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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
4.常明の国とごめんなさい

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4-9 星の海

 強い揺れが収まった後、オルテンシアは海上を航行していた。世界の狭間を抜けた先、辿り着いたのは星の海だ。


「黒いままですけど、星の海に着いたんですか?」


 しばらく航行するオルテンシア号からエリーが言った。


「ああ、もうとっくに星の海だよ。あたいはみんなに着いたこととか連絡しておくから、一足先に外に出てていいよ」


 レアはふう、と一息ついてからエリーに伝える。


「は、はいっ」


 エリーは緊張した面持ちで頷くと、伝声管で状況報告をするレアを背に操舵室のドアを開けた。


 そこには満点の星々がきらめき、深い藍色の空が広がっていた。こんな黒い青はエリーの記憶にはない。光っている星々だってエリーは見たことがないから、太陽が砕かれて無数に散りばめられているように見える。


「この空も黒い……それに光る粒々はなんだろう、雨粒が散って光ってるみたいな……」


 星の海、と呼ばれる場所、海だからきっと星は海にあるに違いない。エリーはデッキの端まで行って海を覗き込んだ。海も墨のように黒く、そして遠くからきらきらと光る粒が帯となって海の中を流れている。


「この帯が星かな……」

「ここじゃ光ってるものはみんな星さ」


 操舵室からレアが出てきながらいう。髪を払い歩いてきたレアは、エリーの隣に立って空を指した。


「ほら、この空に光ってる点がいくつもあるだろう? 全部星だよ」


 レアの説明にエリーは目を丸くする。


「全部星……?!」

 あの光っている粒も、一際強く輝く粒も、消え入りそうな瞬きを見せる粒も。全てが星だとレアは言う。


「全部まとめて星なんですか?」

「まとめて呼ぶならね。でも、あの一つ一つがれっきとした一つの星なんだよ」

「じゃあ、全部違う星ってことなんですね……どうしよう」

「ん? どういうことなんだい?」


 困って顔を青ざめさせるエリーにレアが聞く。エリーは泣きそうな目でレアを見上げて答えた。


「あの光ってるの全部が別々の星だったら、どれがお姉ちゃんかわからないよ……!」


 レアはそんな考え方をするエリーに驚いたが、しかしエリーは初めて星を見るのだ。そんな勘違いがあったっておかしくないだろう。


「あのどれかがあんたの姉さんなら、この空全体に呼びかけたらどうだい。きっとあんたの姉さんに届くはずさ」


 レアの言葉に、エリーはぎゅっと祈るように手を組んで空を見上げた。


「……お姉ちゃん、お姉ちゃん!」


 星は瞬くばかり、応えることなど決してない。だが、エリーは星に訴える。


「お姉ちゃんに伝えたいことがあるの! ずっと、ずっと言わなきゃって思ってて……!」


 突然いなくなってしまった家族だ、きっと言えなかったこともあるだろう、そう思い、レアは一歩引いた場所からエリーを眺めた。

 エリーは応えない星に構わず声を張り上げた。


「……ごめんなさい!」


 それが謝罪の言葉だったとしても、レアは動じない。


「もっと違うこと言った方がいいの、わかってるの。でも、お姉ちゃんに謝りたくて……」


 エリーは必死に訴える。


「お姉ちゃんがあの日私にちょっと嫌なこと言って、私むかついちゃって……お姉ちゃんのこと無視して……もうおはようもいってきますも言えないのに、言えばよかったのに言えなくて、ごめんなさい……!」

「エリー……」


 エリーの訴えに、思わずレアも声が漏れる。


「今思ったらずっとちっちゃくてどうでもいいことだったのに、遅刻するよって私のこと気にかけてくれただけだったのかもしれないのに……どうして、なんで私、お姉ちゃんのこと無視なんてしちゃったんだろう……! いつもみたいに帰る時には忘れて、お姉ちゃんと一緒に帰れると思ってたのに、また魔法教えてもらったり遊んだりしてもらえると思ったのに、当たり前のことが当たり前にくるって、すごいことだってなんで思わなかったんだろう……!」


 言って楽になるのならそれでいいだろう。それも気持ちの整理の付け方だ。エリーの本心は、エリーにしかわからないが。


「だから、お姉ちゃん……ごめんなさいが言いたかったの、お姉ちゃんがどうするかは私にはわからないけど、でも、でも……」


 きっと、私を許さないでください。

 そうエリーは言った。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん……」


 繰り返し姉を呼びながら、エリーは涙をこぼした。ぽろぽろと溢れる涙を拭って、ずっと姉を呼び続けていた。

 レアはエリーに寄り添うと、そっとその肩を抱いてやった。星の海に、小さな涙の星がぽつぽつと落ちる。ずっと堪えていた思いが溢れたのだろう。

 エリーはずっとずっと、小さな星をこぼしながら泣きじゃくっていた。


「あんたの姉さんに、届いてるといいね」


 静かにレアがエリーに声をかける。エリーはこくこくと頷きながら、空を見上げた。


 涙で滲んだ星は幾重にも光のヴェールを被ったように瞬き、輝き続けている。

 そのどれかが姉であったとしても、なかったとしても。

 エリーが星へ語った言葉は、エリーの中で生き続けるのだろう。

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