4-3 職場体験
翌日のオルテンシア号、スタッフルームの横にある更衣室。無事に職場体験の書類を片付けたエリーは三日間の航行のために仕事着に着替えていた。
仕立てはウィンのメイド服と同じ。白いエプロンをかけ、腕には職場体験の腕章を付ける。髪をまとめてヘッドドレスを付ければ立派にウィンの後輩に見えなくもない。
ルームサービスの服装に着替えを終えたエリーを、髪を整えてやったクロードが褒める。
「うん、これで大丈夫。似合ってるよエリーちゃん」
「明日からは自分で準備できないとダメなんだからね」
その横でウィンが腕組みをしているが、エリーは少し楽しげだ。
「メイドさんになったみたいです、これから三日間、よろしくお願いします!」
ぺこりとお辞儀をするエリーにウィンは少し得意げな顔をして言う。
「それじゃあ、職場体験のエリーにはあたしから船のことを教えてあげる。ちゃんと聞くように、後輩君!」
「はい、先輩!」
先輩と呼ばれ、にししと笑うウィンにくすりとクロードが笑っていてれば、レアがスタッフルームを覗きに来た。
「お、エリー。結構似合ってるじゃないか。あんた結構様になってるよ」
「そうですか? えへへ、ありがとうございます」
エリーが照れくさそうに笑い、ウィンやクロードもほほえましいと笑って見せた。
朝礼が始まる時刻になって、早速アデーレの元に全員が集う。
簡単な挨拶と業務連絡の後、アデーレはエリーを横に立たせて言った。
「今日から三日間の航行の間、職場体験をすることになったエリーさんです。といってもお客様はいないから、臨時のお手伝いとでも思ってもらって大丈夫よ。航行は常明の国から星の海への往復航行となります。エリーさん、みんなに自己紹介と挨拶、お願いできるかしら」
はい、と返事をしたエリーは一歩前に出てぺこりと頭を下げた。
「今日から職場体験をするエリーです。担当部署はルームサービス、でも他にも手伝えることは頑張ってやります、よろしくお願いします!」
一生懸命な挨拶にエーヴェルが口笛を吹きレアたちが拍手をする。
朝礼が終わった後は、早速ウィンが船内の見学をさせる手筈だ。
「後輩君、こっちこっち」
「はい、先輩」
まだ少ししか経っていないというのにすっかり先輩気取りでウィンはエリーを連れて船内を回る。
「ここが客室。泊まりがけで船に乗る人も多いから、ベッドメイクとかもするんだよ。客室は全部で二つ。基本的には一つしか使わないから、もう一つは予備みたいな部屋かな」
「一度に乗る人ってそんなにいないんですね」
「うちは大型客船じゃないからね。少数精鋭……って支配人が言ってた!」
「乗る人が精鋭なのかな……」
「うーん、まあいいや。じゃあ、後でベッドメイクの仕方から教えるから。次!」
「はい!」
次に訪れたのは船首にある展望室だ。いつもと同じようにカウンターではユヅルハがグラスを磨いている。
「ユヅルハさん、見学に来ました~」
「おや、かわいらしいお二人ですね。狭い場所ですがごゆっくり」
「今日から職場体験のエリーです、よろしくお願いします」
「ええ、私はユヅルハ、この展望室を任されております。わからないことがあれば何でも仰ってくださいませ」
はい、と返事をするエリーの横でウィンが自慢げに説明を始めた。
「ここが展望室。お客さんが休んだり食事したりするラウンジみたいなところかな。ユヅルハさんはいつもここでお客さんの相手をしたり飲み物を作ったりしてるんだ。後輩君にはまだ早いけど、カクテルとかたくさんあるんだよ」
「カクテル……! 大人の飲み物ですね!」
目をきらきらと輝かせるエリーを連れて、今度はデッキに出ていく。出航前で忙しいのか、デッキのロープ類をエーヴェルが片付けていた。
「おや、お嬢さんたち。ここら辺は散らかってるぞ~」
「見学だから邪魔はしないってば。あのヘラヘラしたのがエーヴェル。お客さんの荷物運びからこういう雑用まで何でもやる係」
「人を雑用係みたいに言うなって。れっきとした乗務員だ」
「まあ、あたし達はルームサービスだからこういう力仕事は全部エーヴェル任せなわけ。デッキの先が操舵室。レアがこの船の操舵を任されてるけど、あたしたちは入っちゃダメなんだって」
「レアさんが……?」
興味を引かれたのか少し歩み寄るエリーだったが、すぐにウィンが引き留める。
「あ、だめだめ。レアってば怒らせると怖いから。それによくわかんない計器だらけで行ってもつまんないって」
「そうかなぁ……」
「お嬢さん方。悪いがそろそろ出航だ。中に入ってないと危ないぞ」
エーヴェルが咳払いして二人に注意を促す。出航時刻が迫り、エーヴェルも係留していたロープ類をあらかた片付け終えたようだ。
「あ、もうそんな時間なんだ。じゃあ、ベッドメイクの仕方教えるから客室に戻ろ」
外に出ていると危ないから、とウィンはエリーを連れて客室に戻っていく。
エリーは時折操舵室の方を振り返りながらウィンの後をついていった。




