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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
4.常明の国とごめんなさい

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4-2 星が見たい

 見つけた公園のベンチに腰かけ、とりあえずは三人顔を合わせる。


「いきなりすみません。私、エリーっていいます」

「あたしはレア、こっちのちっちゃいのがウィンだよ。で、外に行きたいっていうのはどういう意味だい?」


 ちっちゃいの、と言われウィンがむくれるが、そこで話を遮るほどではないようだ。エリーに事情を聞こうとレアが尋ねれば、エリーはこくんと頷いて話し出す。


「私、星を見に行きたいんです。ここは常明の国だから、星が出るっていう夜がなくて。だから、この国の外に出て星を見に行きたいんです。どうしても行かなくちゃいけなくて……お願いします!」

「星を見に、ねぇ。それなら親御さんに国外旅行に連れていってもらえばいいんじゃないかい?」


 レアのもっともな意見にふるふるとエリーは首を振る。


「ダメなんです。両親は忙しくてそんな暇なくって、でも私一人で行かせるつもりはないって反対して。でも、私どうしても星が見たいんです!」

「ご両親が反対してるならきっとお金も出してくれないよね、うんうん、親っていつもそう!」


 ウィンが共感する中、レアは少し考えるようにして髪の毛先をくるくるといじった。


「そんなに星が見たいのかい?」

「はい、どうしても私、星を見に行かないといけないんです」


 エリーの必死な表情に、レアは初めて洞窟の外に出たいと言ったときのことを思い出していた。

 洞窟の奥、地下に当たる場所は広い空洞になっており、そこにオークの村があった。族長である父はレアの頼みに首を横に振った。


「オークの領分は地面の下、無限に広がる地下の世界だ。地上に出て行くなんて、父さんは反対だ」

「父さん、でもあたしは空の下に行ってみたいの!」

「ダメだ。第一お前の目は父さんたちと同じオークの目。光に敏感なんだ。外に出て日の光で目がつぶれたらどうするんだ」

「でも……!」


 洞窟から出たい。この包まれるような闇の心地よさも好きだけれど、それよりも何もかもはぎ取ったあの青の下に立ってみたい。

 たったそれだけで、母にだけ見送られて洞窟を出た日のことは、今でも鮮明に覚えている。


 きっかけなんてそんな小さくて大きな憧れだ。きっと、エリーも同じなのだろう。

 レアは頷いてエリーを見やる。


「よし。あてがあるから着いてきな。ちょっと紹介したい人がいるんだ」

「本当ですか!」

「え、ちょっとレア、もしかして支配人に取り次ぐつもり?」


 ウィンが驚いて問いただすと、あっさりとレアはウィンに首肯してみせる。


「え、え~! いいの? 支配人一週間は休暇出してくれたのに~」


 そこはかとなく休暇の終わりと新しい仕事の予感にウィンは震えた。だがレアは構わずエリーを連れて港の方に歩き出していく。

 ウィンはぺたんととがった耳を下げてとぼとぼとレアについていった。




「ほほう。星が見たいお客様と」

「そうなんだよ、あたいからも頼むからさ、この子に星を見せに行かせてくれないかい?」


 オルテンシア号支配人室。アデーレはレアの頼みを興味深そうに聞いていた。隣に立つエリーも頭を下げて頼み込んでいる。


「お願いします! 旅行でなくても、星を見せてくれるだけでいいんです! お代は少ししか払えないですけど、その分お手伝いしたり稼いだりしてお支払いします、どうかお願いします!」


 アデーレは設えられた机から古風な計算機を取り出すとパチパチと玉を弾いて代金の計算をする。


「うーん、お代の方は常明の国での価値に換算しましたら……こうですね」


 提示された金額にエリーの顔が青くなる。十四の子供が出すにはかなり厳しい額なのだろう。


「ですが、それはお客様としておもてなしする金額。あなたのようにこの船の手伝いをするという奇特な方でしたら、そうですね。往復三日の航行が可能です」


 青くなっていたエリーの表情がそれを聞いて少し明るくなる。


「ってことは、船を出してくれるんだね、アデーレ」


 レアの嬉しそうな問いにアデーレは頷き。人差し指を立てる。


「この際です。エリーさんにはラピエス社の職場体験という体で三日間過ごしてもらいましょう。それなら問題はありませんね?」


 アデーレの提案にレアとエリーは思わず手を合わせて喜ぶ。


「よかったじゃないか。これで星が見に行けるよ!」

「ありがとうございます、レアさん、アデーレさん!」

「ではエリーさん、こちらへ。一応あなたをお預かりする身になりますので、書類がありますよ」


 手続きがあるから、とアデーレはエリーに書類を見せる。レアには目配せででていい、と示していたから、レアは上機嫌で支配人室を出た。

 その矢先、どんよりとしたウィンがいるのだからレアはちょっと気まずくなってしまう。


「も~……支配人てばああいうお願いにめっぽう弱いの知ってるくせに~」


 恨めしくレアを見やるウィンにレアはぽんぽんとウィンの背中を撫でながら言った。


「ごめんごめん、つい昔のこと思い出してかけ合っちまってさ」

「休暇~」

「航行が終わったら奢るって」

「本社横の喫茶店、グレートパワフルパフェ」


 ウィンが言ったのはラピエス本社がある世界の喫茶店のメニューだ。スイーツというスイーツを盛りだくさんにした限定のパフェである。


「わかったわかったって、ちゃんと奢る」

「よし、オッケー。絶対だからね!」


 レアがしっかり約束すれば、ウィンはすぐにいつもの明るい調子に戻った。

 切りかえが早いのは助かるが、ウィンにはしばらく頭が上がらないな、と少しだけ謝るレアだった。

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