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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
4.常明の国とごめんなさい

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4-4 失敗続き

 ベッドメイクの仕方を教えたのだが、エリーの出来は散々なものだった。一生懸命さは伝わるし、ところどころ丁寧にやろうとしているのもウィンにはわかる。だが慣れないうちの下手さ加減では説明できないほどの不器用さがエリーにはあった。シーツの四隅を揃えようとしてずれ込み、シーツを伸ばした分だけ見えないところにしわが寄る。


 初めてなのだから、と言い聞かせても目に余るベッドの荒れ様だ。予備の部屋のベッドメイクで良かったのかもしれない。これでお客でも乗せようものならベッドが汚いとクレーム間違いなしだ。


「うーん……」

「あの、やっぱりダメ、ですか」

「いや、いやね、あたしだって最初は上手くできなかったししわも多かったよ? けどここまでひどくはなかったかなぁ……」


 しょんぼりするエリーにウィンは思わず本音を漏らしてしまう。それからはっと気づいてぶんぶんと首を振った。


「そ、そーじゃなくって! エリーちゃんはもしかすると別のことに向いてるかもって思っただけだから! ほら、何事にも適材適所ってあるでしょ!」

「そうでしょうか……」

「ここはあたしが全部直しておくから、ユヅルハさんのところでお手伝いしてきて! グラス磨きとか床掃除とか、そういうのなら得意かもしれないし!」

「……はい! じゃあ、いってきます!」


 ウィンに言われたエリーは気を取り直して展望室に向かう。中に入れば相変わらずグラスを磨くユヅルハの姿がありすぐにエリーがきたことに気づく。


「おや、どうなされました?」

「ウィン先輩にユヅルハさんを手伝ってきてとお願いされて……何か手伝えることはありませんか?」


 ユヅルハは珍しそうに目を瞬かせた後、感心した様子で頷く。


「殊勝な心がけです。であれば、展望室の掃除をお願いしましょうか」

「はい! がんばります」


 廊下にある掃除道具からモップとバケツを持ってきたエリーは、早速水を汲み、展望室に運ぶ。が、出航間近なこともあり大きく船が揺れ、エリーは盛大にバケツをひっくり返してしまった。


「ひゃあっ」


 展望室に舞う水しぶき。頭からそれをかぶったユヅルハ。当然磨いていたグラスも水浸しである。


「……」


 水浸しのまま黙りこくるユヅルハに、エリーは顔色を真っ青にして震え上がった。


「ご、ごめんなさい!」

「……いえ、いえ結構です。私のことはお構いなく。ここは私が片付けておきますので、あなたはエーヴェルのところでお手伝いをなさるとよいでしょう」


 遠回しに自分が必要ないと言われていう様にも感じ、エリーはとぼとぼと展望室を後にした。


 展望室から出ると、ちょうど案内されていない奥の方にエーヴェルがあるいていくのが見えた。小走りでエリーはその背中を追いかけ、声をかける。


「エーヴェルさん!」

「おや、これは小さなレディ。どうしたのかな?」


 エーヴェルが膝をついて見上げてくる中、エリーは必死に訴えた。


「あの、私、お手伝いをしてこいってウィン先輩に言われて……!」

「なるほどあのちんちくりん、自分の手に負えないとわかったな。でもお嬢さん、俺の仕事は文字通り力仕事だ。その小枝みたいな腕じゃ持てないものばかり扱うぞ?」

「で、でも、小さな荷物くらいは運べるかもしれないです!」


 暗に無理だといわれるがここで引き下がっていてはいけない。なんとかして力になって、この船に居場所を見つけなければ。そうしないと途中で引き返されて船から降ろされるかもしれない。そうしたら星を見に行く計画が水の泡だ。


 エーヴェルは言っても聞かないと踏んだのかエリーについてくるようにいう。

 エリーがついていくとそこは倉庫になっており、片付けかけの備品が山のように積み上がっていた。


「すごい荷物……」

「船の備品だよ。食器、グラスの替えから船の係留ロープまで、色々とな。君でも持てそうなのは……」


 説明しながらエーヴェルはひょいひょいと備品の上を渡り歩く。そして両手で抱えられる程度の小さな箱を小脇に抱えると、また軽い動作でエリーの元に降りてきた。


「この辺りなら、非力なお嬢さんでも持てるだろうね。大丈夫、壊れ物じゃないさ」

「は、はい。これを運べばいいんですね」

「ああ、クロードの厨房まで頼む」


 そうして渡された小包みを受け取るなりエリーは重さからぐいと腕が下がってしまう。


「お、重い……!」

「そりゃ、野菜がたんまり詰まってるからね。悪いがそれが一番軽い荷物なんだ。できなかったら、まあ……ウィンのところに戻るといいさ」


 エリーはなんとか両足で踏ん張って箱を持ち上げると、頑張って足を踏み出す。一歩、二歩、三歩。しかし次の足を踏み出すには至らずエリーは箱を床に下ろしてしまった。


「っ、もう一回……!」


 だがエリーは諦めるわけにはいかない。なんとか荷物を持ち上げようとするが、どうしても上手くいかない。何度も踏ん張る姿を見ていたエーヴェルはしかたなさそうにエリーの箱を持ち上げると、眉を下げてみせる。


「ごめんな、流石にお嬢さんにこんな力仕事を任せるわけにはいかないよ」

「ごめんなさい……」


 しょぼくれるエリーを励ますようにエーヴェルは言った。


「まあ気にしなくていいさ。最初なんて誰しもうまくできるわけじゃない。それより、いろいろ手伝って疲れたろう? そろそろデッキに出てもいい頃合いだろうから、風でも浴びて気分転換しておいで」


 エーヴェルなりの気遣いだったのだろうが、エリーにはどこにも必要とされていないように感じて心が冷たくなる。


「……はい」


 それでも、エリーは答えるだけで精一杯だった。

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