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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
4.常明の国とごめんなさい

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4-8 世界の狭間

 境界間航行モードに移行。バリア展開、出力七十パーセント。


「エリー、速度メーターの数値」

「九十を維持してます」

「よし、そのまま安定してるか見てて。揺れるから不安だったらあたいに掴まっときな」

「はい!」


 レア操るオルテンシア号は世界の狭間を飛び越えるべく航行していく。その横では助手のようにエリーが立ち、レアに指示された計器の数値を読み取っていた。

 計器の数値を安定させつつ、レアは巧みに舵をとりオルテンシア号を操舵していく。


 世界の狭間に入り、眼前に暗く嵐のように風が吹きすさぶ。雲は時折逆方向に散り散りに散っていき、大きな揺れが何度も操舵室を襲った。

 その度にエリーはふらつき、片手を伸ばしたレアにその手を掴まれる。

 危険な航行だ。だが、レアはそれをなんとも思っていない。


「世界の狭間って、なんで明るくないんですか?」


 レアの手に掴まったまま、エリーが問う。


「世界の狭間には光が差さないからね。暗くなるのさ」

「暗く……って、この空が黒くなってるってことですか」


 エリーが操舵室の窓が暗くなっていることをうまく認識できないのは、夜の概念がないからだろう。知っている夜は白夜だけ、日の沈まない明るい夜だ。辺りが暗くなることを初めて見たエリーは、計器を見る合間に狭間の暗さに目をみはる。


「すごい、黒くて何も見えない……」


 元々が日差しに適応しているから夜の暗さに慣れず、エリーは何も見えなる。

 操舵室にも灯りが点るが、それでも暗さが完全になくせたわけではない。


「この先に雲の壁があるね、横をすり抜けるよ」

「見えるんですか?」

「ハーフでもオークの目は健在だからね。暗いところでも目がきくのさ」

「すごい……!」


 エリーが感激する中、レアは舵を切って進行方向にある雲の壁を迂回する。

 グオン、と船体が大きく揺れ、エリーはレアにつかまって耐えた。

 雲の壁を越えた向こう、強い風が吹きつける中、オルテンシア号は狭間の半ばまできた。

 世界を完全に脱した向こうでは、ただ真っ暗な空間が果てしなく続くのみである。


「あれ、風が止んだ……?」

「常明の国を完全に抜けた証拠だね。あたいたちは今どの世界にも属さない場所にいるんだ」

「どこの世界でもない場所?」


 真っ暗な中空をオルテンシア号は滑るように進み、エリーは操舵室の窓から目を凝らしてみる。

 だがどこまでも真っ暗闇が続くばかりで、そこからは何も見ることができなかった。


「方位磁針は……この調子で良さそうだね。ここが世界の狭間。世界と世界を行き来するオルテンシアが行ける場所さ」


 レアは方位磁針の方角を確かめた後、エリーにそう説明する。

 だが、真っ暗で何も見えない空間は、逆に頼るものが何もなくて怖くも感じた。

 エリーはレアに掴まったままの手に力を込める、


「でも、ちょっと怖いです。なんだか飲み込まれそうで……」

「実際外には出られないよ。目的地に着くまでに勝手に外に出たら、世界の引力に引っ張られてどこともつかない世界に引きずり込まれるからね」


 さらっと恐ろしいことを言われ、エリーはすくみ上がる。だが、知らない世界に引かれていくのは少しロマンチックにも思えた。


「世界に引かれるって、なんだか不思議ですね」


 エリーの言葉に、レアが頷く。


「だろう? 世界に引かれるまま旅してみたくなる時もあるけどね。でも、この光景が見られて、あたいは結構満足してるんだ」

「あたいは地下育ちだけどさ、地上に出てみたら空があるだろ、その外にも違う世界があるだろ、広いって意味が本当に嬉しかったんだ。手足を伸ばしてもまだまだ届かない場所があるってことがね」

「地下は、窮屈だったんですか」

「あそこはあそこで安らげる場所だったよ。でもあたいはそれじゃあ満足できなかった、それだけだね」


 滑るように進んでいたオルテンシア号が、またぐらりと揺れ始める。目的の世界に到達したのだ。


「さて、そろそろ星の海に入るよ。また揺れるから掴まっときな」

「は、はい」


 レアはまた計器をいじり、世界に突入する準備を整える。エリーも計器を読み取り、数値をまたレアに伝えていった。


 再びオルテンシア号がグラグラと揺れ、強い風と雨が吹きつけ出した。

 常明の国を抜けた時と同様に激しい雨風にさらされるが、レアはそれに動じることもなく舵を取った。


 エリーはレアの横で立っていることしかできなかったが、こうして一緒に世界を越えることが、なぜだかとても誇らしく思えた。


 今から姉に会いにいくというのに、こんな気持ちになるのもおかしいと思う。だが、エリーはこの気持ちに嘘をつきたくなかった。胸が高鳴り、ソワソワしている。

 姉に会ったら、ちゃんと伝えられるだろうか。はやる気持ちと不安もないまぜになって、エリーの心はどんどん緊張していく。

 しかし、言わねばならない。エリーはちゃんと伝えると決めたのだ。どんな返事が返ってこようとも構わない。


 自分は言うのだ、姉に、マリーにたった一言でも、ごめんなさいと。

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