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【第1部完結】空想旅行社ラピエス【第2部開始】  作者: ことのはじめ
4.常明の国とごめんなさい

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4-1 夜のない国

 その国に夜はなかった。恵みの陽光が大地を照らし、夜さえ昼に変える常明の国。眩しすぎて、目眩がする。


 レアはその国に着いてからずっとサングラスをかけていた。地下暮らしが主だった片親の性質を継いでいる分、光には敏感なのだ。


 オルテンシア号操舵士のレア・オリンはハーフオークである。オークの大半は地下暮らしであることから、レアも生まれてからしばらくは地下で育った。母親は人間で、父親のオークに偶然助けられたところから親しくなり、レアを産んだという。豚のように尖った耳と濃い肌の色は受け継いだが、オークにとって美醜をわける幅広の鼻は受け継がなかった。多少なり鼻柱は大きいが、それだけだ。周りのオーク達からは醜いと罵られたが、父親だけは母に似た美しい面立ちだと誉めてくれた。


 そんなレアが空を見つけたのは、十になるころ、洞窟探検をしていた時のことだ。誰かが天井に開けた穴から、青い青い空が見えた。それが空だと知ったのは、母に聞いたからである。


「この洞窟の外には天井のない青い空というものが広がっていて、夜には洞窟に宝石を散りばめたような星という光が現れるのよ」


 母から聞かされたことが忘れられなくて、レアは毎日天井の穴を見に行った。空の他に、白い雲が流れる。たまに眩しい太陽が通りすぎ、レアは眩しさから天井の穴を見上げられない時もあった。

 モンスターが活発になる夜になって、天井の穴を見に行った時のことだ。穴の向こうには、ダイヤを散り散りにしたかのような星空が見えた。洞窟の暗さとは違う、開かれた闇と瞬く星に、レアは夢中になった。


 十五になり親の反対を押し切って洞窟の外に出たレアは、ただただ洞窟では知り得なかった天井も壁もない世界の広さに打ちのめされる。


 この空を自由に歩き回れたのなら。

 そんな夢を抱いて、行き着いた先がラピエス旅行社だった。


「ハーフオークってことは夜目がきくってことね。うん、十分よ。採用!」


 たったそれだけで、レアはラピエス旅行社の仕事を任された。




「ねえ、レア〜、でかけようよ! この国って夜になっても白夜、ってやつで日が沈まないんだって」

「わかってるって。ちょいと待ちな」


 レアはわざわざ操舵室まで自分を呼びにきたウィンをなだめながらサングラスを掛け直した。常明の国、夜のない国。次の航行までしばらく時間が空くからと停泊したのがこの国である。


 ラピエス社の面々は通年オルテンシア号で飛び回っているため、本社のある世界に戻ることは少ない。代わりに、訪れた先々の国や世界で休暇を取ることがままある。今回の休暇は白夜の美しいこの国になったというわけだ。


 レアはウィンに連れられるまま船を降りると、港を出て街に繰り出す。常明の国は常に昼のような明るさの国だから時間の感覚がつかみづらい。時計は午後五時を指していたが日のかげりなど見えず、ただ太陽がさんさんと照りつけていた。


「まったく、夕方なのに暗くなるそぶりすらないじゃないか」

「いいじゃんいいじゃん、ずっと遊んでられそうで」


 仕事着から一転可愛らしいワンピース姿のウィンはスカートの裾をひらひらと舞わせながら沈まない太陽を楽しむ。寝ることを忘れた街路樹は葉の色を紫に変え、レアの知っている緑の植物とは違った趣があった。


 確かに人の住む世界ではあるが、同時にレアはひどく嘘をつかれているような気持ちにもなる。道ゆく人々も日に透かされたように明るい髪色や薄い瞳の色をしており、ずっとこの終わらない昼の中を楽しんでいた。

 ウィンは街にある店を片っ端から見て周り、買えそうな小物漁りをする。

 小柄な分すぐに両手に持ちきれなくなると、レアは仕方ないとばかりに荷物を持ってやった。


「ありがと! やっぱレアは頼りになるなぁ、誰かさんと違って」

「エーヴェルとかクロードかい? まあ、あいつらよりも図体はあたいの方がでかいから頼りにされるのも悪くないけどね」

「へへ……」


 照れくさそうに笑う姿にレアはぽんぽんとウィンの頭を撫でてやった。

 そんな中、一人の少女が二人に近づいてきた。年は十三、四ほどだろうか。翡翠色の髪に日の光をそのまま写したような黄色い瞳が印象的だった。少女はレアとウィンの姿をまじまじと見つめてくる。


「おや、どうかしたのかい?」

「すみません、外から来た人ですか?」


 レアが話しかけると少女はそう問い返してきた。レアが頷くと、少女は頭を下げてお願いをしてくる。


「あの、私を外に連れて行ってくれませんか?!」


 いきなりそんなことを言われてレアもウィンも面食らってしまう。だが、少女は必死な様子で訴え続け、さすがにいきなり突っぱねることも少しかわいそうに思えてしまう。


「いきなりそう言われてもどういう事情かわからないよ。ここで話すのもなんだから、ちょっと適当なところで休みながら話を聞かせてくれないかい?」

「えっ、あ、はい!」


 レアの提案に少女は一瞬驚くが、すぐに頷いて座れる場所を探した。

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