5-4 一方その頃
「う、うう〜! 放せー!」
トーマスは必死に抵抗するが、ドグの力の前には手も足も出ない。暴れるトーマスを押さえつけ、ドグはトーマスを手近な縄でぐるぐる巻きにする。
「とりあえずはこれで逃げねぇな。よし、話を聞かせてもらおうじゃねぇか」
ぐるぐる巻きにしたトーマスを床に下ろし、ドグもどっかりと腰を下ろす。
「う〜!」
「そう癇癪を起こすな、まずはゆっくり話すとしようじゃねぇか」
「僕、僕いかなきゃなんないんだってば!」
「飛行船を使ってか?」
「そうだよ!」
トーマスは力強く頷いた。
「僕は、どうしても異世界に行かなきゃなんないんだい!」
そして縄でぐるぐる巻きにされてなお瞳に強い光を宿し、言う。
「絶対行くんだ、西の果てに!」
「西に? コアト大陸の方か」
フォレシア国の西には大海を挟んでコアト大陸という大陸がある。
百年前に発見され、獣人が多く独自の国家を築いているのが特徴だ。フォレシア国も国交を持っており、時折ラピエス社にもコアト大陸行きの依頼が舞い込むことがある。
ドグがコアト大陸のことを口に出すと、トーマスは強く頷く。
「そうだよ! コアト大陸の端、西の果てまで行くんだ!」
「また大層な話になってきたな。とりあえず、だ」
ドグはぐるぐる巻きにしたトーマスを俵のように担ぎ上げる。またトーマスが暴れるがドグの腕力の前では焼け石に水だった。
「お前を落ち着かせないといけねぇな。ちょっと付き合ってもらうぞ、坊主」
一方、ウィン、レア、クロードはラピエス本社隣のカフェに来ていた。大通りに面しているだけあって少し広めの店内だが、今は閑散としている。しかし落ち着いた音楽が蓄音機からかかっており、むしろ居心地の良さが増しているくらいだ。
ウィンがカフェの特別メニューのグレートパワフルパフェをにこにこしながら食べる横で、レアがケーキセットのチョコレートケーキをつついている。
クロードはコーヒーを前にニコニコしているだけで、側から見ると女子会のように見えなくもない。
ウィンは山のように大きなパフェのクリームをスプーンですくい、ペロリと食べてしまう。
「食べてみたかったんだよねここのパフェ〜。おっきくて食べきれないくらいの甘いものってやっぱ最高!」
「構わないけど、残さないでおくれよ? あたいそこまで面倒は見切れないからね」
「わかってるって。んふふ、おいしい〜」
レアが残さないよう釘を刺すが、ウィンは呑気にパフェを味わっている。隣に座るクロードは時折コーヒーを飲みながら二人の様子をほほえましく眺めるくらいだ。
「クロードも悪いね、付き合わせちゃって」
「いいよ。こうやってみんなのこと見てるの、僕の性に合ってるから」
クロードはウィンが飾りのマカロンを頬張るところを見てふふ、と微笑む。
「僕の厨房でもお菓子、作ろうかなぁ。さすがにクリームたっぷりにはいかないけど、でもプリンやマドレーヌくらいは作ってみたいよね」
「あ、それ作ってくれるならまかないに入れてほしいでーす」
「うーん、おやつの時間作れるか、アデーレに聞いてみる?」
ウィンが手を上げて要望を言い、クロードが真に受けて話し込む。レアはチョコレートケーキから視線を上げると、ふっと窓の外を見た。
「まったく、そんなあれこれ入れてたら行き詰まっちまうよ……って、おや、ありゃエーヴェルじゃないか」
「あれ? 寝る~っていってたんじゃないの?」
ウィンがレアの声にどこだどこだと窓の外を見やる。窓の外、ちょうど大通りの一角にエーヴェルがぶらついているのが見えた。きょろきょろと周りを見回して、誰かを探しているような素振りだ。
「何してるんだろ。またナンパかな」
「懲りない奴だねぇ」
ウィンが不思議そうに窓を見やり、レアが呆れたように肩を竦める。
「ほんと、ちょっかい出すのばっかり上手いんだから」
クロードが困ったように眉を下げ、三人でエーヴェルの様子を窺う。
大通りだけあって人通りも多いが、エーヴェルは声をかけそうにもない。暇で散歩でもしてるのかと三人が思っていれば、不意にエーヴェルが一人の茶髪の女性に声をかけた。年の頃は二十歳ほど、花柄のワンピース姿が印象的だ。
何か探しているのだろうか、落ち着かない様子の女性にエーヴェルが何事か話しかけている。
女性は逆にエーヴェルに何か問い返しているようで、エーヴェルが返答に困ったのか明後日の方を見ている。
「……ちょっと行ってくる」
それだけ言ってクロードは席を立つとカフェを出てエーヴェルの元まで歩いて行った。
「あらまあ」
「追いかけるかい?」
驚くウィンにレアが野次馬根性を見せる。ウィンはパフェとエーヴェルを見比べた後、首を横に振った。
「あたしは色気より食い気でーす。行くならお代は置いてって、払っておくから」




