4-6 エリーの後悔
「あんたの姉さんに会いたい、ってどういうことだい?」
意図がつかめずレアが尋ねると、エリーはこくんと頷いて答える。
「お姉ちゃん、半年前に死んじゃって。私すごく悲しくて泣いてばかりだったんです。でもそうしたら、あるとき外から来た旅人さんにこう言われたんです。あなたのお姉さんは星になってあなたを見守ってるよって。でも私星がどんなものか知らなくて、聞いたら夜の空で光ってるんだよ、って言われて。だからお姉ちゃんに会いたくて、私どうしても伝えたいことがあって、だから星を見に行きたいんです」
「あんたの姉さんが亡くなったのにすまないね、辛いこと思い出させて」
「いいえ、私もちゃんと話さなきゃって思ってたから」
小さな憧れかと思ったが、故人を偲ぶためのことだったとは。レアは自分のことと重ねていたことに少し申し訳なくなる。
「なあ、エリー。よかったらあんたのこと、あたいにもっと話してくれないかい? 誰にも言えずに抱え込んでるのも辛いだろうし、事情を知ってる人間がそばにいるだけでも心強くなれるもんだと思うよ」
「でも、いいんですか? 私の話なんか」
「あんたの話だから聞きたいのさ。あたいは日がな一日こうして操舵室に篭ってるから、話し相手の一人でもいてくれた方が気分も安らぐってもんなんだよ。あたいの手伝い、してくれるかい?」
手伝い、と言い換えたレアにエリーは表情をぱあっと明るくさせる。
それから、エリーはたくさんのことをレアに話して聞かせた。
「お姉ちゃんはすごく賢くて、器用で、常明の国の魔法使いとしても魔法学校を首席で卒業するくらい立派な人だったんです。それに比べて私は魔法もイマイチだし、手先も不器用でおっちょこちょいだし……」
姉が、いつも羨ましくて、眩しくて、でも憧れていた。そうエリーは語った。
エリーの姉、マリーはエリーより四つ年上だったそうだ。魔法学校の成績トップ、首席で卒業見込みだったそうだ。そんなマリーは将来は国に仕える立派な魔法使いになると皆から噂されていた。だが、マリーはあっけなく死んでしまった。魔法学校である生徒の魔法の暴走を止めようとして身代わりになったのだ。マリーは虚空に飲み込まれ、戻ってくることはなかった。
学校もエリーをはじめとしたマリーの家族も、みな悲しんだ。空っぽの棺で済ませた葬儀は空虚なもので、エリーはずっと姉がどこかで生きているとおもっていた。葬儀の真っ只中に虚空から現れて、生きてましたと笑ってくれたならどれほど良かったろうか。いつものように朝食を食べにダイニングに行ったら、何食わぬ顔でトーストを頬張っていたら、どれほど良かったろうか。そうエリーが思えど思えど姉が帰ってくることはなかった。
誰かのせいにはしたくなかった。魔法を暴走させてしまった生徒は、ずっとエリーたちに頭を下げるばかりで、逆にエリーのほうが苦しくなってしまうほどだ。
両親はマリーのことを忘れでもするかのように仕事の予定を詰め込み、エリーとも顔を合わせる機会を減らしていった。今ではエリーは一人きりで過ごすことがほとんどだった。
そんな時に、星の話を聞いた。
マリーは星になってエリーを見ている。だとしたら、星をみにいけばマリーに会えるのではないか。そうエリーは思ったのだ。それが正しいことかどうかはわからない。心のどこかでただの方便だと諦めていることもしっていた。だとしても、諦めきれなかった。
もしかしたら、会えるかもしれない。たったそれだけの朧げな期待を抱え、エリーは外に行くことを決心した。そうして外に連れていってくれそうな人を探しているうちに、レアたちと出会ったという。
「そんな事情があったんだね……」
「私、どうしてもお姉ちゃんに会いたくて。伝えなきゃいけないことがあるんです」
「あんたの姉さんに、何を伝えたいんだい?」
レアの問いに、エリーは口ごもる。
「無理にとは言わないさ。でも言いたいことは言える時にしっかり言っておかないと、きっと後悔するだろうね」
「そう、ですよね……」
その言葉を聞いて、エリーは胸を押さえて何度も頷いていた。
「あたいはあんたみたいに悲しい別れがあったわけでも、憧れる誰かがいたわけでもない。でも、あんたが半年ずっと辛かったことくらいは、わかるつもりさ。痛みや辛さをなぞれなくても、その姿に心を痛めるくらいの気持ちは持ち合わせてる……大変だったね」
「……はい」
エリーは静かに唇を噛み、レアの言葉に頷いた。
ずっとずっと悔やんでいる。
言えなかったことを、見送ったことを、何もできなかったことを。
エリーは、ずっと後悔している。




