、年も離れてるように見えるし行き違いもあるだろうね」
「はい。あ、申し遅れました、私はサラ。トーマスの姉です」
「トーマス君、よければ僕たちも探しましょうか? 友人が迷惑かけてしまいましたし、お詫びというのもなんですけど」
サラが名乗った後、クロードはエーヴェルの肩を掴んだまま人の良さそうな笑みを浮かべてサラに申し出る。サラはまあ、と驚いたが、会釈をして頷いて見せた。
「ええ、助かります。会社の方でしたら飛行船に乗るというのも見当が付くと思いますし……会社に寄ってないのなら、どこに行ったのかしら」
困ったようにサラが考え込む横で、エーヴェルがクロードの手を振りほどいて肩を落とした。かなり強い力で掴まれていたのかぐりぐりとエーヴェルは肩を回している。
「なら、港にあるうちのドックはどうだ? ちょうど航行から戻ってきてメンテ入ってたろ」
「ああ、そういえばそうだね。今はドグが整備してるから、来てないか聞いてみるのもありか」
エーヴェルの言葉にレアもそうだと頷き、サラにドックまで行ってみないか聞いてみる。サラはすぐに頷いてみせた。
「じゃあ、エーヴェル、クロード。後は任せたよ」
「おい、お前も行くんじゃないのか?」
レアが行かないことにエーヴェルが抗議すると、レアは親指でカフェの方を指してウィンの存在を示した。
「あの子一人でパフェ食べさせてるのも悪いだろ? それにちょっかいかけたのはエーヴェル、あんたなんだから。ちゃんと落とし前つけてきな」
「じゃあ僕はその間エーヴェルが変なことしないか見張っておくよ」
「クロードは……まあそうした方が腑に落ちるやり方ならいいけどね。コーヒー代は奢っておくから気が済むまで見張っといで」
「ありがとう、じゃあ行こうかエーヴェル」
「おい、俺の意思……いや行きます、行かせていいただきます」
レアとクロードの両名から圧力をかけられ、エーヴェルは竦み上がりながら答えた。




